第335話 非モテのリューにも春が来た?

リュー 「今朝、散歩してたらその女が街に立っててな、遊ばないかって声を掛けてきたんだ」


ミィ 「あ、あの時は気が動転して、変な言い方になってしまっただけです!」


リュー 「わざわざ追いかけてきたのか?」


ミィ 「そうではありません、たまたま・・・・です」


リリィ 「あ~いいかな? アタイはリリリ・イルゥ。言い難いだろうからリリィでいいよ。A級冒険者だ」


ヴェラ 「ヴェラよ、冒険者ランクはD。Aランクは凄いわね」


リュー 「リュージーンだ。って、冒険者ランクも名乗る流れなのか?」


ヴェラ 「まぁ、結局訊くことになるケースは多いから、特に隠す理由もないなら、最初から知っていたほうがお互い楽かもね」


リュー 「ランクと実力が釣り合っていればだけどな。まぁいいや、俺は先日Bランクになったばかりだ。今はランクアップ試験を受けるため王都に向かっている」


リリィ 「Bランクになったばかりなのに、もう試験を受けるのかい?」


ランスロット 「ダヤンの街ではBランクまでしか認定できないと言われましてね。我々ならばSランクの実力があるのは確実なのですが……あ、私はランスロットと申します、同じくBランクになったばかりです、どうぞよろしく」


リリィ 「Sランクゥゥゥ? 自信を持つのは良い事だが、極端な自信過剰は命を落とす事になるぞ?」


ランスロット 「冷静・客観的・総合的に自分達の実力を判断した結果なのですが? 試験を受けてみれば分かる事です……まぁ、どうしても気になる、見てみたいというのならば、この場で実力をお見せする事も吝かではありませんぞ? 模擬戦でもやってみますか? Aランクの方と模擬戦など、なかなか機会もありませんしね、是非」 


リリィ 「ああ、いやぁ、すまんすまん、馬車に乗せてもらおうというのに喧嘩を売るような事を言っちまったな。そうだな、試験を受けて見ればはっきりする事だ、分不相応なダンジョンや魔物に挑戦すると言うのでないなら、他人がとやかく言うのは余計なお世話だったな」


ランスロット 「で、模擬戦は? やらない? そうですか。残念です…」


とりあえず、二人を乗せてやり、馬車は再び走り始めた。


ヴェラ 「でも意外ねぇ、全然女に興味ないって感じだったリューが、街で娼婦と遊んでたなんて……これまでも、アタシが知らなかっただけで結構遊んでたのかなぁ?」


リュー 「だから遊んでねぇって。仮に遊んでたとしても、どうでもいいだろ。それにその女は、そっちから声を掛けてきたんだ、しかも朝っぱらからな。この世界の……この辺の娼婦ってのは、朝も働くのか?」


ミィ 「だから娼婦ではありません!」


モリー 「声を掛けたのは本当なんですか?」


ミィ 「それは……そうなんですけど…」


ヴェラ 「なんで声を掛けたの?」


ミィ 「その……一目惚れだったんです……それで、街で見掛けて、その、見たことない人だったし、旅の人だったら、今声を掛けないと二度と会えないと思って、つい、変な声掛けを……」


モリー 「まぁ! 運命の出会いってヤツですね! こうしてまた再会できたわけですし!」


ヴェラ 「へぇ~? これは非モテ組のリューにもやっと春が来たのかな?」


リュー 「別に、モテないわけじゃない、興味なかった、今までは生きるのに精一杯だっただけだ。子供の頃は彼女だって居たし」


ヴェラ 「そういえば、アナタの子供時代の話、あまり聞いたこと無いわね。どんなだったの?」


……などと盛り上がるリュー達の話を黙って聞いているミィとリリィ。情報がなかなか集まらない、正体不明の青年だとゴードンは言っていたが、こうして近づいてみれば思ったより普通であった。傍に居れば、勝手に色々と喋ってくれるので、自然にリューについての情報が取れる。やはり、近くに居る事は有益だ。あとは、どうにかしてこのままリュー達と共に行動を続けられるようになれば、ひとまずは任務成功となるが……


じっとリューを見ながらそんな事を考えていたミィに、リリィが小声で話し掛けてきた。


リリィ 「へぇ……なるほどね。あの “彼” が狙いだったってわけね?」


ミィ 「違っ……いえ、違っていませんけど、その、一目惚れしたわけですし……」


リリィ 「いいよ、隠さなくて。ご主人さまのめーれーなんでしょ? アンタ、態度がバレバレよ。何が狙いか知らないけど、スパイには向いてないねぇ。あれ、それともまさか、一目惚れって話、本当だったりするとか? でも奴隷の身分じゃぁねぇ」


リュー 「奴隷がなんだって?」


リリィ 「いえ、なんでもないのよ。ミィちゃんは一目惚れした相手の、恋の奴隷? なんちって」


モリー 「ミィさんは、街でリュー様を見掛けたんですよね? どこが気に入ったんですか?」


リュー 「そのリュー様っての、やめないか?」


モリー 「いえ、私にとってはリュー様はリュー様です、奴隷だった私を救ってくれた、私にとっては神様みたいな人ですから、せめて様付けて呼ばせて頂きます」


ミィ 「奴隷!?」


モリー 「ええ、私は犯罪奴隷だったのです…。あ、冤罪ですよ、貴族の誘いを断ったら、無実の罪を着せられて奴隷に堕とされたのです」


ミィ 「酷い」


リリィ 「まぁよくある話だね」


モリー 「そんな私をリュー様は買い取り、無実を証明して罪を消し去り解放して下さったのです。私は犯罪奴隷ではなくなりましたが、リュー様に助けて頂いた恩を返さなければなりませんし、買い取って頂いたお金も返さなければなりません」


リュー 「ああ、金は気にしなくていいぞ、モリーの買取金額はタダ同然だったしな。そもそも無実の罪だったのだから、国にその分の慰謝料と損害賠償請求もするつもりだ」


モリー 「治療費の事もありますから、私に、リュー様に返しきれない恩がある事に変わりはありません。リュー様が居なければ私はあのまま病気で腐って死ぬ運命だったのですから」


リュー 「単なる偶然、ラッキーだっただけだと思うがな。まぁ恩を感じているのは分かったが、それと呼び方は関係なくないか?」


モリー 「そこは愛情表現です」


ミィ 「愛情?!」


モリー 「あ、親愛の情ですよ? 恋愛感情ではありませんから」


ミィ 「その、モリーさん? は手足が腐っていたのですか? あ、すいません、立ち入った事を聞いてしまって」


モリー 「いいのよ。貴族に拷問されてできた傷をそのまま治療もせずに放置されていたので、体が腐ってしまってね。片手片足はもう腐って落ちてしまってた……後は、腐毒が体中に回って死ぬ寸前だったの。それを、リュー様が治療して治して下さったのよ。手足の欠損まで元通りに!」


モリーは嬉しそうに手を差し出し動かしてみせた。それを、眩しそうに見るミィ。


モリー 「それなのに、リュー様は治療費もいらないって言うのよ」


リュー 「まぁその代わり、子供たちの面倒を見てもうらうつもりだからな。気にするな」


ミィ 「羨ましい……」


モリー 「?」


ミィ 「なんでもありません……」


実は、ミィは体の欠損を治す治療費のために、借金奴隷落ちしたのだ。


ミィの所属していたパーティは、ダンジョンで強敵に出会って敗走、その際、深手を負ったミィは、手足を失う大怪我をした。


ダンジョンから脱出したものの、そのまま気を失ったミィは、たまたま通りがかった奴隷ギルドの幹部に助けられた。(ミィをダンジョンの外まで連れ出してくれた仲間は発見された時には既に死んでいたそうだ。)


ミィの容姿が美しいのを見て利用できると踏んだ奴隷ギルド幹部は、ミィの体を勝手に治療し、治療費を請求したのだ。そして払えなければ奴隷契約をして払えと言う。命の恩人でもあり断れず、ミィは言われるままに奴隷の契約魔法を受け入れてしまったのであった。


仕方がない事であったとミィも諦め、今は、借金を返し終え、故郷に帰って死んだ仲間達の供養をしてやる事だけを目標に頑張っているのであった。そんな事は、この世界ではよくある話なのである。モリーのように、無償で助けてくれる者が現れるなど、奇跡のような事なのだ。それは理解はしていたが……やはり、自分の今の境遇を思えば、羨ましいと思ってしまうのであった……。


    ・

    ・

    ・


ヴェラ 「リューはモテないからねぇ、から」


リュー 「別に、モテないわけじゃないっての。俺だって人並みに恋愛のひとつやふたつは……」


ヴェラ 「へぇ、あったの? 是非そのへんを詳しく……」


リュー 「いちいち喋るか!」


ヴェラ 「ちっ、誘導尋問失敗か」


ランスロット 「良いですねぇ、やはり、女性が集まると、コイバナに花が咲きますなぁ。私も若い頃は……」


ヴェラ 「スケルトンの若い頃?」


モリー 「スケルトンのコイバナ?!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


スケルトンの恋


乞うご期待!



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