第35話 恐喝犯に制裁を
問題の路地の手前でキャサリンとレイラにリューは帰るよう言った。ここのまま行けば一般街に出るので、もう迷う事はないだろう。だが、キャサリンとレイラは一緒に行くと言う。
キャサリンとレイラが居ると、いざと言う時に足手まといになるからと言ったのだが、キャサリンも「自分は元冒険者であり、自分の身は自分で守れる」と言い張るので、勝手にさせることにした。
カツアゲが行われている路地に入っていく一行。
路地の中では、たまたま通りがかった女性がちょうどカツアゲに遭っているところだった。
チンピラA 「ここを通る者は通行料を払ってもらうよ、オバサン?」
女性 「誰がオバサンじゃ!」
チンピラB 「お前、失礼だぞぉ?ねぇ、お姉さん?」
チンピラC 「ここは今日から俺達の縄張りだ。通りたければ通行料を置いてってもらおうか?」
リュー 「お前達、何をしている?!」
チンピラA 「あぁ?!」
チンピラB 「何だ、おめぇ、リューじゃねえか。」
チンピラC;「通行料を徴収してるだけだよ、オメェも払っていってもらおうか?」
リュー 「…ダグを殴って金を奪ったな?」
チンピラA 「ああ? だったらどうした?」
チンピラB 「ああ、あのチビか、なかなか金を出さねぇからぶん殴ってやった。教育がなってねぇぞ?」
その瞬間、吹っ飛んでいくチンピラB。ブチ切れたリューの拳が顔面に叩き込まれたためだ。(もちろん、ごく軽く、死なないように手加減はしているが、リューのパンチはそれでも強烈である。)
驚くチンピラ達。
絡まれていたオバサンは、その隙に走って逃げていった。
チンピラA 「てめぇ!!」
我に返り、殴りかかってくるチンピラA、だが次の瞬間、チンピラAもまた吹っ飛んで壁に激突したのだった。リューに突き飛ばされたためである。
続けざまにリューはチンピラCの胸ぐらを掴む。次の瞬間にはチンピラCの身体は宙を舞い、地面に叩きつけられていた。
チンピラD 「どうなってやがる?」
慌ててナイフを抜くチンピラD。
チンピラD 「リューがこんなに強いわけねぇ…」
チンピラAもヨロヨロ立ち上がるとナイフを抜いた。
チンピラA 「てめぇ、舐めた事しやがって、タダじゃ済まさねぇぞ…」
だが、次の瞬間には、再びチンピラ達は宙を舞って地面に叩きつけられてしまう。
強く地面に体を打ち付け、動けなくなったチンピラたち。
もちろん、それでは終わらない。ダグを殴り、一日がんばって働いて稼いだ金を理不尽に奪ったのだ。そんな奴らを簡単に許す気はない。
リューは地面に転がっているチンピラ達を一人ずつ、つまみ上げては地面に叩きつけ始めた。何度も何度も地面に叩きつけられるチンピラ達。
リューにとっては、ごく持ち上げては重力にまかせて地面に落としているだけなのだが。何度も何度も地面に落とされたほうは堪らない。
「ぐっ、……うげ……悪かった……謝る……許してくれぇ…」
必死で謝るチンピラたち。
リュー 「ダグから奪ったのはいくらだ?」
チンピラA 「ほ、ほんの、銀貨数枚だよ…」
リュー 「返せよ?」
チンピラB 「はい、返します……」
リューに睨まれて素直に金を返すチンピラ。
銀貨数枚くらいリューがダグに払ってやっても良いのだが、それでは意味がない。きっちりコイツラから取り返す事に意味があるのだ。
「それにしてもお前ら、なぜこんな一般街に近い場所でやっている?」
「上からの命令なんだよ……縄張りを拡張することになったんだ……」
・
・
・
― ― ― ― ― ― ― ―
スラムの奥には、犯罪組織が3つほど居を構えており、それぞれ縄張りが決まっている。
だが、その「縄張り」はもっとスラムの奥である。
教会のある周辺は一般街とスラムの中間にあり、ボーダータウンと呼ばれている。一般街に近いため、騒ぎを起こせば警備兵がやってくる可能性が高い。
これまで、ボーダータウンには犯罪組織は手を出さないのが暗黙の了解だったはずなのだが……。
理由はともあれ、教会周辺の地域まで犯罪組織の縄張りにされるのは、リューとしても見過ごせない。教会の子供達が巻き込まれる。
リュー 「上ってのは?どこの指示だ?」
チンピラA 「それは言えねえな」
チンピラは惚けようとするが、心が読めるリューに隠し事はできない。
リューの目が金色に光る。
リュー 「なるほど、やはり四夜蝶か。」
チンピラA 「!?」
リュー 「おい、帰って上の奴に言っておけ。ボーダータウンに手を出「お前達、動くな!!」」
リューはチンピラたちを痛めつけた後、解放するつもりだったのだが、そこに警備隊が駆けつけてきてしまった。
路地の出入口も既に警備隊員に固められているようだ。
「この路地で恐喝が行われていると通報があった!全員逮捕する!」
倒れて動けないチンピラを捕縛していく警備隊員。
そして、隊員達はリューを取り囲み槍を向けたのだった。
離れた場所でキャサリンとレイラも取り囲まれており、キャサリンがギルドの身分証を出していた。それを見て、リューもギルドカードを出しながら言った。
「おい、俺はソイツラとは関係ないぞ?」
「嘘をつくな!そうやって逃げる気だろう?!」
……まぁ仕方がない。ドロボーと叫んでいる人間がドロボーという可能性はある。善意の他人のフリをして逃げる犯罪者も居るだろう。事実関係が確認できるまでは、とりあえずその場にいる全員の身柄を確保する必要があるのは理解できる。
リューは素直に話はするつもりだったのだが……
隊員の一人が、後ろからいきなりリューを槍で刺そうとしたのだ。危険を予知する能力※でそれを察知したリューはそれを躱し、槍を掴む。そのまま槍を横に振り回し、突いてきた隊員を壁に叩きつけた。
(※リューには常時自動発動する予知能力がある。近未来において、身の危険が迫っている時にそれを察知し回避する事ができるのである。リューには不意打ちは効かないのである。)
「貴様、抵抗するか!」
取り囲んでいた隊員達が殺気立つ。
だが、リューも腹を立てていた。
先ほどの槍は明らかにリューの心臓を狙っていた。つまり、殺す気で突いてきていたのだ。
特に抵抗していたわけでもないリューを何故殺そうとする?
あるいは、傷つけてから捕縛して、殺さない程度にポーションで治療して連行という手順なのだろうか?
だが、いちいちそんな事をしていたらポーションがもったいない気がするが。それに、即死させてしまったらポーションでも助からない可能性もある。
だいたい、毎回そんな事をしていたら、関係ない人間がたくさん傷つけられる事になって、いくら治るとは言ってもいらぬ反感を買う事になるのではなかろうか。
何にせよ、黙って刺されるわけにもいかない。
と言うか、本気で殺しに来ているならこちらも本気で答えなければならない。殺そうとする者は殺される覚悟が必要だ。
リューが殺気を放った瞬間
「その人は違います!私を助けてくれた人です!」
女性の声がした。どうやら先程チンピラに絡まれていた女性のようである。その女性が警備隊を呼んできたようだ。
女性は警備兵にリューが刺されそうになって、必死で叫んでくれたらしい。
「お前達、槍をおろせ、その男は違う!」
後ろから隊長と思しき男がやってきて叫んだ。
男はリューに近づいてきて言った。
「第三警備隊隊長のゴランだ。君は?身分を証明するものか何かあるか?」
「リューだ、冒険者だ。」
リューはギルドカードを見せた。
ゴラン 「リュージーンか……Fランク? 信じられん……
先程の殺気は、とてもFランクとは思えなかったが?」
「本当だ!その男の身分は私が保証する!」
後ろからキャサリンがやってきた。
リュー 「ランクは必ずしも強さを現しているわけではないってことさ。…それより、警備隊というのは問答無用で疑わしい人間を刺殺して捕らえる事になっているのか?俺は抵抗もしていなかったんだがな?」
ゴラン 「いや、済まない、教育が足りなかったようだ。後でよく注意しておく。」
ゴランは素直に頭を下げた。
ゴラン 「いつもじゃないんだ、あの男だけだ。あの男は少し問題があってな。」
内部できっちり処罰する、二度とこのような事は起こさせないと約束したのでリューも引き下がることにした。
ゴラン 「あ、話を聞かせてもらいたいので、明日、詰め所に来てくれると助かるんだが。」
分かったとリューは答え、帰路についた。
・
・
・
・
・
しかし……
縄張り拡張が、チンピラの独断だったわけではなく「上」の指示だったとすると、手を出すなと言われてはいそうですかと引き下がる事はないかもしれない。
リュー 「どうやら、スラムでも少し“魔物退治”を行う必要があるようだな…」
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
逮捕されたチンピラは何故か即日釈放されてしまう。そしてリューに復讐の魔の手が迫る!
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます