第165話 リューを目の敵にしてた理由

コカトリスのガスによる石化については、これまで治療法が発見されていなかった。最高位の治癒魔術士の状態異常解除魔法であれば解除できるという噂はあるが、そのような高位の魔法が使えるのは世界に数人しか居ない教皇クラスのみなのである。

 

石化を解除する治療薬も存在しないし、一般的な治癒魔術では石化を治療する事はできなかったため、かなりの重症でも生きてさえ居ればポーションや治癒魔法で回復できてしまうこの世界でも、石化はイコール「終わり」「死」という認識だったのである。

 

だが、それを簡単にリューは治療してしまった。もし治療方法があるなら、これもこの世界に革命を起こすような大発見である。

 

請われてリューは、石化ガスについて神眼で観察した情報を開示した。(リューは魔眼のような、魔力を見る能力があると言う事にしておいた。)

 

石化ガスは魔力の塊であった事。しかも単純な魔力ではなく、高度な術式が組み込まれたかのような、高度な作用を及ぼす魔力の霧であった。

 

それは、浴びせられたモノの内部に浸透し、留まり続け、対象を石化したような状態にしてししまう。

 

であれば、この内部に留まっている魔力を分解して消してしまうか、体外に排出させてしまえば、石化状態は解除できる可能性がある。

 

具体的にリューがどうやっているのかは、リュー自身にも説明できないのだが。

 

ただ、それだけヒントがあれば、後は治療士ヒーラー錬金術士アルケミスト達などが集まって研究を続ければ、石化解除の治癒魔法や薬、魔道具などを開発する事ができる可能性がある。

 

― ― ― ― ― ― ―

※この研究については、領主の協力も得てバイマークに領内外から優秀なマジシャン・ヒーラー・アルケミスト達が集められ研究が進められる事になった。そしてついに、石化を解除する魔道具が開発される事になる。

 

錬金術によってついに生み出された金色の針。使い捨てだが、石化してしまった者を刺すと、石化ガスの魔力があたかも風船に穴を空けたが如くに抜けていき石化が解除されるのである。

 

この「金の針」は、回復薬ポーションと共に、石化攻撃をしてくる魔物の居るダンジョンでは必携の道具となったのであった。

 

ちなみに、その研究の中心的な役割を果たしたのは、イライラの息子、ラアルである。ラアルは何年もの間石化していたため、すぐには身体がうまく動かずリハビリが必要であった。すぐに冒険者に復帰できなかったため、代わりに、自身が石化していた経験も生かして、石化解除の研究に貢献したのであった。それがキッカケで、ラアルはアルケミストの道に進み始める。

 

イライラとしても、息子がアルケミストに転向する事を歓迎した。再び息子が危険な冒険者をするよりは、街の中で安全な研究職をしてくれているほうが、母親としては安心なのである。自分にも他人にも(息子にも)厳しかったイライラであったが、死んだと思った息子が生還してからは、ただの一人の母親になってしまったのであった。

 

実は、ラアルにはアルケミストの才能があった。元々ラアルには魔法の才能があったのであるが、優れた剣士である母の指導もあり、またラアル自身も母に憧れ剣士を目指していた事もあるので、多少無理をして剣の修行を続けていたという経緯があったのだ。

 

だが、母も息子も、思い込みは捨て、得意な事を生かしてみた結果、ラアルは錬金術師として素晴らしい才能を発揮、後年は魔道具製作者として名前が売れていく事になるのである。

― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

リュー 「イライラ、ひとつ訊いてもいいか? 俺が冒険者に登録に来た日、俺がパピコに殴られていたのを見ていたよな? 助けようとは思わなかったのか?」

 

(※リューは知り合いの人間の心は余程の事がない限り、神眼で覗かない事にしている。知らないほうが幸せな事はある。身の回りに居る人間の心をいちいち全て覗いていたら、きっと仙人になってしまうだろうとリューは思っていた。)

 

イライラ 「助けなぞ必要なかっただろう」

 

リュー 「最初から実力差を見抜いていたって事か?」

 

イライラ 「まぁ、基本的には先輩に絡まれて自力でうまく切り抜けられないような奴は、冒険者になっても生き残れんと思っているだけだ。

 

…それより、俺もお前に確認しておきたい事がある。

 

実は、俺には姪っ子が居たのだが……」

 

リュー 「?」

 

イライラ 「…姪は王都の冒険者ギルドに勤めていたんだが、左遷されて、その後ミムルの冒険者ギルドのマスターになったと聞いた」

 

リュー 「え」

 

イライラ 「だが、魔族の襲来あんなことがあって……その子の行方も分からなくなった。おそらく魔物に食われちまったんだろうな……」

 

リュー 「まさか、それって……キャサリン?」

 

イライラ 「そうだ。

 

キャサリンはかなり腕が立つ子だった、俺ほどではなかったが、魔物に襲われた程度でそう簡単に死なない程度にはな。

 

そのキャサリンが居たミムルが全滅したと聞き、何があったのか、俺も情報を集めたんだよ。

 

場合によっては魔族の国に殴り込みに行こうかとさえ考えていたんだが……

 

…だが、俺が情報を入手した頃には既に事態は全部終わった後だった。隣国まで情報が流れてくるのには時間が掛かるからな。

 

入手した情報によれば、リュージーンという謎の人物が魔族を退けたという話だった。

 

……お前の事だろう?」

 

リュー 「最初から俺の正体を知ってたって事か…」

 

イライラ 「 “正体” は今でも謎のままだがな。

 

あの日、新人の資料を見ていて驚いたよ。ミムルから来たリュージーンと書いてあったのだからな。

 

しかし、ミムルで冒険者だった奴が、しかも、魔族を一人で退けるほどの腕の人間が、なんで新人のフリをしてこの街に来てるんだ?

 

その後、昔の伝手を使ってリュージーンについて追加の情報を探ってもらったところ、妙な情報が入ってきた。

 

ミムルには確かにリュージーンという名の少年冒険者が居たという。だがその少年は、薬草採りしかしない万年Gランクで、無能と馬鹿にされていたと言う話だった。

 

魔族を退けたリュージーンとは思えない。名前が同じだけで別人なのか?

 

あるいは、何か理由があって実力を隠していたのか?

 

さらに言えば、実はその少年は一度、ダンジョンで置き去りにされて死んだと報告されていたという。ところが少年は一人で自力で生還し、その後別人のような強さを発揮するようになった、なんて情報もあった。

 

まるで、誰かがその少年と入れ替わったようじゃないか?

 

その後、魔族の襲撃があり、それをそのリュージーンが解決、ガリーザ王国は魔族と国交を持つに至ったというが……

 

実はそのリュージーンが魔族と通じていた工作員であった、なんて噂も一時期流れていたとか」

 

リューは驚いた。イライラが手に入れた自分に関する情報は断片的だと思っていたが、そこまで詳細な事情を知っていたとは……

 

イライラ 「さて、そんなリュージーンが、新人のフリをしてこの街に来た。情報を並べてみると、あまりに胡散臭過ぎるだろうが。

 

だから、お前を警戒して観察していたんだよ。

 

パピコに殴られた時も、障壁バリアを張って防いでいたのが分かっていたしな。だから放置して様子を見た。

 

まぁ、お前がこの街に来た理由については領主の依頼だったというのは分かった。だが……

 

ミムルの件については、改めて訊きたい事がある。

 

お前は魔族の街に復讐に乗り込んだと聞いた。だが結局、復讐せずに魔族と仲良くなって帰ってきたそうじゃないか?

 

キャサリンは死んだ、街は全滅したっていうのに、何故仇を討たなかった? ミムルなどどうでも良かったのか? それともやはり、魔族と通じていた工作員だったのか?」

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

イライラ、銀仮面の真の実力を知る…

 

乞うご期待!

 

 

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