第203話 村がとにかく襲われる

勇者ユサークは、仲間を置き去りにして一人で逃げ出してしまった。リューの能力なら逃げた勇者を探し出して連れ戻す事も不可能ではないが、土下座で許しを乞う聖女に免じて許してやる事にした。

 

そもそもリューとしてはダンジョンから手を引いてくれればよいだけの話しなのだから。

 

魔力切れの症状で動けなくなっていたシャルとココも、僅かだが魔力が回復してきて動けるようになっていた。

 

唯一リューの物理攻撃を受けた聖盾騎士のジョディも、聖女アガタの治癒魔法で動けるようになった。(攻撃を受けたと言っても、飛ばされて壁に激突して背中を強かに打っただけなので、大したケガはしていなかったのである。)

 

リュー 「お帰りはあちらからどうぞ」

 

ボスを倒すと現れる帰還用の転移魔法陣を指差すリュー。

 

こうして、勇者の仲間達もダンジョンから脱出し、一件落着となった。

 

リュー 「あ、そう言えば! …返し忘れたな。ま、いくらでも出せるみたいだからいいか」

 

収納から、勇者から奪った聖剣と聖鎧を出してみる。勇者が着ていた時は黄金色で光を放っていたように思うが、出してみたら光は失われ、銀色の鎧になっていた。

 

ヴェラ 「これは……ミスリルですかね?」

 

ダンジョンコアの部屋に避難していたヴェラが出てきて言った。

 

(ちなみに、コアが部屋の外の様子を映し出してくれたので戦いの様子はヴェラもずっと見ていたそうだ。戦いが終わり勇者パーティが居なくなったらすぐにコアが壁を開いてくれ出られたのであった。)

 

リューが神眼で鑑定してみると、ミスリルとオリハルコンの合金である事が分かった。ただ、勇者の手を離れ、ただの剣と鎧になってしまったようだ。勇者が使っていた時の輝きは失われている。

 

試しに魔剣フラガラッハで斬ってみたが、鎧は豆腐を切るように真っ二つになってしまった。

 

リュー 「あ……切れちゃった。

 

まいっか、二個あるし。素材として見ても結構な金になりそうだ。まぁ迷惑料として頂いておこう」

 

リューはダンジョンコアの部屋に行く。コアのある部屋は、最下層よりさらに深い階層を作って隠す事にした。

 

さらに、ダンジョンを容易に攻略されないため、ダンジョンボスをもっと強力なモンスターに変更する。毎回リューが呼び出されても面倒である。

 

リューが知っている中で最強のモンスターはヒュドラであるので、ワイラゴも地竜巣窟と同じくヒュドラを最下層のボス=ダンジョンボスに設定した。(ボス以外も各種竜種が出る階層に設定した。)これまでのボスであるキングコカトリスはそのままに、その下に新たな階層を増やして新たなボスを設置したのであった。

 

ダンジョンボスが他のダンジョンと被っていて構わないのか微妙に気になるが、他に思いつかないので仕方がない。良い案が浮かんだらまた変えれば良いだろう。

 

どうせ同じになるならと、もう一階層増やして、墓地フィールドに設定し、アンデッド系モンスターが出る階層も作ってしまった。不死王城と被る設定にしたわけである。ワイラゴのこれまでのカラーとまったく違った階層になってしまうが、それでさらに攻略の難易度は上がるだろう。

 

ボスは不死王城でリュー自身が戦った感触からヘカトンスケルトンを選んだ。リューが苦戦したくらいなので、おそらくS~SSランク以上の冒険者でないと突破できないだろう。

 

(ちなみに、リューの実力を正当に評価すればおそらくSSSランク(=最上位)となると思われる。)

 

ただ、ヒュドラだって絶対に倒せないというわけではないのだから、もっと強いモンスターが居るならどんどん追加したいところだ。

 

だが、設置できるモンスターはダンジョンの成長具合によるので、どんなモンスターでも用意できるわけではない。

 

とは言え、地竜巣窟もワイラゴも十分に大きく成長しているダンジョンであるので、ある程度融通は効くのであった。

 

ダンジョンの成長を促すために、浅い階層は様々な素材が手に入りやすいモンスター牧場にして、冒険者を呼び寄せる設定にしてある。

 

リューは割と片手間にやっているので詰めが甘いところが多いが、ダンジョン経営を真面目にやろうとすると大変だろうなと思うリューであった……。

 

最後に、ダンジョンを更に巨大化・深層化を自動的に進行させるようコアに設定し、リューはダンジョンを後にした。

 

 

   *  *  *  *

 

 

ヴェラと共にリューは再び村に戻った。ダンジョンに居たのは二~三時間程度であったが、戻った時にはすっかり陽は暮れてしまった。

 

村人に尋ねると、村には小さいが一軒だけ宿屋があるということで、二人はそこに泊まる事にした。

 

宿の食堂で夕食を食べてみたが、まずくはないが、とりたてて美味いとも言えない平凡な料理が並んだ。これならリューが保存している料理を食べれば良かったとヴェラと小声で話していると、不意に女が声を掛けてきた。見れば、火球のマシンガンで牛の魔物を倒した女である。

 

女 「貴方達、冒険者よね? 私はこの村の冒険者ギルドのマスター、スーザンよ。ギルドと言っても出張所だから、私一人しか居ないけどね、マスター兼受付嬢兼買取係兼解体職人よ。この辺に魔物が随分たくさん彷徨いていると聞いて、冒険者を派遣するための拠点作りに送り込まれたってわけ」

 

ヴェラ 「ヴェラです。」

 

リュー 「リュージーンだ。依頼完了の報告をしにバイマークに帰るところだ」

 

スーザン 「ああ、あなたがリュージーンなのね? ネリナから聞いてるわ、かなり腕が立つ期待の新人だそうじゃない?」

 

リュー 「ネリナと知り合いなのか?」

 

スーザン 「知り合いというか、上司? バイマークの冒険者ギルドの出張所だからね」

 

リュー 「だが、この街では冒険者は仕事がないって言ってたぞ、さっき。この村の村長が」

 

スーザン 「そうなのよ、村長が冒険者嫌いでね、なんでも昔、悪い冒険者に騙された事があるとかで…。せっかく出張ギルドしに来たのに、村長があんなだから冒険者は村に留まってくれず、居るのは私一人、仕事もほぼなしという…

 

…貴方達、この村に住まない?」

 

リュー 「…遠慮しとく……」

 

     ・

     ・

     ・

 

― ― ― ― ― ― ―


村の宿に一泊したリューとヴェラ。(部屋は別。)村には特に見るものも買うものもないので、朝食を食べたらすぐに旅立つ予定だったのだが、村には早朝から、魔物が近づいている事を知らせる警鐘がうるさく響き渡っていた。

 

物見櫓の上で見張りの村人が半狂乱に半鐘を叩いている。現れたのはトロールの群れらしい。

 

二桁に登る数の巨人が村に向かっている。集団の後方には一際巨体のトロールが居る、トロールキングである。さらにその横にはサイクロプスが三体居た。トロールキングに従っているのだろうか?

 

村長 「あかん、もうダメや、あんなんどうしようもない。勇者はどうしたんや、まだ来んのかい!?」

 

ヴェラ 「勇者って、昨日の……」

リュー 「勇者は来んかもしれんなぁ」

 

村人 「村長、逃げたほうがいい、村は捨てよう!」

 

村長 「そんな事できるかい、大損害やないか! 村の財政を再建させる言うて村長になったんや、そんなん認められるか!」

 

だが、さらに近づいてきた巨人の大きさを見た村長は……

 

村長 「なぁんて言うても死んじまったら終わりやからな。しゃぁない、村を捨てて逃げるで! 女子供を先に避難させぇ。バイマークまで逃げるんや。男達は残って魔物を少しでも足止めするんや」

 

そこにリューとヴェラがやってきた。

 

リュー 「手伝おうか?」

 

村長 「まだ居たんかい! 相手はトロールやぞ、ガキはすっこんどれ!」

 

ヴェラ 「いい加減にしなさい! リューならトロールを倒せます! 試しにやらせてみたらいいじゃないですか?!」

 

村長 「……あかん。ワイは冒険者を信用でけんのや。

 

だいたい、見ず知らずの通りすがりの冒険者なんぞに村の命運を任せる事はでけんしな!

 

それにあのトロールの数を見いや。ガキの冒険者一人にどうにかできる数やない、お前らも女達と一緒にさっさと避難しい!」

 

しきりに村長はリューをガキ呼ばわりしているが、リューは先日18歳を迎えたところだ。15歳で成人扱いになるこの世界では十分大人であるのだが、リューは華奢な身体つきのため未だ14~15歳に見えるのは仕方がないのであった。

 

竜人の筋肉は人間のそれとは違い、鍛えると筋肉の密度と効率が高まっていくだけでそれほど太くはならないのである。そのため、いつまでも細身のままに見えるのであった。

 

リュー 「もう一度だけ訊く。俺ならトロールの群れもサイクロプスも殲滅できる。しかも、特別に今回は無料にしてやる。どうする?」

 

村長 「無料やて?!……いや、いらんわ。どうせ騙されるだけや。ワイは死んでも冒険者には頼らんと決めたんや。だいたい、お前みたいなガキがサクロプス倒せるとか言われても、信用でけるか」

 

ヴェラ 「あなたねぇ!」

 

リュー 「いいさ、ヴェラ」

 

聞き分けの悪い村長にヴェラがキレかけたが、リューはそれを止めた。必要ないと言う者を助ける義理はない。ちゃんと女子供は先に避難させるつもりのようだし、それ以上は余計なお世話というものだろう。

 

村長 「……そや、どうしても働きたい言うなら避難する女達の護衛を頼めるか? バイマークの街まで送ってくれたらええ。その程度ならできるやろ? それで役に立つとこがあるなら、少しは見直してやってもええ。ま、役に立たんでもええ、期待はしとらん、護衛は居なくて元々やからな」

 

リュー 「……いいだろう」

 

聞けば、避難部隊の第一陣は既に村を出た頃だろうという。それを聞いたリューは急ぎ後を追った。報酬の話もしていないし(というか村長の事だから無料だと思っているのだろう)、あのような言われ方では断っても良かったのだが、村の周辺には危険な魔獣がたくさん彷徨いているのだ、女子供だけでの移動は危険だろう。

 

割とドライな性格のリューであるが、女子供にはそれなりに優しいところもあるのだ。

 

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バイマークに向けて移動中の女達。バイマークに向けて急ぎ足で街道を進む。

 

だが、運悪く、街道の近くの森にデビルホーネットの群れが巣を作ろうとしていたのだった。巣を守ろうとして、近くの街道を通る人間をデビルホーネットは無差別に襲っていたのだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


魔物に襲われる村の女達!


乞うご期待!



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