第204話 リューなら一人で大丈夫

激しい羽音がして、無数のデビルホーネットが森の中から現れる。


デビルホーネットは大きい個体では体長2m以上にもなるスズメ蜂に似たモンスターである。尻には猛毒の針をもっている。刺されれるどころか、毒液を掛けられただけで即死である。

 

まるで攻撃ヘリのように高速で迫ってくる巨大なスズメ蜂から逃げ切る事は難しい。逃げ惑う女子供。だが、逃げ足の遅い子供を連れた女性が蜂に追いつかれてしまう……

 

その時、襲い来る蜂を火球の弾幕が食い止めた。

 

火球を放ったのは “一人ギルド出張所” スーザンであった。スーザンは自主的に避難する女子供の護衛を買って出ていたのだ。

 

スーザン 「今のうちよ! はやく逃げて!」

 

スーザンは得意の火球のマシンガンで蜂を攻撃する。スーザンの火球は、一発一発の威力はそれほど大きくはない。だが、数を当てれば十分倒すことができる。だが、蜂の数が思ったより多い。連射が得意とは言え、一撃で倒せない分、倒すのに時間を食う。このままでは突破されてしまう……

 

だが、突然、蜂の群れは攻撃をやめ、逃げ去った。

 

助かったのか?

 

否。これは、もっと危険な魔獣が出てきたと言う事である。

 

蜂達の後方に現れたのは……

 

…一匹のコカトリスであった。

 

スタンピードの際、街に向かったコカトリスはイライラと銀仮面が全て屠ったはずだが、街に向かわず違う方向に逃れたコカトリスが居たのだろう。

 

慌てて火球の連弾をコカトリスに向かって放つスーザンであったが、その火球はコカトリスが吐き出した石化ブレスによってすべて打ち消されてしまった。

 

そして、ブレスはそのままスーザンに直撃する。

 

石化していくスーザン。

 

だが、石化しながらもスーザンは、銀色の仮面を着けた男がコカトリスの首を跳ね飛ばすのを見た。

 

スーザン 「あれは……? リュージーン?」

 

スーザンの身体は一度は完全に石化してしまうが、銀仮面によってすぐに巻き戻され、復活した。(リューが銀仮面を着ける時は、手加減なしで能力を使う印である。)

 

スーザン 「た、助かったわ…ありがとう、リュージーン」

 

リュー 「銀仮面デス」

 

スーザン 「え? …リュージーンよね?」

 

リュー 「銀仮面デス!」

 

スーザン 「そ、そう、銀仮面さん、アリガトウ…」

 

リュー 「ゆぁうぇるかぁむ!」

 

リューは格好つけて親指を立てて見せた。仮面を付けると気が大きくなって、妙なキャラを作ってしまうリューであった……。

 

その時、遠くから悲鳴が聞こえた。

 

逃げた女達が、別の魔物に襲われたのである。 

 

子供を連れているなどして逃げるのが遅れた者達はまだリューとスーザンの近くに居たが、先に逃げたものはかなり離れてしまっていた。しかも、散り散りに逃げたため、女達の悲鳴は四方から聞こえてきていたのだった。

 

彷徨いているのは凶悪な魔物ばかりであったが、リューならば特に問題なく瞬殺できる。だが、要救助者が四箇所、別々の場所に居て、同時に襲われている状況であった。そうなると、全員助けるのは難しい。

 

リューが一人しか居ないため、同時多発な危機には対応仕切れないのである。リューの限界を指摘した不死王の言葉がリューの脳裏を過る。

 

その弱点を補うために、不死王がアンデッド軍団レギオンを貸してくれたのを思い出したが、リューはそのレギオンを一度も試した事がなかった。刹那を争う今この瞬間に、新しい事を試している余裕はない。

 

リュー 「ふん、一人でもなんとかしてみせるさ!」


リューは力技で強引に解決する事にした。

 

― ― ― ― ― ― ―

時間を止める。

 

そして魔物に襲われている者達を自分の近くに全員転移させる。

 

再び時が動き出す。

― ― ― ― ― ― ―

 

リューの能力であれば、同時に複数の危機を解決することも可能なのであった。とはいえ、やはり限界はある。今回は全てがリューの視界の(認識の)中での事であったから強引にでも対処できたが、リューの見えていない場所までは、さすがにフォロー仕切れない。リューもそれは理解している。時間を見つけて、不死王が用意してくれたレギオンを試してみる必要があるだろう。

 

リュー 「離れるな! 一箇所に集まれ! バラバラになると守りにくい!」

 

リューは転移で全員を一箇所に強制的に集め、次元障壁で包み込んでしまう事にした。

 

突然目の前から消えた獲物を追って、魔物達がリュー達のほうに向かってくるが、障壁に激突して停まる。

 

リュー 「大丈夫だ、障壁バリアを張ってある。中には入ってこれないから、少し休むといい」

 

勇者に破られてしまった次元障壁であるが、あれは例外、一般的な魔物では絶対破る事ができない障壁である事には変わりない。

 

だが、見えない壁で止まっているとは言え、四方から威嚇してくる魔獣の迫力に、女達は悲鳴を上げ怯えた。

 

東西南北四方から襲ってきた魔物は、血塗熊ブラッディベア金属蛇メタルバイパー肉食花カニバフラワー魔狂猿クレイジーモンキー。すべて危険度Bランク前後の危険な魔獣である。

 

どうやら見えない壁に阻まれてそれ以上は接近して来ない事が分かり、女達も少し落ち着いてきたが、障壁を引っ掻いたり叩いたりし始ながら威嚇を続ける魔物の様子に、特に子供達は落ち着かない様子であった。赤ん坊は泣き続けている。

 

そこでリューは障壁の外に転移し、魔剣を手に障壁を叩く四方の魔物をあっと言う間に殲滅してみせた。

 

リュー 「これで静かになったろ?」

 

 

 

 

逃げる途中で転んでしまったのだろう、肘や膝から血を流している子供たちが居たが、ヴェラが治癒魔法で治してやった。

 

時折、魔物が現れては襲い掛かってくるが、障壁に阻まれて停まる。すぐに離れていけばよいが、しつこい魔物はリューが切り刻んで静かにさせる。

  

その様子を見て、子供達も徐々に落ち着いてきたようだ。

 

女達がリューに声を掛けてきた。

 

女1 「あ、ありがとうございます、銀の仮面の冒険者様」

 

女2 「お強いですね!」

 

女3 「あ、あの、銀仮面の冒険者様、この先にある村が魔物に襲われているのですが…、あなたなら、魔物を退治して村を救えますか?」

 

リュー 「……可能だが、すでに村長に断られた」

 

女1(頭を抱えながら) 「馬鹿男共がぁ! やっぱり、最初から冒険者に任せておけばよかったのよ!」

 

女2 「金をケチって、あんな変人を村長に選ぶから……」

 

女3 「もう間に合わないわよね、馬鹿男達は今頃全滅してるんじゃ……」

 

女1 「そんな……」

 

『きっと、大丈夫です!』

 

割り込んできたのはスーザンであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ネリナ 「実はね、勇者がバイマークの街に来てるのよ……」

リュー 「アイツか……」

ネリナ 「あら、知ってるの?」


乞うご期待!



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