第178話 マガリエル家の呪い
エミリア 「原因……」
そのまま黙ってしまったエミリア。
ホイスとヴェラも硬い表情である。
リュー 「言いたくないなら別にいいが」
リューの目が金色の光を強く放つ。
神眼でエミリアの心を覗いて隠している秘密を暴く……
……なんて事をする気はリューにはさらさらなく。そもそも、他人の家の事情にいちいち関わり合いになりたくないと思っているリューの基本方針は、さっさと仕事を終わらせて帰るである。
神眼を発動したのは、呪いの元を探るためである。呪いの魔力は微弱で、魔眼持ちでもレベルが低ければ気づけないかも知れない。だが、神眼の能力をフルに発揮すれば……
リューはエミリアにまとわりついている邪悪な魔力を辿っていく。窓を開け、外を見ると、魔力が流れてくる方向は街の北の山中であった。山中には古城が見える。
リュー 「あの城は?」
ホイス 「あれはダンジョンだ。不死王城と呼ばれている。
リュー 「エミリアを襲っている魔力は、どうやらその城から送られているようだが?」
それを聞いたヴェラがホイスと顔を見合わせる。
リュー 「何か思い当たる事があるようだな。まぁ話したくないのならよい。だが、この “呪い” が続く限り、一時的に良くなってもまた徐々に悪化していくだけだろうな」
エミリア 「呪い……ですか」
リュー 「ああ、まるで、誰かエミリアに恨みを持つ者が呪い続けるように見える。何にせよ、完全に解決するには、しつこく流れてくる魔力を完全に断ち切るしかない。それには、それを発している元を断つしかないんじゃないか? あるいは……」
ヴェラ 「…あるいは?」
リュー 「…相手に謝って赦してもらうとか?」
ホイス 「謝るだと……?!」
リュー 「まぁ、逆恨みだったら謝りようもないがな。普通に生きていれば恨みを買う事なんて時々ある事だ。ましてや領主の立場となれば尚更だろう。もし逆恨みでこちらを殺そうとするような相手なら、相手を殺してしまうしか解決方法はないだろうな」
ヴェラ 「リュージーン様なら、呪いの魔力を無効化し続ける事ができるのではないですか?」
リュー 「可能か不可能か? と問われれば、可能ではある、が。引き受けるか? と問われれば、それはできないな。俺に一生エミリアの側に居ろと言われても困るからな。
そもそも、俺の仕事は解決のヒントを見出す事までだ。ヒントは与えた、しかも、一時的にせよ病も回復させた分は無料の特別大サービスだ。依頼された仕事は十二分に完了したと思うが?」
ヴェラ 「治療についての報酬は別途お支払いします。それ以降の呪いの無効化については、改めて依頼します、いくら報酬を払えばお引き受け願えますか?」
リュー 「ん~……まず第一に、俺は自由が好きで。第二に、金には困ってない」
ヴェラ 「ぼ、冒険者なんでしょう? ならば冒険者ギルドに指名依頼を出せば…」
エミリア 「ヴェラ!」
リュー 「俺はFランク冒険者だ、指名依頼を受ける義務はない」
ヴェラ 「領主命令で、Fランクでも拒否不可の指名依頼を出します」
エミリア 「ヴェラ!」
リュー 「そんな事ができるのか知らんが……俺を敵に回したいならそうすればいいさ」
ヴェラ 「…っ、た、例えば、ずっと側に居なくとも、定期的に治療に来てもらうような依頼であれば、お引き受け願えませんか?」
エミリア 「ヴェラ、やめなさい。無理強いしてはいけませんよ。リュージーン様、申し訳ありませんでした」
リュー 「ま、たまに来るくらいなら引き受けてもいいけどな。頻度にもよるな。それに、相手がずっと黙ってるなら良いんだが、向こうも意志がある存在なら、何かしら対策を打ってくるのではないか?」
ヴェラ 「そ、それは、その時にまた考えて対策を」
リュー 「いたちごっこだなぁ……
…なぁ、呪われるというのは、呪う側にもそれなりに、呪うだけの理由があるんじゃないのか? 何か恨まれるような事をしたんじゃないのか?」
ホイス 「無礼であろうが」
リュー 「……すまんすまん、俺もお家の事情に踏み込む気はない。では、無礼討ちにならないうちに退散させてもらおう」
立ち上がり、部屋を出ようとするリュー。
リュー(振り返り) 「騎士団でも送りつけてダンジョンの中の呪いを発している原因を討伐してしまえば良いのではないか?」
ホイス 「…不死王城のボスは
リュー 「不死王が呪いを発している元で間違いないって事か。不死王の恨みを買うような事をしたわけだな」
ホイス 「……それ以上はお前が知る必要はない。ヒントとお嬢様の身体を治してくれた事は感謝する。帰るが良い」
ヴェラ 「でも、まだ呪いが続いているのならお嬢様がまた……」
ホイス 「原因が分かったのだ、魔道士を集めて対策を練れば、何か手があるかもしれん。魔力を遮断できればよいのであろう?」
リュー 「ああそうだな」
エミリア 「……待って下さい……
……父が…原因なのです……」
ホイス・ヴェラ 「お嬢様?!」
エミリア 「リュージーン様は、呪いの事をそこまで見抜いてしまわれたのです。今更隠しだてする意味もないでしょう」
リュー 「父親?」
エミリア 「不死王城には、確かに不死王が居るのです。眠っているという事にしてありますが、眠ってなどいません、ずっと活動中です。そして、我がマガリエル家は、古の時代に、その不死王と盟約を交わす関係にあったのです。
ですが……
アンデッドの城が近くにある事で街に悪影響もありまして。
ダンジョンから流れてくる瘴気が徐々に街に溜まり、その雰囲気だけで鬱々とした気持ちとなります。長く居ればそれだけで心を病んでしまうのです。
また、街の住民には見えないのですが、時折、ダンジョンから出てきたレイスが町中を徘徊し、ドレインタッチで住民の生命力を吸ったりもするのです。そのため活力を奪われ、無気力になったり病気になったりする人間も出てしまう有様で。
マガリエル家が雇っている騎士団も、実はもう崩壊寸前で、外から人材を雇わざるを得ない状況でして……」
ホイス 「それであのような出自も怪しいような人物も雇わざるを得なくなったのだ、忌々しい」
リュー 「あの、ブオンとかいう騎士の事か」
ホイス 「そうだ、奴は突然現れて、自分はマガリエル家の先祖に仕えていた騎士の末裔だといい出し、雇ってくれといい出したのだ。ご丁寧にマガリエル家当主から爵位を授かったという偽造証明書まで持ってきてな」
ヴェラ 「おそらく偽造であったと思いますが、署名に込められた魔力紋は古すぎて風化して失くなってしまった可能性もあるので、確認が取れなかったのです。ただ、マガリエル家に伝わる資料を調べてもそのような記録は残っておらず……」
ホイス 「偽造に決まっておる。そもそも、騎士爵とはいえ、叙爵の権限を持つのは王だけだ。貴族の推薦で騎士爵が与えられる事はあるが、王族の署名ではなく貴族の署名のみなどあるわけがない。それに騎士爵はそもそも一代のみで世襲はされない爵位だ、仮に先祖が仕えていたのが本当であったとしても、子孫には関係ない」
ヴェラ 「ただ、騎士団が無気力化しつつある状況の中、あの男はなかなかの活力を持っておりまして。現在は平民であったとしても、過去にマガリエル家に仕えていた者の子孫が雇ってほしいと頼ってきたなら、人手不足もあり、意欲のある人間も欲しかったので、雇ってみる事にしたのです」
ホイス 「私は反対したのだがな、あやつ、おそらく貴族としての教育はまともに受けておらん、教養のかけらも感じられなかったのでな」
エミリア 「申し訳ありません、すべては雇う事に賛成した私の責任です。リュージーン様には不愉快な思いをさせてしまい申し訳有りませんでした。ホイスにも、いつも苦労を掛けてばかりで申し訳ありません…」
ホイス 「あ、いえ、エミリア様を責めているわけではないのです、出過ぎた事を申しました、すべて、私の監督不行き届きです、申し訳ありません」
リュー 「奴は、自分が書類を偽造したから、俺もそうなのだろうと思ったわけか……。まぁ奴の事はどうでもいい、それより盟約の話は?」
エミリア 「はい……話を戻しますが、ある事でアンデッドの王との盟約が世に知られてしまい、貴族の社会でマガリエル家はアンデッドと親交がある下賤な貴族というレッテルを貼られてしまったのです。シンドラル伯爵は若い頃、父と一緒に冒険をした事があり、その縁で親しくして頂いておりますが、その他の貴族にはほとんど相手にされない状況が今も変わりません。
しかし、マガリエル家は盟約により、ダンジョンを守る必要があるため、この地を離れる事が許されません。盟約は決して破ってはならない、もし破れば大いなる災いが不死王によってもたらされ、マガリエル家は滅ぶと代々語り継がれてきているのです。
そのような状況を打破しようと、父が不死王の討伐に乗り出しました。ですが結局、父は帰ってこず、私も呪いを受ける事となってしまったのです」
リュー 「だが、この街にも冒険者ギルドはあるのだろう? ダンジョンがあるなら冒険者が潜ったりするんじゃないのか? 立ち入りを禁止しているのか」
エミリア 「いえ、冒険者がダンジョンに潜るのは問題ありません。そもそも、不死王城の最下層まで到達できるような冒険者は居ませんし、仮に到達できてもボスモンスターとして不死王が出てくるわけではないのです。ボスとしては別のモンスターが現れ、仮にそのボスを倒したとしても、ダンジョンボスなので、時間が経てばまた復活するだけで、不死王が出てくるわけではありません」
リュー 「なるほど……不死王はダンジョンボスではなく、ダンジョンの管理者なのだな」
エミリア 「おそらくそのような立ち位置なのだと思います。なんでも、ダンジョンの地下に研究室を持っており、そこで長い間、何かの研究に打ち込んでいるとか。冒険者が普通にダンジョンに挑むのは良いのですが、不死王とその研究室に関しては絶対に不可侵、というのが古い時代にマガリエル家が不死王と交わした盟約なのです」
リュー 「どうしてそんな盟約を交わす事になったんだ?」
エミリア 「はい、マガリエル家がこの地を領地に貰い受けるより以前の話ですが、アンデッドが出るダンジョンなど消滅させなければならないという考えが当時の王家・貴族の間に根強くあり、不死王城にも何度も軍隊を送り込まれた事があったようです。
不死王とアンデッドの軍団の力は強く、人間の軍隊では太刀打ちできなかったそうなのですが、いちいち煩わされずに落ち着いて研究がしたかった不死王は、その後、マガリエル家がこの地を領地として譲り受けた際に、盟約を結ぶ事を持ちかけてきたのだと言われています」
リュー 「盟約と言うからには、マガリエル家にも何かメリットがあったという事か? 不死王からの一方的な要求では、盟約とは言えないだろう」
エミリア 「はい、もし、マガリエル家が外敵に攻められた時には、不死王が助力してくれると。その後、今から二十代ほど前の当主が、戦争で窮地に陥った際に盟約を頼り、アンデッドの軍隊の助力を得て戦争に勝ったと言う事があったそうです。
ただ、戦争には勝利したものの、その事がキッカケでアンデッドを使役したという噂が世に広まってしまいました。そして、マガリエル家はアンデッドを使役する下賤な貴族として認知され、疎外されるようになってしまったのです。アンデッドはというのは人間から見ればとにかく生理的に忌み嫌われる存在ですから……
それ以降、不死王との盟約については極秘事項とされました。幸いにもその後アンデッドに助けを求めるような事態は起きず、世間一般で盟約について知る者はほとんど居なくなったのですが……貴族の間ではそのような情報は今でもしっかりと受け継がれ続けているようで、マガリエル家の不遇は今でも変わらない状況なのです。
そして、私の祖父、マガリエル家36代当主ヨギ・マガリエルが、そんな状況を覆そうと不死王の討伐を決意しました。
実は、祖父には若い頃、将来を誓いあった恋人が居たのですが、親の反対で結ばれなかったと聞きます。祖父は諦めたのですが、他の貴族に強制的に嫁がされそうになった相手の女性は、それを拒否して自殺してしまったのだとか……
マガリエル家が普通の貴族であれば起きなかった悲劇です。祖父は、子孫が同じような思いをしないためにと、人生を掛けて不死王を倒す方法を調べたのです。そして祖父の準備した策を、父ハリが実行に移したのです」
リュー 「盟約を破棄しようとすれば呪いが来る。放って置いても貴族社会でハブられ続け、しかもこのままでは街が死ぬ。まるで盟約というよりはそれ自体が呪いだな。状況を覆すには、不死王を討伐するしかないと考えたわけだ。
……実行に移したって事は、不死王に対する具体的な対抗策は見つかったのか?」
エミリア 「祖父が情報を集めたところ、アンデッドを殺せる剣がある事を知りました。そして、父が冒険者として世界を巡り、ついにその剣を見つけ出したのです。祖父が生きている間は、それだけでは恐らく勝てないと実行を許してくれませんでしたが、祖父の死後、父が不死王討伐を強行してしまったのです……」
リュー 「ダンジョンを踏破しても不死王には会えないんだろう? 不死王をおびき出す手段もあったって事なのか?」
エミリア 「はい、盟約に従い、マガリエル家と不死王の間で連絡を取る
リュー 「なんだかお粗末な感じの作戦だな、そもそも、不死王って殺せるのか? 不死王っていうくらいだから不死なんだろう? 結局その剣では不死王は殺せなかったという事か?」
エミリア 「詳しくは分かりません、父は戻ってはきませんでしたので……剣だけが戻ってきました、父の部下が持ち帰ったのです。ただそれは不死王の罠だったようで、剣を受け取った私は呪われ、剣は錆びた安物の剣に変わってしまったのですが」
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次回予告
リュー、ダンジョンの情報を知るために、ロンダリアの冒険者ギルドに顔を出す
乞うご期待!
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