第572話 俺達をジョーズと一緒にするんじゃねぇ

パガル 「ジョーズは死体も見つからないのか?」


アケル 「はい。まぁ、魔物が出る森に捨てられたのなら、死体も残らんでしょうからな」


パガル 「それもそうか。


…ん? そう言えばさっき、納品者の冒険者は姿を見せないと言ってなかったか? だが、ジョーズは納品者を簡単に見つけたとも言ってたような?」


アケル 「いえ、納品については、定期的に代理のHランクの冒険者が持ってきているようです。ジョーズが尾行つけて行ったのもその代理のほうだそうで」


パガル 「Hランク?」


アケル 「未成年者用のランクだそうです。街の中の依頼しか受けられないとか」


パガル 「ジョーズは代理だって知らずに尾行つけていったのか?」


アケル 「さぁ? 知った上でその子供を締め上げて情報を得ようと思ったのかも? ジョーズが何を考えていたのかは、当人に訊いてみないと……まぁ生きていたら、ですが」


パガル 「その子供ガキに消された? 実は子供のフリをして、ソイツがSランクの冒険者だったとか? …エルフとか、歳を取らない種族も居るしな。ジョーズは馬鹿だが、剣の腕はかなりのもんだった。それを、Hランクのただの子供ガキが倒せるわけはねぇ」


アケル 「それは分かりませんが…ただ、少年が戻ってきた時、出た時は居なかった別の冒険者と一緒だったそうなのです。」


パガル 「ん? じゃぁソッチがそのSランク?」


アケル 「いえ、一緒に居た冒険者もまた、少年よりは歳上でしたが、未成年の少女だったそうです。リュージーンという冒険者とは特徴が一致しません。まぁ孤児院の仲間かも知れませんが。ただ…」


パガル 「ただ?」


アケル 「ビリーが言うには、少年のほうは特に何も感じなかったが、その少女のほうは、何というか、凄みとういうか、危険なモノを感じたそうです。あの少女がジョーズを殺したと言われても、不思議とありえない話とは思えなかったと…」


パガル 「…実は少女に見せかけてるだけで、かなりの年齢だとか、実は男だとか…?」


アケル 「それも可能性としてはないわけではないですが。まぁそちらの少女についてはビリーが引き続き情報を探っているようです。


それと、可能性としてですが、ジョーズは殺されたわけではなく、姿を消しただけ、という事もあるかも知れませんね。死体も見つかっていませんし」


パガル 「どういう事だ? は! まさかあの野郎、マンドラゴラの情報を手に入れて、それを報告せずに逃げたとか?」


アケル 「まぁそういう可能性もありますが、あるいは、この件から手を引けと脅された、という可能性もあるかと思ったのです」


パガル 「脅されて引くようなタマじゃなかろうが? ジョーズのほうが脅して返り討ちにあったと言われたほうが納得できる」


アケル 「いえ分かりませんよ? ああいう輩は、明らかに自分より強い相手には逆らいませんから。


いずれにしても―――ジョーズが生きているにせよ、死んでいるにせよ、ジョーズを退けるほどの相手であるのは間違いないかと」


パガル 「手を出さないほうがいい、とお前もそう言いたいわけだな?」


アケル 「僭越ながら」


『おいおい、ここまで来て、収穫なしで帰るつもりじゃないだろうな?』


そう言いながら部屋に入ってきたのはオイレンである。


アケル 「盗み聞きですか? 行儀の悪い事ですな」


オイレン 「たまたま通りがかったら聞こえちまっただけさ。こんなボロ宿だ、前を通れば嫌でも聞こえちまうさ」


アケル 「高級とまでは言えませんが、そこまでボロ宿ではないはずですがね。一応ここも、ゼッタークロス商会が運営する宿なのですから」


オイレン 「そんな事よりよ。相手がちょっと手強そうだと聞いたくらいで引くなら、わざわざ俺達を雇ってこんなド田舎まで来たりはしねぇよなぁ? パガル坊っちゃん?」


パガル 「当然だ。てか坊っちゃんはやめろ」


アケル 「ならどうするというのです? オイレンがそのSランクの冒険者をどうにかしてくれると?」


オイレン 「いや、俺達は分が悪い戦いはしねぇ。まぁ、ソイツが本当にSランクかどうかは怪しいとは思ってるけどな。ただ、ソイツがどんなに強くても…


…ガキ共を人質に取られたらどうよ? 孤児院って事はガキがたくさん居るんだろう? それを攫って…」


アケル 「相変わらず発想が下劣ですな」


オイレン 「お褒め頂き光栄だね。だが、綺麗事言ってる場合じゃねぇんじゃねぇのか? このままだと坊っちゃんは家を追い出されちまうんだろう? 坊っちゃんの執事としても、それは拙いんじゃないのか?」


アケル 「むぅ…」


パガル 「孤児院を襲うのか?」


オイレン 「いや、そのSランクとやらは、孤児院に住んでるんだろう? 孤児院を襲ったらソイツと対峙することになっちまう。ガキを狙うにしても、やはり、納品に来てるってぇガキが狙いめだろ」


アケル 「ジョーズは失敗しましたよ?」


オイレン 「俺達をジョーズと一緒にするんじゃねぇよ」


    ・

    ・

    ・


アケル 「大丈夫なんですかねぇ?」


パガル 「……まぁ、任せるしかない。そのために連れてきたんだしな……」


アケル 「却って悪い結果を呼び寄せなければよいのですが」


パガル 「……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「すごい獲物だな。誰かのお使いか?」

「違う。自分で狩ってきた」

「はぁ? お前さんが? 嘘言っちゃダメだよ」


乞うご期待!


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