愛娘帰郷編
第610話 戻ってきたエライザ
とある森の上空。
雲ひとつない空に、青白い光点が発生する。その光の点は、渦を巻きながら見る見る大きくなっていく…。
それは光のトンネル、竜人族が使うドラゴンハイウェイの出入口である。
その光のトンネルを抜けて、一人の少女が森に降り立った。エライザである。
あの時―――リューの迎えを断り、竜人の里に残ったあの日から、六年の歳月が過ぎた。エライザは十五歳となったのである。
竜人の里でも十五歳と言えば成人として認められる年齢である。そして、その後の身の振り方を決めなければいけない時でもある。
竜人の女は里に残り、子を産み育てるか、竜人の巫女を目指して修行の道に入る事が多い。だが、エライザは里を出る事を選んだ。
実はこれは、エライザが里に来た時から決めていた事であった。
母親のエリザベータはもちろん反対したが、そもそもエリザベータ自身が十五歳で里を飛び出した過去があるので、強く反対もできない。
エライザは人間の世界に行き、冒険者になるつもりだったのだ。そして、リューと共に冒険の旅に出る。エライザが心待ちにしていたその日がついに来たのだ。
だが…
エライザ 「……ところで、ここはどこかしら?」
エライザは方向音痴であった……。
ドラゴンハイウェイとは、太古の昔に竜族が設置した亜空間のハイウェイである。それはこの
地球の高速道路と同じである。利用者は、自分が行きたい場所に一番近い場所の出入口を選び、そこからは地上を移動して目的地に向かわなければならないのだ。
一応、エライザは魔法王国ガレリアに近い出口を選んだはずなのだが、そもそもまともな地図もないような世界である。自分がどこにいるのかすらよく分かっていないのであった。
エライザ 「トナリ村はどっちかしら? というかここはどこ? 私は誰? って私はエライザちゃんだっつーの」
その時、エライザの周囲を魔物が取り囲んだ。オークの群れが近くに居たのだ。突然空から降って湧いたエライザに驚いていたオーク達だったが、それが人型のメスであると分かると、オーク達は興奮して集まってきたのだ。(オークやゴブリンなどは人間の女を捕らえて苗床にする習性がある。)
エライザ 「気色わる…」
興奮してよだれを垂らしながらにじり寄って来るオーク達を一瞥したエライザは、竜闘気を込めて手を振り抜く。エライザのドラゴンクロウがグルリと一周回れば、上下に分断されたオークの死体の輪のできあがりである。
エライザはオークの死体を放置したまま、背中の翼を広げて再び上空に舞い上がる。
だが、どちらの方向を見ても森が続くだけで、どちらに進めばよいのか判断基準となるものは何もなかった。
エライザ 「ん~やっぱりパパに迎えに来てもらえばよかったかしら…? いやいやダメダメ、せっかく驚かせようと連絡もせず黙って来たのに…」
ブツブツ呟きながら適当な方向にふらふらと飛んでいくエライザ。
すると、突然頭の上から大きな影が覆いかぶさってきた。肩に衝撃を感じるエライザ。巨大な鳥が高空から急降下してきてエライザを掴んだのだ。
エライザ 「おおう鳥? デッカイわねぇ!」
鳥の大きさは、翼の端から端までおよそ十五メートルはあろうか。
エライザ 「やっぱ外の世界はワクワクするわね。ねぇアンタ、トナリ村の場所知ってる? 知るわけ無いか…」
エライザは再びドラゴンクロウを放ち、巨大鳥を振り払う。
エライザは竜人の里で六年間、竜人としての能力を磨いて来た。今では竜人の里のナンバーワンの戦士と対等に戦えるほどである。
エライザの見えない竜の爪は、瞬時に巨大鳥を6つのパーツに切り分けてししまった。分かれて落ちていく鳥(のパーツ)。
すると、足元の森で何か騒いでいる。見ると、森の中に何人か冒険者が居るのが見えた。それを見たエライザは喜んで急降下する。
エライザ 「ねぇ、あなた達! トナリ村ってどっちのほうが教えてくれる?」
着地して尋ねたエライザに対し、しかし冒険者達は緊張した顔で武器を構えるのであった。
冒険者A 「……お前、
エライザ 「まっ? 違うわよ、私は竜人よ」
冒険者B 「竜人? 魔族と同じくらいやべぇ
冒険者C 「嘘……じゃないよな。でなけりゃロック鳥をあんな簡単に仕留められるわけがないものな」
冒険者A 「空飛んでたしな…」
どうやら冒険者達はロック鳥を倒したところを見ていたらしい。
エライザ 「ねぇ、そんな事より、トナリ村に行きたいんだけど、知らない?」
冒険者A 「トナリ村? …知らん、聞いたこともないな。俺は生まれてからこのかた、村を出た事がないんで、あまり他の街や村の事は知らないんだ」
エライザ 「え~そう、困ったわね。じゃぁあなたの村はどっちのほう? 近いの?」
冒険者C 「むっ、村に行ってどうするつもりだ? 襲うのか?」
エライザ 「トナリ村の場所を訊くに決まってるでしょ、なんで襲うのよ」
冒険者A 「念のため確認なんだが…、お前は、敵ではないんだな?」
エライザ 「当たり前でしょ、なんで敵なのよ? ああ、あんた達が盗賊とか悪者だったら敵いなるかもしれないわよ? …そうなの?」
冒険者C 「違うわい!」
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
凄腕だな、冒険者になったら稼げるぜ?
乞うご期待!
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