第312話 失礼いたしました……

ワミナ 「それは……」


ワミナ(小さな声で)「…ごめんなさい」


リュー 「え? 声が小さくて聞きとれなかった、何だって?」


ワミナ(少し大きな声で) 「疑ってゴメンナサイ!」


リュー 「……え、それだけ?」


ワミナ 「しゃっ、謝罪を要求するっていうから、謝ったんじゃない。それ以上どうしろと?」


リュー 「…謝罪というのは、もっとこう、あれだ、【誠意】というモノをだなぁ……


…なんて言い出すと、破落戸ならずものと変わらない事になってしまうな。まぁ、いいだろう」


ワミナ 「疑った事は悪かったけど、でも、だからって奴隷を勝手に解放してよいわけではないわ」


リュー 「まだ言うか。俺は国王から、奴隷を解放する能力を認められ、その権限を与えられているんだが?」


ワミナ 「国王様から?! 嘘つくんじゃないわよ? さすがにそんな事信じられないわ」


リュー 「本当だよ、なぁ、ドロテア?」


リュー達の話が気になって、小屋から出てきて少し離れた場所から様子を伺っていたドロテアをリューは呼んだ。


ワミナ 「誰……? え、うそ……あなたは! 宮廷魔道士長の、英雄ドロテア……


…サマ?」


ドロテア 「いかにも、英雄だなんて不相応な二つ名をもらっている “ドロテアサマ” です」


ガーメリア 「四天王も居るぞ」


ワミナ 「あなたは宮廷魔道士のガーメリア様……


…なんでこんなところに……」


ベルト 「言ったじゃないですか、ドロテア様とガーメリア様も来ていたと。


信じてなかったんですか?」


ワミナ 「いや、そういうわけではないんだけど……その、現実感がなかったというか……」


リュー 「俺はこの国の国王から、奴隷を解放する権限を貰った。それはドロテアも一緒に居て、知っている事だ」


ドロテア 「その通り。国王は、奴隷の取引の際には必ず違法奴隷でないことを確認する事を法律で義務付けられた。


そして、リュージーン殿は奴隷を調査し、違法奴隷であれば解放する権限を与えられたのだ。


その事は私が証言しよう」


ワミナ 「そんな……奴隷ギルドを無視してそんな事……」


リュー 「そもそもだ、俺は違法奴隷を解放しただけなのだから、本当なら、購入代金も返金してもらいたいくらいなんだが? まぁそれに関しては国王が払ってくれると言うので俺自身には損はないのだが……


…そんな負担を国にさせてしまった事になるわけだよな、奴隷ギルドは? そりゃぁさぞや国王の心象は悪くなっただろうなぁ?」


ワミナ 「そんな! それはマズイんじゃ……!」


リュー 「だいたい、解呪云々の前に、違法奴隷を扱う事そのものが死刑だと聞いたぞ? 解呪の不当性を訴える以前の問題じゃないのか? 違法奴隷を扱っていた罪で、奴隷ギルドそのものが罰せられる事になるのではないのか?」


ワミナ 「わっ、私は知らないわ! 違法奴隷を扱ったのは奴隷商人達よ、そもそも奴隷ギルドは違法奴隷は扱ってはならないと厳しく通達している! 違法奴隷の売買が仮にあったとしても、それは奴隷ギルドの責任ではないわ」


リュー 「さっき言ってたよな? 『奴隷は奴隷ギルドが一括管理しています』とな? 口では禁止だと言いながら、違法奴隷が扱われている事について調査すら行っていなかったのを、商人だけの責任にするのは無理があるんじゃないか? 管理責任ってものがあるだろう?」


ワミナ 「それは……」


リュー 「違法奴隷の売買を、知ってて黙認していたなら重罪だし、知らなかったと言うなら管理能力の欠如だ、奴隷の管理は、もう奴隷ギルドには任せられないと国王も判断するかもしれんな」


ワミナ 「なっ、馬鹿なことを。奴隷ギルドは国を越えた組織よ。一国の王の判断だけで扱いを変更する事などできはしないわ」


リュー 「そうだろうが、少なくともこの国の中では、国王の決めた法律は有効だろ。奴隷ギルドは今後、この国での奴隷を扱う権利を失う事になるかも知れんって事だ。そうすべきだと、俺からも国王に進言しておく事にしようか、『どうやら奴隷ギルトは国の法律に従う気がないようだ』とな」


ワミナ 「まっ、待って……! 私には、そんな大した権限はないのよ! そんな事、私に言われても、一体どうしたらいいのか……」


リュー 「違法奴隷を扱う事を禁じているのだから、それを徹底させればいいだけだろう?


キチンと調査して、違法な取引をしている商人はギルドが自発的に摘発して行けばよいだけのこと。


それすらできないなら、奴隷ギルドは組織としてはもう不要だろう、解体したほうがいいんじゃないか?


お前自身に権限がないなら、上にそう進言するしかないだろうな」


ワミナ 「わ、分かったわよ! 一応、上には伝えるわ。(上が取り合ってくれるかどうかは分からないけど……)」


リュー 「取引時の確認の義務化は王が法律として発令したんだ、やらなければ重罪になるだけだがな。組織内の事は俺は知らんが、その辺はちゃんと言っておけ。


…で、話は以上でよいか?」


ワミナ 「う、はい、もう結構です。お時間をお取りして申し訳ありませんでした……


…ベルト、帰るわよ!」


ベルト 「あ、ワミナ様、もう一件、訊く事があったのでは?」


ワミナ 「え? ああ……(なんかもう意味なさそうだけど……)


あのぉ、ちなみに、リュージーン殿は、奴隷ギルドに所属する気なんて……?」


リュー 「ないよ。査察を行う側の立場なのに、奴隷ギルドに所属したら意味ないだろが」


ワミナ 「ですよねぇ、しっつれいいたしました~」


こうして、リューに言い負かされて大人しく帰っていったワミナであったが、ハラの中は煮えくり返っていたのであった……



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


スケルトンとして……


乞うご期待!



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