第609話 事後処理…

エゴーリを捕縛し、さてどうしようかと考えていたルチア達の元に新手の騎士団が向かってくるのが見えた。


エゴーリの増援か? と警戒するも、よく見てみると、先頭はルチアの弟のドルイ男爵である。


エゴーリは、先代の伯爵の時代から使えている古参の騎士達、そしてルチアを信奉し言う事を聞かない若い騎士達を全員解雇していたのだが、その者達がルチアを助けようとドルイ男爵の元に集っていたのだ。


これまでは手荒な手段には出ていなかったエゴーリだが、いよいよ強引な手段に出そうだという情報を受けて、ルチアの身を心配して集まってくれていたのである。


ドルイ男爵と共に伯爵家に攻め入り、エゴーリを討って伯爵家を取り戻すつもりで出発したのだが、一日遅かったという状況であった。


馴染みの騎士達と再会したルチアは、一晩ドルイ男爵の館にもどって休んだあと、翌日にはトリオムラーグに戻る事にした。もっとゆっくりしていけばいいとドルイは言ったが、緊急避難で着の身着のまま伯爵邸を脱出してしまった状況である。戻って色々・・と処理しなければならない事があるので、のんびりもしていられないのであった。


もちろん、古参の騎士達も一緒に伯爵領に戻る。


トリオム家で直近に雇っていた騎士団は、すなわちエゴーリの騎士団であり、それを全滅させてしまったため、伯爵家には今騎士団が居ないという事になる。


新たに信頼できる騎士を調達しなければならないが、解雇された古参の騎士達が戻ってくれるというので当面は問題ない。


ちなみにヴェラもルチアと行動を共にしている。とりあえず、伯爵邸に戻り、指名手配を解除してもらう必要があるからである。




  * * * * *




トリオムラーグの屋敷に到着したルチア。無事な姿を見て使用人達も喜んだ。


ルチアは使用人達にとって(そして街の住人にとっても)良い主であった。そのルチアが騎士団に捕らえられそうになって逃げ出した事情は目撃した使用人から広まっていたので、当然、使用人達も心配していたのだろう。


ルチア 「みんな、心配かけたわね」


家令 「ご無事でようございました。エゴーリ様は…?」


ルチア 「捕らえてあるわ」


見ると、後方の馬車から騎士達に連行されるエゴーリの姿があった。エゴーリの手には魔力と体力を封印する手枷が嵌められている。


エゴーリはこれから隷属の首輪を用いて悪事を洗いざらい喋らされる事になる。もちろん、国に認められた正規の手続きを経ての取り調べである。


だが、ルチアが屋敷に入ろうとすると家令に止められた。


家令 「ルチア様、実は…屋敷に入る前にお伝えしておく事がございまして」


使用人達の中に困惑の表情が見える。聞けばなんと、屋敷の中にミーズが居て、使用人達の主として偉そうに振る舞っているというのだ。


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ミーズ 「げ、ルチア……なんで生きてるの?」


ルチア 「離縁されて実家で謹慎中のはずのあなたが、何でここに居るのかしら?」


ミーズ 「そ、それは、エゴーリが呼び戻してくれたのよ!」


ルチア 「あなたは犯罪者として裁かれるのを待っている身のはず。勝手に出歩いていい身分ではないはずだけど?」


ミーズ 「そんなの! 誤解、冤罪よ! エゴーリが罪を帳消しに……無実だと証言してくれるって言ってたわ! だいたい、伯爵の許可なく勝手に離縁の手続きをするとか、第一夫人だからって横暴過ぎでしょ!」


ルチア 「伯爵の許可なく? すべて伯爵の命令で行われた事ですが…?」


ミーズ 「嘘よ! エゴーリが全部あなたが勝手にやったって言ってたわ! エゴーリは怒っていたわよ? あなたはころ……追い出すと言ってたわ! ざまぁないわね、もう謝っても遅いわよ? エゴーリが来たら…エゴーリはどこ?」


ルチア 「エゴーリならここに居るわよ?」


ルチアの合図で、騎士達がエゴーリを連れてきた。


ミーズ 「これはどういうこと?! 無礼でしょう、騎士達お前たち、どういうつもり? 伯爵婦人である私の命令よ、早く伯爵を開放しなさい!」


レンツ 「我々、伯爵家の騎士団は、伯爵に忠誠を誓っております。我々は、こちらに御わすトリオム伯爵の命令でしか動きません」


ミーズ 「だからその伯爵を…え? どういう事?」


レンツ 「飲み込みの悪い御仁ですなぁ、ルチア様こそがトリオム家の正当な当主、トリオム伯爵なのだと言っておるのだ。エゴーリは単なる代理に過ぎん。エゴーリから聞いてないのか?」


ミーズ 「代理…? 嘘でしょ、なんで…エゴーリ! あなたが伯爵なのよね? そう言ったわよね?」


だがエゴーリは顔を背けて何も答えない。


ルチア 「入婿であるエゴーリにはもともと伯爵家の爵位を継ぐ権利はなかったのよ。まぁ、本当に良い領主になったら、爵位を継がせてもよいと思っていたんだけどね。全然ダメだったわ、期待ハズレもいいところ…」


ミーズ 「…と言う事は……」


レンツ 「エゴーリは、伯爵家転覆及びルチア伯爵を謀殺しようとした罪で裁かれる事となる。まぁ重罪は免れんじゃろうなぁ、死罪か、それよりもさら重い刑になるじゃろうの」


ルチア 「ミーズ、あなたもよ。捕らえなさい!」


騎士達がミーズを押さえつけ縄を掛けていく。


ミーズ 「わ、私は、私は関係ないのよ! 全部エゴーリがやった事、私は騙されていただけ! ルチア…様の暗殺だって私は何も関わってないわ!」


ルチア 「エゴーリの悪巧みに関わっていなかったとしても、アレスコード夫人の暗殺計画はあなたの仕業よね? まぁその辺は裁判ですべて明らかになるでしょう。隷属の首輪を使った証言となるでしょうから、嘘は一切つけないわよ」


ミーズ 「そんな……」


隷属の首輪による証言と聞き、真っ青になるミーズであった。


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後に行われた正式な取り調べと裁判で、エゴーリとミーズには極刑が言い渡された。


少し時間が掛かったのは、正規の手続きで、隷属の首輪を使用しての聴取を行ったためである。


国からの任命を受けて派遣された奴隷ギルドの捜査官が取り調べを行う。取り調べとその後の裁判での本人証言は、隷属の首輪を着けて嘘がつけない状態で行われる。


隷属の首輪を付けるのは容疑者だけでなく、聴取を行う捜査官もである。隷属の首輪の悪用を防ぐため、双方の首輪には厳しい制限が掛かっており、捜査に関係がある事を尋ねる/話す以外の事はできないようになっているのだ。


エゴーリの伯爵殺害未遂の罪は重く、またそれ以外にも伯爵家の資産の横領やその他、領内での不法行為が芋づる式に発覚したため、死罪という軽い刑罰では済まされず、重犯罪奴隷という厳しい判決となった。


重犯罪奴隷とは、一切の権利を剥奪された最底辺の奴隷である。犯罪奴隷は命の危険のある鉱山での過酷な任務や薬物や魔法の実験などに利用されるが、特に罪が重い重犯罪奴隷の場合は、労役の前に厳しい拷問刑が課せられる。さらに、簡単に死なないように注意が払われる。怪我などをしても治療されるのだ。与えられるのは最低限の食事と休憩時間のみで、寿命が尽きるまで過酷な労役を強いられる事になるのだ。


ミーズも結局、重犯罪奴隷に堕とされる判決となった。アレスコード伯爵婦人への危害だけであれば、死罪で済まされたかもしれなかったが、エゴーリを唆し、様々な犯罪の計画に知恵を貸していた事が判明したため、より重い刑罰となったのだ。




  * * * * *




ルチアは屋敷に戻ったあと、すぐにヴェラの指名手配解除の手続きをしてくれた。


病気の治療の報酬、さらに命を助けてくれた事の報酬に迷惑料と、多大な金額を半ば無理り持たされたヴェラは、ルチアに惜しまれつつも、帰路についたのであった。


実は帰路の途中でもいくつかトラブルに巻き込まれたし、村に戻った後も、様々なトラブルや冒険がヴェラを待っているのだが……


ヴェラの物語は、またいつか別の機会に語られる事もあるだろう。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


エライザ 「ねぇ、トナリ村に行きたいんだけど? どっちの方角にあるか知らない?」


乞うご期待!




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