第113話 ごぉぉぉぉぉるるるぁぁぁぁああああああ!

リューが手枷を引き千切ったのを見て、会堂内が一気にざわつく。

 

「貴様! 大人しくしろ!」

 

会堂を警備していた騎士達が慌てて駆けつけ剣を抜きリューを取り囲んだ。

 

リュー 「ゴ……」

 

騎士 「ご?」

 

だが、その時、

 

『ごぉぉぉぉぉ』

 

突然、リューが吠え始めた。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

【威嚇】というスキルがある。

 

高ランクの魔獣は“咆哮”によって相手を威嚇し、萎縮させ相手の動きを封じたりステータスを下げたりしてしまうのだ。高ランクの魔獣の場合、咆哮自体が強力な武器となる。魔獣の中でも最高ランクの存在である龍の咆哮―――龍の咆哮ドラゴンロアー―――それは単なる大音量の音声ではなく、咆哮に魔力が乗り、明確に攻撃力を伴う。まともに受ければ弱い生物は心臓が停止してしまうほどなのである。

― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

『ごぉぉぉぉぉるるるぁぁぁぁああああああ!!』

 

リューが本気の殺気を込めた喝声、それは小さなひとつの龍の咆哮ドラゴンロアーであった。

 

リューはまだ神力と魔力の変換が上手くなかったが、それでも人間相手には十分な効果を発揮したのである。

 

会堂内に居た人間全員が、その吼声に肉体的・本能的な恐怖を感じ、硬直してしまう。至近距離でリューの喝声を浴びた騎士達は全員尻もちをついて腰を抜かしてしまった。

 

もう一度、リューは大きく息を吸うと、言葉を発した。

 

『警告しておく!』

 

それは会堂内すべてに響き渡るような大声であった。

 

『命が惜しいものは大人しくしていろ! ここからは、手加減しない! 俺の前に立ち塞がる者は殺す』

 

時空魔法の応用で、会堂内の空間全てを支配し、空間全体を振動させるようにして、自分の声を響かせているのである。なんとなく、できるだろうと思っていたのだが、試してみたらうまく行った。

 

先程の喝声に妙に力があったのも、空間ごと振動させていた効果も乗っていたのである。

 

ギル 「…っく! 何をしている! 犯罪者の戯言たわごとに耳を貸さずにさっさと取り押さえろ!」

 

リュー 『王女ソフィは隷属の首輪を嵌められ、無理やり操られていたのだ! 王国の騎士は、王女を守るために居るのではないのか?!』

 

いつの間にか、リューの腕にはソフィが抱かれている。リューが転移で移動させたのである。姫様を文字通りお姫様抱っこである。

 

ソフィ 「リュー……降ろすのじゃ……わらわが言う……」

 

意識を取り戻したソフィが目を開けリューに訴えた。

 

自分の足で立とうとしたソフィ、よろけてしまう。そこに一人の影がさっと駆け寄りソフィを支えた。アリスであった。

 

ソフィ 「アリス…! 無事じゃったか!」

 

リューはすぐにソフィの肉体の時間を巻き戻しスタンのダメージから回復させる。

 

力を取り戻したソフィは会堂内に向かって言葉を発した。これももちろんリューが会堂全体に響かせる。

 

ソフィ 『この者、リュージーンを妾の代理として認める! 妾に隷属の首輪を嵌めたのはそこに居るギルじゃ! ギルを捕らえよ!!』

 

ギル 「王女は混乱しているのだ! 犯罪者の言う事に耳を貸してはならぬ! 王女は騙されている! 犯人を殺して王女を救出せよ!!」

 

会堂内に居た貴族達は驚き、混乱していた。

 

場内を警備していた騎士達も混乱していた。

 

普通、軍隊や警察のような組織というのは、極めて強力な組織化が行われている。通常であれば、どこの馬の骨とも分からない被告人リューが何を言おうと、一切取り合わず指揮官に従うのが当たり前である。

 

また、指揮系統の筋から言えば、王女は騎士達に対して直接の指揮権はないのだ。

 

だが、王女が指揮官より上位の存在であるのは明確。その王女がリュージーンを代理と認め、ギルを犯罪者と断じたのである。

 

それに、もし隷属の首輪を王女が嵌められていたという話が本当ならば、それは決して許される事のない重犯罪である。もしそれに加担してしまえば重大な反逆罪となってしまうだろう。

 

場内の騎士達は逡巡し、先程のリューの龍の咆哮ドラゴンロアーの影響も抜けておらず、腰が抜けたままでもある事も手伝って、誰も動く事はできなかった。

 

ギル 「ええいくそ、こうなったらやむを得ん。出番だ! 奴を捕らえ王女を連れ戻せ!」

 

ギルが会堂側面の扉に向かって叫んだ。

 

その号令で、会場を警備していた騎士達とは異なる装備の騎士の一団がアリーナになだれ込んできた。

 

その騎士達は剣を抜きリュー達を取り囲む。ギルの息の掛かった騎士達なのは間違いないだろう。発せられる強い殺気はリューだけでなく、王女にも向けられていた。ギルは王女を連れ戻せと言っていたが、本当は、どさくさに紛れて王女を殺せと命じられているのかも知れない。

 

アリスはソフィをかばうように自分の後ろに隠し短剣を構えた。

 

リュー 「お前達には警告が聞こえていなかったか?」

 

騎士 「ふん、貴様一人で何ができるというんだ?」

 

いつもなら、ある程度相手に合わせたレベルで対応し、実力差を分からせてやるのがリューのやり方なのだが、今日は違う。手加減を一切するつもりはなかった。能力全開、ノーリミットである。

 

そうなると、戦闘すら起こらない。次の瞬間には、ギルの騎士達は、何の行動も起こす事なくこの世から旅立つ事になる。

 

リューは騎士達を一瞥しただけであったが、騎士達はすべて上下に切り離され、床に転がった。リューが次元断裂を使って騎士達を切断したのである。

 

頸の血流を止めて意識を失わせるという手もあったのだが、それだと全員の頸を神眼を使って空間把握しなければならず、手間が掛かる。

 

今回はそんな手間も掛けず、最短で終わる方法を選択した。騎士達の居る範囲の空間をざっくりまとめて断裂させたのである。


取り囲む数十人の騎士達を全員納めるようにドーナツ状に空間を指定したリューは、その空間を上下に断裂させた。範囲内にいた者/物は全てそれに合わせて分割されてしまう。身長が高い者は胸から、低い者は頭部で切断されたが、死ぬことにかわりはない。

 

次、ギルは……

 

とリューが階段席を見上げたところ、ギルは既に会場から姿を消していた。

 

悪い奴ほど逃げ足が早いものだ。

 

だが、転移と神眼があるリューから逃れられるわけはない。すぐに後を追おうとしたリュー。

 

しかし、ソフィがリューを止めた。

 

ソフィ 「待つのじゃリュー、 アリス! マリー達はどこじゃ? 無事なのか?」

 

アリス 「申し訳有りません、マリーとベティは捕らえられたままです、なんとか奪還しようと隙を伺っていたのですが、守りが強固で私一人では忍び込む事もできず……」

 

リュー 「…分かった!」

 

ソフィがリューを止めたのは、マリー達に目前の危機が迫っているという事なのだろう。

 

ギルなどは、リューが本気を出せば雑魚でしかない。後でどうにでもできるので今は放置でよい。先にマリー達を救出する事にした。

 

まず、リューはソフィ王女の身体を回復させる。

 

先程回復させたはずだが、それは王女を黙らせようと騎士達が与えた電気ショックスタンのダメージだけである。

 

だが、ソフィはまだ弱っていた。それはどうやら、隷属の首輪に抵抗し続けたため、首輪に責めさいなまれ、ダメージが蓄積していたためのようである。

 

リューは大幅に時間を巻き戻し、ソフィの身体からだを首輪を嵌められる前の状態まで回復させた。

 

リュー 「アリス! マリー達はどこだ?」

 

アリス 「王立刑務所、中の場所までは分からない」

 

リューはアリスの心の中に浮かんだ王立刑務所の場所を読み取りそこへ転移すると、神眼で建物内をサーチする。

 

マリー達は刑務所の中でも特に深い階層の地下室に捕らわれていた。


アリス一人で刑務所の奥深くへ忍び込むのは難しかったであろうが、どこへだろうと出入り自在のリューであれば何も問題はない。


リューはソフィとアリスを連れ、即座にそこへ転移する。

 

ソフィ 「マリー! ベティ!」

 

薄暗闇の中、マリー達は手足は壁から鎖に繋がれていた。当然、手枷足枷は魔力を封じるものであろう。

 

アリスが照明ライトの魔法で室内を照らすと、拷問でも受けたのか、二人の身体はボロボロの状態であった。

 

マリー 「…そ…の声は……ソひぃ……さば?」

 

ベティ 「…………」

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

マリーとベティを救助した後、首謀者を討ちに行くリュー

 

乞うご期待!

 

 

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