第521話 Leave me alone

リューが作ってしまった複製世界をこの世界に統合するに当たり、その代償としてリューの転生時ボーナスの時空魔法が失われる事になってしまった。リューの転移のスキルは失われてしまったのだ。


ただ、スケルトン軍団レギオンは別である。ランスロット率いるレギオンは、不死王が与えてくれたものであり、転生とは関係がない。


そして、ランスロット達は独自の亜空間を持っている。実は、転移のスキルがなくとも、その亜空間を通らせてもらえば、一瞬で遠方に移動する事も可能なのである。また、スケルトンの亜空間に荷物を預かってもらえば、収納の問題もすべて解決する。もちろん、戦闘においても、軍団レギオンを使えばおよそ負ける事はないだろう。


だがリューは、ランスロットに頼る事を良しとしなかった。普通の冒険者として、自分の力だけでやってみたいと言い出したのである。


以前からリューはそのような願望をずっと持っていた。せっかく異世界転移したのだから、普通の冒険者としての生活を楽しみたい。実現できていないのは、あるとついつい使ってしまうチート能力が強力過ぎたからなのだ。能力が破格すぎて、冒険にならないのである。


だが、スキルがなくなり能力がかなり弱体化するわけで。まったく能力がない凡人というのもツライだろうが、ある程度の能力は残っているのだから、今度こそ、程々に冒険者生活を楽しめるだろうというわけである。


ただ、ランスロット達の存在もまた、チート過ぎるのだ。そこで、しばらく手も口も出さず、そっとしておいてくれとリューはランスロットに頼んだのであった。


リュー 「本当に困った時は助けを呼ぶが、それまでは自分の力だけで頑張らせてくれ」


リューの意志をランスロット達も尊重する。


ランスロット 「分かりました。…ただ、覚えておいて下さい。たとえスキルを失ったとしても、我々がついているのです。我が軍団レギオンは世界最強です。つまり、未だ、リューサマは世界最強の力を持っているのですよ? 困ったときはいつでも迷わずご命令ください」


リュー 「ああ、必要な時は遠慮なく頼らせてもらう」




  * * * * *




商業ギルドに行って素材の納品などを行っていたら、夕暮れ間近になってしまった。そして、リューは街の宿に泊まる事になるわけだが……


当然、エリザベータも一緒である。


ミムルに来るまでの旅で、基本は野宿であったが、可能な時は街の宿に泊まる事もあった。


リューは今や国家予算級の金持ちなので高級宿に泊まる事もできる。


そして、一応、エリザベータはリューにとって、竜人の能力について教えてくれる師匠でもあるので、その御礼に宿代はリューが持つと言ったのだが、エリザベータはそれを良しとせず。自分の分はちゃんと自分で払うと言うのであった。


だが、エリザベータはそこまで金持ちではない。優れた竜人の身体能力を使い、危険度ランクの高い魔獣を狩って稼いでいたので、貧乏というわけではないが、高級宿で贅沢を繰り返すほど金持ちでもなく、中流程度の宿に泊まっていた。


なので、リューもエリザベータに合わせて、あまり高くない宿に泊まる事にしていたのであった。






エリザベータと二人でテント野宿の時は何も感じなかったが、初めて街の宿に二人で入る時、リューはなんだかちょっぴりドキドキ感を感じた。


なぜだろうと考えてみたが、恋愛対象となりうるような女性と一緒に宿ホテルに入るなど、この世界では初めての事だからだとリューは気がついた。


リューも日本に居た時は、多くはないが恋愛の経験もあった。女性と二人でホテルに入った事もある。なんとなく、その時の感覚を思い出してしまったのだ。


考えてみれば、今までも女性と一緒に寝泊まりはしていたものの、そのほとんどは姉とか子供とかシスターとか、恋愛対象とならない相手ばかりであったのだ。ミィは唯一恋愛の対象になりそうな相手だったが、結局奴隷解放騒動でそれどころではなかったし、そもそもミィはリューにさほど男性として興味を抱いていなかった。


それに、種族が違うためか、リュー自身もあまり性的な衝動を感じる事がなかったという事情もある。(外見的にはまったく同じなのだが。)


だが、エリザベータは肉体的には同種族である。そして、どうやら自分リューに好意を持ってくれているらしい。同種族の妙齢の女性と二人で宿ホテルに入るというシチュエーションには、リューもちょっとドキドキ感を感じていたのである。


ただ、泊まるのは別々の部屋にしていた。それはリューが言い出した事だったのだが。旅を始めた当初は、リューはまだエリザベータに少し警戒していたのである。(出会いが、本気で殺しに来ている態度だったのだから当然である。)


だが、何度か泊まり、慣れてきた頃、リューは金がもったいないから一緒の部屋に泊まろうか? と言ってみた事があった。


それはリューにとってはふと思いついた軽い冗談であったのだが……


エリザベータに二つ返事でいいですよと答えられてしまったのであった。


結局……その日はリューは慌てて冗談だと謝り、丁重に断って別々の部屋に泊まったのであったが。






余談だが、リューは、スキルを失ってから初めての夜は、あまり眠れなかった。


なぜなら、これまでは、次元障壁を部屋の内側やベッドの周囲に張り巡らせ、絶対安全な状態で寝ていたのである。だが、時空魔法のスキルを失ったリューは、無防備な状態で眠る事になったわけで、少しだけ不安感があったのである。


それを察してか、ランスロットがスッと部屋の中に顕れて言った。


ランスロット 「リューサマ、就寝中は我々が部屋をガードいたしましょう。リューサマが冒険者らしい活動を望んでいるのはよく理解していますが、私達も少しは頼って頂きたいのです。せめてこれくらいはさせてください」


だが、リューはその申し出を断った。


リュー 「他の冒険者達はみんな一人で寝ているのが当たり前だろう? 俺も慣れなければな…」


まぁ、不要と言われても、亜空間からそっとリューを見守っているランスロットなのであったが。




  * * * * *




ミムルの街で、高過ぎず安すぎない中等級の宿に泊まったリューとエリザベータ。


翌朝、宿が用意してくれた可もなく不可もなくという感じの朝食を食べた後、二人は冒険者ギルドに向かった。


商業ギルドで金を受け取ったら、そのまま街を出る予定だったので、キャサリンに一言言っておこうと思ったからである。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


飽くことなく何度でも繰り返される


それがお約束というもの


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る