第201話 勇者はクズだった

時は遡り、リューとヴェラがセッタ村に着いた日より二週間ほど前。


シンドラル領の隣、ヴィルド領のはずれにあるルングという小さな村に勇者一行は滞在していた。

 

村に一軒しかない宿を貸し切りにして宿泊していた勇者ユサークは、夕食を終えた後、聖女アガタに声を掛けた。

 

ユサーク 「アガタ、来い…」

 

一言そう言っただけでユサークは部屋に戻って行く。

 

アガタは溜息をつくと、渋々ユサークの部屋に向かった。

 

ユサークに呼ばれたのがアガタ一人だけだったため、他のメンバーは正直なところほっとしていた。今日のユサークの相手はアガタ一人だけで済んだという事である。

 

勇者の夜の相手は、その日の気分で勇者が指名する。一人とは限らない、二人以上、時には全員同時に相手をする事もある。全てはユサークの気まぐれ次第である。

 

だが、中でもアガタが呼ばれる回数は圧倒的に多かった。それは、アガタはユサークの一番のお気に入りだったからである。ユサークがアガタに惚れている、などという理由ではなく、アガタが一番辛そうな顔をする、それがユサークにとって面白いからであった。

 

アガタは教会から派遣された聖女である。幼い時に才能を見いだされ、以来ずっと聖女としての生き方を強要されてきた。当然、恋愛などする機会もなく、清い身体を保ってきた。聖女はそうあるべきと本人も思っていた。

 

だが、ある時、教会本部の命令で勇者のパーティに参加する事になった。光栄だと思ったのは初日だけ。すぐに勇者は関係を強制してきたのである。

 

聖女は清らかな身体でなければならないと思いこんでいたアガタであったが、何故かユサークに命じられると逆らう事が出来ず、勝手に服を脱いでいた。

 

それが勇者が持っているパーティメンバーに命令を強要できるスキルであると知ったのは後の事であった。

 

パーティメンバーを隷属させる勇者の能力は、もともと戦闘中に勇者の命令に従わずに戦術が乱れる事を防ぐ能力であると言われているが、その権能は戦闘中以外でも発動するのだ。

 

パーティメンバーだけという限定的な能力であるが、一度メンバーになってしまうと、勇者の命令には絶対服従の奴隷となってしまうのである。

 

それをいい事に、ユサークは、若く美人の女性ばかりをメンバーに選び、毎日その肉体を貪ったのである。

 

勇者 「アガタ、脱げよ」

 

部屋に入ってきた聖女に命じる勇者。俯き、悔しそうな表情かおをしながら服を脱いでいくアガタ。その、嫌々抱かれる表情・反応がユサークには堪らない快感であった。最初から大して抵抗も恥じらいもなかったシャルやココに比べて、聖女の反応は新鮮であったのだ。

 

だが、そんなアガタも、回数を重ねるごとにやがて恥じらいは減っていく。それがユサークには不満でもあった。

 

パーティを組んだ初期の頃はそれこそ、毎日のように夜の相手をさせられていたアガタ達であったが、徐々にマンネリ化していく。

 

ユサークは鈍くなっていく反応が気に入らず、アガタ達の嫌がるような事を無理やりさせてみたり、酷い仕打ちプレイをして耐えさせたりして遊んだが、それもそのうちネタが尽きて飽きが来た。

 

やがて、アガタ達にユサークが飽きた事で、徐々に呼ばれる機会は減っていった。それはアガタ達には喜ばしい事であったのだが、その分、ユサークの関心は外に向かう事になる。ユサークは町の娘に手を出すようになったのだった。

 

勇者パーティのメンバーにするには相応の実力が必要である。若く美しく、それでいて実力がある、そんな女性はそうそう見つからない。そのため、飽きたといってもメンバーを変えたり増やしたりという事は簡単にはできなかった。

 

そこでユサークは、訪れた街々で見かけた町娘を攫って犯して遊ぶようになったのだ。遊女ではつまらない。勇者にすり寄ってくるアバズレもつまらない。嫌がる娘を無理やり甚振るのがよいのであった。アガタ達勇者の従者は、命令すればどんな事でも従うため、嫌がる者を無理やりという反応にはならない。だが街の娘なら本気で嫌がり抵抗する、その初々しい?反応がユサークは面白かったのだ。

 

ルング村は人口もそれほど多くはない小さな村で、若い者は少なかったが、一人だけ、街で評判の食堂の看板娘が居た。

 

ユサークはその娘を無理やり宿に連れ込み乱暴した。

 

ユサーク 「おいオマエ、なかなか器量よしだな。勇者様が可愛がってやる、来い!」

 

交渉やコミュニケーションもない、問答無用で引き摺っていくだけであった。何人かの村人が見ていたが、勇者の実力行使を止める事ができるような者は居なかった。おそらく勇者であれば、指一本で村人など吹き飛んでしまうであろう。

 

だが、指を咥えて見ている者ばかりではなかった。娘は村のアイドル的存在であり、村には小さいが冒険者ギルドもあり、一流とは言えないが冒険者も居たのだ。娘の窮地を知らされ、冒険者が三人立ち上がった。三人は勇者の前に立ち塞がり、娘を解放するよう言ったが、勇者に瞬殺されて終わりであった。それを見ていた村人はもう誰も勇者を止めようとはしなかった。

 

アガタ達も何が起きているのか知っていたが、手も口も出すなと “命令” されてしまえばどうする事もできない。

 

ユサークは一晩中娘を嬲り、翌朝には解放した。

 

娘 「こんなの…酷いわ……。訴えてやる……領主様に言って、逮捕してもらう…」

 

ユサーク 「ああ、無駄だよ? 僕は勇者だからね。知ってるだろう? 勇者は人々を災いから救う存在なんだ。僕が居なくなったら人々を襲う災いを誰が止めるのさ?

 

僕は王様の命で災厄を防ぎ、魔王を倒す旅をしている。つまり、僕のやる事に逆らうと言う事は、王様に逆らうと言う事だからね。

 

ここの領主はヴィルド子爵だったっけ? あの気の弱そうな子爵に、王に逆らってまで僕を逮捕なんてできっこないさ」

 

それは事実であった。実はヴィルド領の首都でもユサークは “色々と” 問題を起こしており、騎士団が逮捕に来たのだが、王に逆らうのか領主に尋ねてみろと勇者に言われ、騎士達は一応上に報告したところ、勇者の行為には目を瞑って街から出ていってもらえという指示だったのだ。(それが領主の命令だったのか、途中の役人の指示だったのかは定かではないが。)

 

ユサーク 「君だって、勇者と一晩を過ごせて光栄だろう? あまり余計な事は言わないほうがいい。逮捕はされないだろうけど、勇者の悪い評判が出回るのもあんまり良くないからねぇ。前にも余計な事を言おうとしたが居たんだけど、言う前に身体がバラバラになっちゃったらしいよ? 天罰だね、きっと」

 

だが、娘は気丈な性格であった。領主に訴えてもダメなら、国王に直接訴えると言い出したのだ。

 

面倒になったユサークが手刀を振ると、娘の首は胴から切り離されていた。一般人など勇者にかかれば素手で切り刻めるのである。別に王に報告されたところで、王も勇者を手放す事はできないのだから問題はないのだが、あまり大事になるのも “面倒” だったのであった。

 

死体はアガタ達に片付けさせる。宿の裏庭で、シャルの魔法の炎で骨と灰になるまで死体を焼き、残った骨は勇者の従者四人で粉々に砕かせて廃棄して終了である。

 

こんな作業も、アガタ達はすっかり慣れてしまった。そう、これまで通過してきた街や村で、同じような事を勇者は何度も繰り返していたのである。

 

罪もない町娘の死体の処理を何度もさせられて、アガタの心は完全に死んでしまっていた。何が聖女か? と自問するが、不思議と聖女としての力は失われる事はないのであった。

 

シャルとココは元々奔放な性格であった事もあり、それほど気にしていない様子であったが、それでも決して良い気分であるはずはないだろう。

 

ジョディは実はアガタに匹敵するほど純粋な性格だったのだが、ジョディは勇者に憧れ、自ら望んで勇者パーティに参加した事もあり、勇者の実体を知ってからは幻滅もしたのだが、未だ、憧れていた気持ちが残っていて、勇者がいつか目覚め、世界を救うと信じている部分があるのであった。

 

いつもならこれで終わりである。稀に、村人が挙って抗議したりするケースもあったが、その場合はキレた勇者が村人を皆殺しにしてしまった事もあった。村が全滅してしまえば、勇者の悪行も知れ渡る事はない。小さな村程度であれば突然失くなっても、魔物にでも襲われたと思われるだろう。

 

だが、この村は少し勝手が違った。殺された娘の親は元冒険者で、【暗殺者アサシン】のクラスを持っていたのだ。それに、勇者が村娘を攫っていくのは何人も目撃者が居る。父親にもその話はすぐに伝わったのだ。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

クズ勇者後編

 

乞うご期待!

 

 

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