第52話 オーガファイトクラブ@サリ視点

「ちょっとサリ! 待ちなさい!!」

 

ギャビンを追って部屋に飛び込んだアタシを見て、メグが慌てて声をあげたようだ。

 

「大丈夫よ!」

 

ギャビンは落とし穴に嵌ったけど、アタシはそんなに間抜けじゃないわ。

 

落とし穴はそんなに大きくなかったのを見ていたアタシは、落とし穴を一気に飛び越えて部屋の中に着地したのだ。

 

部屋の中には宝箱が置いてあったけど、近づいてみたらただの絵だった。妙に立体感のある絵だったから、扉の外からだと騙されるわね。

 

部屋の中をよく観察してみたら、部屋の奥に階段があるじゃない。

 

階段の下からは何か聞こえる、大勢の人が居るような、獣が吠えるような?

 

階段を2~3段降り、体を折って下階を覗き込んでみると、大勢の人が居た。いや、人じゃない、大量のオーガだ!

 

そして、その中にリューとギャビンが居るのが見えた。

 

リューはいつの間に中に入ったんだろう?

 

と思ったら、なんと、ギャビンがリューを突き飛ばして自分だけ逃げ出した!

 

途中、アタシに気がついたみたいで、方向を変えてこちらのほうに向かって走り始めた。階段まで辿り着いたギャビンは、アタシを押しのけて階段を駆け登って出て行った。

 

リューは置き去り? 何やってんだよオマエ……

 

ギャビンの行動にはイラッとしたが、今はそれどころじゃない、リューを助けなきゃ!

 

だけど、オーガと言えば、Bランクの魔物、それもこの数だったらAランク冒険者でも対処が難しいレベルのはず。

 

冷静に考えれば、自分が飛び込んでもリューを助けるなんて無理! アタシはまだ駆け出しの冒険者なんだから。

 

でも、なんとか戻ってレイナードを呼んでくる事ができれば、リューも助かる可能性がある。レイナードはかつて剣聖と言われたほどの剣の達人なんだから、オーガの群れだろうと一人でなんとかできるはず!

 

でも、ダメ。

 

階段を登る事ができない。

 

実は、オーガがあげた咆哮を聞いただけで、腰が抜けてしまったのよ、情けないけど!

 

というか、このままここに居たらアタシも殺される! ギャビンが逃げてきた事で、オーガ達が後を追ってくる……!

 

…でもなぜか、オーガは追ってこなかった。

 

次の瞬間アタシが目にしたのは、リューがオーガをぶっ飛ばしてるところだったのだ。

 

正直、信じられない光景だった。

 

次から次へと襲いかかってくるオーガを、リューは全てワンパンで、あれよあれよと倒していく。

 

なんなの、あの強さ?!

 

ギャビンがリューは無能だとかさんざん言ってたけど、全然違うじゃない!

 

そりゃアタシも、リューが “クラスなし” って聞いた時はちょっとがっかりしたところもあったけど……

 

ちょっとよ、ほんのちょっとだけね!

 

気がつけば、メグとナオミも階段を降りてきて、リューの立ち回りを見て絶句してた。

 

見てる間に、オーガの群れがとうとう全KOになってしまった。

 

立っているのは中央にいるリューひとり。

 

クラスなんてなくても、あれほど強かったら何も問題ないじゃない。っていうか、アレは、Fランクの強さじゃないわよね?

 

ランク的に言ったら、Aランク? いや、一人でオーガの大群を倒せるんだからSランク級なんじゃないの?!

 

倒れてるオーガの間を縫ってリューがこちらに歩いてくる。

 

オーガ達は死んだわけではいないみたいだけど、全員ノックアウト状態で、追って来る気配はないようね。

 

何にしても、リューが無事で良かった。ギャビンの野郎は後でとっちめてやらなきゃいけないわね。。。

 

    ・

 

    ・

 

    ・

 

― ― ― ― ― ― ― ―

部屋を飛び出したギャビンは、一人だけでダンジョンから飛び出してしまいそうな勢いで走っていたが、レイナードに首根っこを掴まれ捕獲された。もう出口が近いとはいえ、一人で移動するのは危険なためである。

 

リューが戻り、全員揃ったところで一行はダンジョンから無事に脱出した。

 

ダンジョンから出て一息ついたところで、サリに促され、ギャビンがリューのところにやってきて謝罪した。もちろん、助けに来たリューを突き飛ばして自分だけ逃げた行動についてである。

 

青い顔で土下座するギャビン。

 

これは殺人罪で裁かれるべきじゃないのか? とサリ達は責めたてる。

 

またしても置き去りにされた事になるリューであるが、ギャビンも計画的な行動ではなく、恐怖に駆られて衝動的にやってしまった事なので(それは神眼で確認できていた)、悪質とは言えない、ギリギリ緊急避難の範疇だろう。

 

意図的にそういう事をすれば殺人罪に問われると釘を刺した上で、リューはギャビンを許してやる事にしたのだった。

 

仲間を見捨てて逃げるという判断が必要なケースも時にはありうる。全滅するよりはマシであるとか、全滅できない理由がある時である。

 

だが、当然、仲間を見捨てるような行動をした者は信頼を失う事になるし、本人も罪悪感に苛まれる事になる。

 

(罪悪感も麻痺していたヨルマや前ギルドマスター・ダニエルなども居たが、それは特殊な事例であろう。)

 

冒険者の仕事は常に危険と背中合わせである。仲間を失う経験をする者は多い。

 

そのような経験を重ねながら生き残ったベテランは、石橋を叩いて渡るようになるものだ。それは全員が生きて帰る事を最優先に考えているからである。

 

粗忽な行動は自分だけでなく仲間の命も危険に晒す事になるので厳に慎まなければならないのだ。ギャビンも少しは学んでくれたならばそれで良いと思うリューであった。。。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

ダンジョンがおかしいのはリュージーンのせいだった?!

 

乞うご期待!

 

 

 

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