第99話 リューに去られキャサリンショックを受ける
王都へ乗り込む事に決めたリュー。
力づくで捕らえて言う事を聞かせようとする奴は、捕まえて心を折るか……相手次第では殺す事も辞さないつもりである。
だが……翌朝、移動しようと思って気づいた。よく考えたら、王都がある場所をリューは知らなかったのだ。
リューの転移は、行ったことがない場所であっても移動は可能である。たとえ
……能力的には可能なのだが。現実問題として、存在しない場所には当然行きようがないし、どこへ行けばいいのか明確に認識していない場所にも行く事はできない。
例えば「ガリーザ王国の王都」のような地名による指定や「どこかの温泉」のような漠然とした指定の仕方はできないのである。
転移は、移動前に神眼によって移動先の状況を確認する必要がある。壁の中などに転移してしまわないためである。転移を使うためには、神眼のように移動先の状況を確認する能力は必須なのである。
神眼の能力は、全開放すればこの
だが、目的の場所がどこにあるのか知らなければ、例えばただ漠然と世界を探知してどこかに街を発見したとしても、それが王都なのか、王都がどんな場所なのか知らなければ判別が付かない。
片端から発見した街に転移で行って確認するという方法では、正解を引くまで、世界中の街を調べなければならなくなる。
(リューはソフィの魔力を知っているので、それを頼りに探すという方法もあったのだが、この時点ではその方法を思いつかなかったのだ。)
地図など見ながらおよその範囲を特定して探知する必要がある。せめて、どちらの方角にあるのかすらも知らないのでは、探すのに時間が掛かリ過ぎる。
そこで、王都とミムルの位置関係が分かる地図が見たいと思うリュー。しかし、地図というのはこの世界では戦略的情報となるため管理が厳しく、一般にはなかなか出回っていないのである。
一番確実なのは、行った事がある人間に聞く事であるが……。
王都について一番よく知っているのは誰か……?
行った事がある人間、例えば領主? 領主ならば地図を持っているだろうが、機密事項を自分に見せてくれるかどうかは分からない。それほど領主とリューの間に信頼関係はない、むしろ、立場上は敵対しつつあるような気さえする。脅せば見せてくれるかも知れないが、リューもそこまで無法者になる気はない。
領主の心を読んで場所を知る事もできるが、相手に地図を思い浮かべさせる必要がある。思い浮かべていない状態で深層の記憶を探る事も不可能ではないのだが、そのためには領主の心の中を蹂躙するかのようにすべて調べ尽くす必要があるだろう。
そこまで人の心を深く覗くのは、リューにとっても精神的負担があるのだ。人の心を覗くなど、なるべくしたくないのである。
他に、王都に行ったことがある人間というと……
キャサリンはギルドマスターなのだから、行ったことがあるはず。
いや、王都まで頻繁に行く機会が一番多いのは「商人」か。商業ギルドの人間に訊くのが良いかも知れない。
そう考えたリューは商業ギルドのギルドマスターのエイルに会いに行く事にした。最近商業ギルドにはあまり顔を出していなかったリューであったが、エイルはリューを歓迎してくれた。
商業ギルドは仕事上、簡易な地図は色々とあるのだが、商人達による手書きのメモの集積のような感じであった。
リューはエイルにおよその行き方を紙に書いてもらった。同時に神眼を発動してエイルの心に浮かんでいた道中と王都の様子のイメージを読み取ったので、かなり具体的なイメージは掴めた。
後は、落ち着いて探知して街を特定できれば転移が可能になるだろう。
だが、出かける前にもう一つやることがある。リューは冒険者ギルドに向かった。
* * * *
冒険者ギルドの受付に着くとリューは、冒険者を辞める旨を伝えたのだった。
それを聞いた受付嬢レイラは驚き、手続きをせずに慌ててキャサリンを呼びにいってしまった。
リューとしては淡々と冒険者カードを返却して終了してほしかったのだが、仕方がない。結局、ギルマスの執務室に通されて、キャサリンと面談となった。
リュー 「冒険者を辞めるというのに、いちいちギルマスの許可は必要ないんじゃないのか? 働きたいと言う人間を雇うかどうかは審査も必要だろうが、やりたくないという人間を無理やり働かせる事はできないだろう?」
キャサリン 「どっ、どうしていきなり辞めるなんて言い出したの?!」
リュー 「よくよく考えたら、俺にとって、冒険者ギルドに所属しているメリットが、ほとんどないからだな」
キャサリン 「で、でも、ほら、ギルドカードを持っていれば身分証明書になるし。他の街に行った時にも色々便利よ?」
リュー 「商業ギルドのカードがあるから、冒険者ギルドのカードはなくても大丈夫だ」
キャサリン 「そ、素材の買取とか」
リュー 「商業ギルドのほうが高く買ってくれるだろ?」
キャサリン 「えっと、ほら、ダンジョンの情報の提供とか」
リュー 「ダンジョンの情報などは、俺が自分で潜ったほうが圧倒的に効率が良いし情報も確かだ」
キャサリン 「冒険者として先輩に学ぶとか、後進の育成とか……」
リュー 「俺より弱い冒険者しか居ないのに、俺に学ぶ事があるのか? 育成にしたって、俺のやり方は他の冒険者の参考にならんだろ」
キャサリン 「ほ、他にも、ギルドに回ってくる情報とか色々あるわ、リューを捕らえるよう依頼が出た情報とか、教えてあげたじゃない!」
リュー 「それさ……。理不尽な理由で冒険者を捕らえろって依頼を、“冒険者ギルド” が受けてしまうわけだ。それって、ギルドが冒険者を守る気がないって事だろう? 情報をくれたキャサリンには個人的には感謝しているが、冒険者ギルドの姿勢としてはどうなんだ?」
キャサリン 「う……それは……。
でも、冒険者ギルドを辞めて、これからどうするの?」
リュー 「とりあえず、王都で俺を捕らえろって指示を出した奴を〆てくるつもりだ」
キャサリン 「〆てって、それ、王族や貴族を相手にする事になるんじゃ……?」
リュー 「ほらな、知ってたわけだろ? ギルドに依頼を出した人間が居るわけだが、それが誰なのか、依頼を受けたギルドは当然知ってるわけだよな」
キャサリン 「そ、それは……、依頼者の情報は無闇に公開できないルールがあるから……というか! あたしは依頼者が誰かまでは知らないわよ! 本当よ? 貴族か王族というのは単なる推測だから」
リュー 「そうだろうな、だから、まずは王都のギルドに行って、そこのギルマスから話を聞く事にしようと思ってな」
キャサリン 「王都のギルドに行くなら、やっぱり冒険者カードはあったほうがいいんじゃ」
リュー 「役にたたんだろ? 敵対する可能性が高いんだから。俺を捕えようとした冒険者ギルドと冒険者達だぞ?」
さすがのキャサリンも、とうとう何も言えなくなってしまった。
それに……とリューは続ける。
リュー 「俺は王都に行って、原因をぶち壊してくるつもりだが、最悪の場合、王都の王族・貴族、あるいは王都そのものを壊滅させるかも知れん。俺が冒険者のままでいれば、その責任を冒険者ギルドも問われる事になるかも知れんが良いのか?」
結局、キャサリンはリューの冒険者辞職を認めた。事が落ち着いたらまた冒険者に復帰する事を検討してくれと言われたが、まぁそれはその時に考えると答えたリューであった。
落ち込んだ様子のキャサリンであったが、なんとなく、ずっと都合よく使われていただけのように感じていたリューは、同情する気にはあまりなれなかった。
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次回予告
王都に向かったリューをSランク冒険者が狙う
乞うご期待!
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