第98話 闇夜の風の心を折る
とりあえず、王都へ乗り込む事にしたリューであったが、もう遅いので、出発は明日の朝にする事にし、一旦自宅に帰る事にした。
そこでリューは、王都から来た冒険者のパーティ 「闇夜の風」の襲撃を受ける事となった。
ソフィが王都に帰ってからはのんびりした日々を過ごしていたリューであったが、今日はなんとも忙しい日となってしまうのであった。
この街に来たばかりのはずの 「闇夜の風」であったが、リューの住居を既に探り当てていた。暗殺が得意だというなんとも怪しげなパーティだけあり、諜報能力は極めて優秀なのであった。
自宅アパートに続く通りを歩いているリュー。
すっかり陽は落ちたが、二つの月が上り街は明るい。その月の明かりによって、歩くリューの後ろに影ができている。
もう間もなくアパートに着くという頃……
なんと、その影の中から突如、黒ずくめの男が生えてきて、リューの背中にナイフを突き立てた。
もちろん、リューは危険予知によってそれを数秒前に察知していた。
どう対応するか?!
取りうる回避策はいくつかある。
次元障壁を張って受け止めるか?
転移で躱すか?
加速、あるいはレベルアップを使って振り返って対処するか?
時間を止めてしまうか?
単純に飛び退いて避けるという方法もある。
実はリューは取りうる
だが、戦闘時における一瞬の迷いは致命傷に繋がる事もある。咄嗟の対応方法を最適化しておく事は必須であろ。だが今はまだ、リューは自身の能力を色々試行錯誤している段階であった。
結局、リューはまったく動かなかった。
襲撃者の攻撃をそのまま背中に受けてしまったように見える。
判断に迷って対応が間に合わなかったのであろうか?
だが、攻撃者の手に握られていたナイフはリューに触れる前に姿を消し、襲撃者は手で背中を叩いただけとなっていた。
今回、リューは相手の武器を収納してしまう方法を選択したのだ。
慌てて襲撃者は影の中に退避しようとした。だが、武器が突然手の中から消えた事に戸惑って、一瞬の判断の遅れがあった。その遅れが、振り返ったリューに腕を掴ませる事になってしまった。
半分以上影の中に潜りつつあった襲撃者。だが、リューに手首を掴まれてそれ以上潜ることができない。上半身は地上に、下半身は地面(影)に埋まった状態である。
おそらく、リューと同じ、亜空間を操る時空魔法の一種なのであろう。リューの収納魔法とは、影を出入口としている点が異なっている。時空系の魔法を使う人間を、リューはこの世界で始めて見た。
リューは影の中に入ろうと必死でもがく襲撃者を、強力な腕力で強引に影から引っぱり出す。宙を舞った襲撃者はそのままの勢いで地面に激しく叩きつけた。
ぐえっ、というような悲鳴とともに、男は意識を失った。どうやら打たれ強くはないようである。
リューは神眼を使って周囲を索敵、仲間らしき者がもうひとり居る事を捉える。
リュー(隠れている男に向かって) 「出てこい。それとも仲間を見殺しにするのか?」
すると、木の影から男がでてきた。
男 「なるほど、雷王達を負かしたというのはどうやら嘘ではないようですね」
リュー 「面白い技を使うようだな……影移動とでも言うのか?」
影の中に潜る事ができる
男 「一瞬で影移動を破られてしまったのは初めてです。我々は影の一族、影に潜み影を操る一族です。」
リュー 「影がないと移動できないのか? だとしたら不便だな。」
男 「……影はどこにでも必ず存在する。メリットもあるのですよ?」
男は懐からナイフを取り出すと、素早く自分の影の中に投じた。ナイフは影を抜け、リューの背後にある影から飛び出て来る。
もちろんナイフが放たれる前に予知でその攻撃を読んでいたリューは、落ち着いて横に移動して躱す。
……躱したはずであった。
しかし、リューが移動しても、影はリューに追従して一緒に移動する。いくら移動したところで、自分の影からは逃れようがないのだ。
それに気づいたリューが慌てて振り返るが、ナイフはリューの腹部に刺さった。
男 「あっけなく終わりましたね。影は常に纏わりつく……小さなナイフですが、痺れ薬が塗ってあります。縛り上げて連れていきましょうかね」
だが、ナイフを受けたはずのリューは倒れる事なく、くるりと男の方を振り返った。体に刺さっているはずのナイフもどこにもない。
リュー 「返品だ」
男 「ぐっ……」
なくなったナイフは男の背中に突き刺さった。男の背後の空間からナイフが飛び出してきたのだ。
男は自分の背中に刺さったナイフを引き抜き、それが自分が投げたナイフであると気づく。
男 「馬鹿な……」
リューはナイフが体に刺さる寸前、咄嗟に亜空間の入口を開き、ナイフを“収納”してしまったのである。収納されたナイフは飛んできた勢いをそのまま保持している。収納の出口を男の背後に開けばそのナイフが射出されるのである。
刺さったナイフの傷は大した事はないが、塗ってあった痺れ薬が効いて男は倒れて痙攣し始めた。
倒れている二人を転移でダンジョンのお仕置き部屋に転移させたリュー。
こいつらは夕方に会ったパーティ 「闇夜の風」のメンバーだったはず。だが、確か闇夜の風は四人パーティだったはず。神眼で確認してみたが周囲には居ない、襲ってきたのは二人だけのようだ。
リューは神眼を使って街の中にいくつかある宿屋を探知してみると、すぐに残りの二人も見つかった。その二人もダンジョンの中に転移させると、自分もダンジョンの中に移動したのであった。
・
・
・
四人が転移させられたのはダンジョンの中の広い空間。リューがお仕置き用に以前用意しておいた部屋である。出入口はなく、魔物も出てこない。出入口がないため、転移が使えない限り脱出はできない。
リュー 「戦う気はないと言って相手を油断させておいて、闇討ちか。なかなか卑怯な作戦だな」
闇リーダー 「待て、俺は知らん、襲ったのは、コイツらが勝手にやったことだ」
リュー 「お前は、コイツらが襲うのを知っていて黙認していたんだろう? なら同罪だ。」
リューは神眼を発動し、闇夜の風のリーダーと呼ばれていた男の心を読んでいた。
闇女 「ど、どうする気? アタシは事務担当だから、襲撃とかとは関係ないわよ!」
闇リーダー 「お前、自分だけ……!」
リュー 「じゃぁ、連帯責任って事で」
闇女は青ざめた。
結局、それから何度も、闇夜の風のメンバーはリューの様々な戦闘オプションの実験・最適化に付き合わされる事となった。
もちろん、何度も殺されては生き返らせられて繰り返されたのである。
闇夜の風のメンバーの心が折れるのは、陽炎の烈傑よりも大分早かったが、それは仕方がないだろう。
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
王都に向かうリューは、その前に冒険者ギルドを脱退する
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます