第96話 もう勘弁してくれぇぇぇ

鳳王は魔法剣士である。魔法剣士にもいろいろなタイプが居るのだが、鳳王は魔法の効果を剣に付与する事で、剣の攻撃力を増す事ができるというタイプである。

 

リューが振り回して見せている、見るからに重そうな大剣とまともに打ち合ったら、鳳王の剣が負けてしまう可能性が高い。そこで早速、剣に魔法を付与して強化する事にした。鳳王の剣が炎を纏う。

 

超高熱の炎で強化した剣は、鋼鉄をも溶断してしまう事ができる。先手必勝、狙うはリューの大剣である、一気に武器を破壊して、できた隙を突く作戦であった。

 

鳳王が踏み込み、剣を振り下ろしてくる。リューは大剣を横に構えてそれを受け止める姿勢。

 

狙い通り! 剣を受け止めたなら、そのまま大剣を溶断し、リューを斬ってしまえばよい。

 

だが、鳳王の剣がリューの剣に触れんとしたその瞬間、リューが半歩横に移動しながら剣を後ろに引いた。

 

鳳王の剣はリューの大剣に触れたものの、そのまま滑るように後ろに流され空振りに終わってしまった。そして、そこからリューの反撃が来る。後ろに引かれたリューの大剣が折返し鳳王の首めがけて襲いかかってきたのである。

 

水平に、恐ろしい迫力で振られる大剣。空振りしてしまい前のめりのの姿勢の鳳王は、下がって攻撃を躱す事はできない。かと言って、自分の空振りした剣はそのまま地面に突き刺さってしまっているため、剣を引き戻して受け止めるのも間に合わない。

 

鳳王 「うぉぉぉぉぉ!」

 

必死でしゃがみ込んだ鳳王、リューの剣が鳳王の頭上を恐ろしい風切り音と共に通過していく。頭頂部の髪が無数に斬り飛ばされたが、辛うじて剣を躱す事ができた鳳王であった。

 

リュー 「初めての実戦投入なんで、いまいち手に馴染んでないなぁ……結構素振りはやったんだけどな」

 

恐ろしく慣れた剣捌きであるように鳳王には思えたのだが、あれでイマイチという発言に青くなる。

 

鳳王 「これでFランクなどと、ギルドには苦情を言わなければならんだろう……!」

 

リュー 「右肩だ。受け止められるか?」

 

リューは鳳王の右肩に剣を向けた後、その大剣を大上段に振りかぶる。

 

慌てて剣を構える鳳王。

 

だが次の瞬間、リューの剣は鳳王の右下の地面に刺さり、鳳王の右腕は根本から斬り落とされていた。

 

小細工はなし、特殊能力も使っていない、ただ素直に振り下ろされただけであるが、リューの全力で放たれたその剣撃は肉眼で捉えられない速度で、まったく反応できなかった鳳王の肩を斬り飛ばしたのだ。

 

鳳王 「う……ぎゃあああぁぁぁぁ」

 

一瞬遅れて鳳王が悲鳴をあげた。

 

肩口から吹き出す血。慌てて聖王が駆け寄り治癒魔法で治療する。

 

……なかなか優秀な僧侶職である、斬り飛ばされた腕を再び接合して見せた。

 

後ろでは、聖王に既に治療してもらった牙王が息を吹き替えしている。

 

リュー 「全員同時でもいいぞ? こちらも全力を出させてもらうがな」

 

雷王 「舐めていてはこちらが殺されかねんようだ。悪いがそうさせてもらおう。牙王と鳳王は下がっていろ。祥王、聖王、三人がかりでいくぞ!」

 

神眼は常時発動したままであるが、この段階までリューの時空魔法は封印したままである。だが、Aランクの冒険者複数を同時に相手にするのであれば念の為と、リューは能力を解放する事にした。

 

ただし、今回は時空魔法を解禁せず、自身のレベルを上昇させる方法をとってみた。

 

戦闘でこれを使うのは剣聖レイナードと戦った時以来である。もう少しこの能力の検証もしてみたいと思っていたリューには格好の相手であったのだ。

 

リューのレベルが3を超え、4、そして5まで上昇していく。これは推定で、人間のレベルでいう250~300程度になろうか。

 

鑑定した雷王のレベルが80であったので、三倍以上のレベル差となる。三人のレベルを合計しても180を超えるくらい。これならば負ける事はないだろう。

 

聖王は後方に下がり、支援魔法を雷王に掛けた。雷王の攻撃力・防御力・速度のステータスが上昇していく。治療だけでなくバフもこなす、実に優秀な僧侶である。

 

祥王は聖王と同じく後ろに下がり、魔法の詠唱を始めた。と思ったらもう終わっていた。呪文短縮のスキルも持っているようだ。大量の火矢ファイアーアローが上空からリューを襲う。

 

だがリューは逃げる事なく、自分に向かって降り注ぐ火矢をすべて“収納”してしまう。魔法は亜空間に閉じ込めておけば、リューの好きな時に解放して使う事ができるので、なるべく収納で集めておくようにしているのである。(ただ、使う事がほとんどないので、貯まる一方なのであったが。)

 

魔法が消えた事で祥王はギョッとした顔をしていた。その表情にリューは気を取られたが、その瞬間、リューの危険予知が襲い来る剣を察知し慌てて飛び退く。一瞬の隙をついて雷王が一気にリューに肉迫ししていたのだ。

 

連携も良い、なかなか優秀なパーティだ、さすがパーティとしてはSランクというだけの事はある。

 

リュー 「だが……」

 

リューが大剣を構え、腰を落とす。次の瞬間、見えないほど高速で振られたリューの大剣が雷王の腕を斬り飛ばしていた。

 

祥王 「雷王!」

 

思わず叫んだ祥王は、リューと目があった気がしたのだが、次の瞬間には祥王と聖王の背後にリューが居て、ふたりとも腕を斬り落とされていた。

 

雷王 「グ……オォ……、信じられん……」

 

先程は、鳳王の腕を聖王が繋ぎ合わせたが、今度はその聖王自身が斬られてしまっているため、治療ができない。

 

慌てて牙王と鳳王がポーションを取り出すが、その二人に向かってリューが剣を構え、近づいていく。

 

鳳王 「待て! 我々の負けだ!」

 

牙王 「ちくしょー、認めたくねぇが認めざるを得ねぇ」

 

リュー 「いや……ダメだよ、なんか消化不良だろ」

 

陽炎の烈傑 「「「「「へ?」」」」」

 

リューが手を翳すと、五人のカラダが淡い光に包まれ、怪我が全て治っていた。戦いを始める前の状態までリューが巻き戻したのである。

 

雷王 「これは……?」

 

聖王 「信じられない、こんな治癒魔法、人間じゃない……」

 

リュー 「さぁ、もう一度だ。次は全員同時に掛かってこい。俺ももう少し本気を出す」

 

リューはそう言うと、大剣を収納し、魔剣フラガラッハを取り出した。

 

リュー 「どうした? それとも、Sランクパーティはハッタリだったと認めるのか?」

 

牙王 「てめえ、後悔するなよ?」

 

人一倍負けん気の強い牙王がリューの煽りに簡単に乗せられて戦闘体制に入る。


雷王 「お、おい待て!」


雷王達も慌てて陣形を整えた。

 

リューは今度はレベルは通常レベル1に戻し、時空魔法を解禁する。加速アクセルである。

 

 

 

 

実はリューは、記憶が戻って能力に目覚めてから、ずっと悩みがあった。自身の能力を検証し、その使い方を最適化する努力をしてきたが、どうも自身の能力が強すぎるのである。

 

身体能力、神眼、転移、時間操作、収納、それぞれ一つだけで世界最強が名乗れる能力であろうが、逆に言えば、引き出しが多すぎて、器用貧乏のような状態に陥っているのである。

 

そのため、リューは戦闘の際、咄嗟に何を選択するべきか、いつも手探りで迷ってしまう状態なのであった。

 

戦闘を繰り返し、能力を検証し、戦い方を最適化させていきたい。だが、リューの能力をまともにぶつけられる相手というのもなかなか居ないのである。

 

実験台にされる陽炎の烈傑は溜まったものではないが、リューを捕らえに来たのだから、仕方がないので諦めて付き合ってもらおう。

 

その代わり、命は取らない。そもそも、相手も自分の命までは取る気がないようなのであるから、相手を殺してしまうのはリューのルールに反する。

 

元通り回復した雷王達は、陣形を整え、自身の最大の能力を最初から発揮し全力でリューに挑んだが……

 

あっという間に敗北し、五体をバラバラに切り飛ばされてしまった。

 

だが、すぐ、リューの魔法で元の状態に巻き戻される。

 

そして、再び対戦を要求される。

 

だが、三度目の結果はもっと酷かった。リューの加速能力がさらに強力に発動し、0.1秒後には全員五体バラバラになっていたのである。

 

四度目は……

 

雷王達にはもう何が起きてるのか分からなかった。

 

何もする事なく、構えた瞬間には全員の手足がバラバラになっていたからである。

 

分からないのは当然であった。リューの加速がついに時間停止に至り、0秒後にバラバラに斬られていたのである……

 

五度目……

 

…はなかった。

 

雷王達が戦意喪失してしまったためである。

 

雷王 「も、もう勘弁してくれぇぇぇ!!」

 

四度斬り殺され、四度復活させられた雷王は思わず叫んでいた。

 

他のメンバーも全員涙目で許しを乞うて来た。

 

もうちょっと試したい事もあったのだが、色々試す事ができて収穫はあったので、このくらいで満足する事にしたリューであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

暗殺が得意な冒険者がリューを狙う

 

乞うご期待!

 

 

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