第166話 そんなチャチなもんじゃねぇ

リュー 「……ミムルは俺にとっても第二の故郷みたいな街だったよ。家族みたいに思ってた人を殺され、怒りが沸いたから復讐に行ったんだ。

 

だが……

 

人間側が魔族を怒らせる原因となる事をしてたのを知ってしまったのでな。

 

…人間が、魔族の街に侵入して、魔族の子供を誘拐していた。魔族達はそれを取り返しに来ただけだった」

 

イライラ 「……それは……なるほどな……。

 

…聞いてみれば、確かに、金に目が眩んだ人間がやりそうな事だ。

 

…だが、子供を取り返して犯人を殺せば、街を全滅までさせる事はなかったのではないか?」

 

リュー 「さすがに街を滅ぼした事はやりすぎだったとヴァンパイアのボスが謝罪してきたのだよ、正直、俺も拍子抜けしてしまった」

 

イライラ 「魔族はヴァンパイアだったのか!」

 

リュー 「ああ、ヴァンパイアのロードボスは事情を知らなかったらしい。止めに入ったときには既に街が全滅した後だったそうだ。

 

…昔に比べると、人間達は随分弱くなったらしいな」

 

イライラ 「昔?」

 

リュー 「2千年前の人間と魔族の戦争があった頃だ」

 

イライラ 「そうか……ヴァンパイアは不死身だと言うからな、2千年前の戦争からずっと生きていたと言う事か。

 

…不死身の相手であるなら、戦わずに済んでよかったな?」

 

リュー 「いや、戦ったがな、ミムルで。下級のヴァンパイアは倒せたが、ロードは強かった、不死身なのは本当だった。街が全滅したのは当然だ、おそらく全面戦争になったら人間は勝てないだろう」

 

イライラ 「だが、お前が撃退したと聞いたが?」

 

リュー 「相手が退いてくれたのさ。負けはしなかったが、殺す事もできなかった。もし時間無制限で殺し合いをしていたら、最後はどうなっていたかは分からん」

 

イライラ 「殺せなかっただけで、勝つには勝ったって事か」

 

リュー 「……ヴァンパイアというのは元々あまり戦いを好まない種族のようでな。

 

復讐で同じ様に魔族の街を滅ぼしてやろうと乗り込んだはいいが、謝罪され、事情を聞かされ、毒気を抜かれてしまった。まぁ……戦っても勝てるか分からんような相手が、素直に謝って賠償までしてくれるというのなら、手打ちにするしかなかったと言う感じだ、納得できたか?」

 

イライラ 「うーん情報量が多いな……理解して整理がつくまで時間がかかりそうだ、俺はあまり頭が良くないのでな……」

 

リュー 「…で、魔族のスパイではないかと疑って、俺を目の敵にして、酷い扱いをしてたってわけか?」

 

イライラ 「…なんとなく、魔族に復讐しなかったお前がキャサリンの仇のようにも思えてしまってな……

 

正体を暴いてやろうと、わざと繰り返し煽ってみたんだ、レベルが低いと侮ってやったら怒って正体を明かすんじゃないかと思ったんだが」

  

リュー 「下手な煽り方だったな」

 

イライラ 「ふん、お前の演技力も相当酷いもんだったぞ……? 

…確かにあれじゃぁ工作員などできはしないな」(笑)

 

リュー 「って事は、あの研修シゴキは俺のとばっちりだったってわけか」

 

イライラ 「正直、他の研修生には悪いことをした。ほとんど私情ばかりだな、俺は。教官失格だと思っている」

 

 

   *  *  *  *

 

 

イライラ 「しかし、お前の本当の実力はどれほどなんだ?」

 

その後、イライラは、改めてリューに模擬戦を申し込んだのであった。それを受けたリューは、今度は時空魔法や神眼を使わずに地力だけでイライラに挑んだ。

 

リューの素の実力でイライラに勝つのは難しいと思われたが……

 

もともとリューの身体能力は極めて高く、しかも、既にイライラの技は先の模擬戦でほとんどスローで見て学んでいた。リューも二刀を持つ事で手数でも負ける事はない。

 

最初こそイライラに叶わなかったリューであったが、何度も対戦を繰り返すうちに互角の展開、さらには二回に一回はリューが勝つようになったのであった。

 

リュー 「やっぱり強いな、イライラ。さすがSランクだ」

 

イライラ 「Sランクだ。しかし、最後まで “奥の手” は秘密のままか。それを出せば本当は俺など相手にならんのだろう?」

 

リュー 「それでは意味がない、素の実力が大事だろう?」

 

イライラ 「まぁな。お前の奥の手スキルは謎のままだが、地力を鍛えておく事で、スキルを使った時にも良い影響はあるだろう。

 

しかし、短期間にここまで強くなられては、俺も自信がなくなってくるぞ……」

 

リューは以前、レイナードの手ほどきを受けてかなり剣技が上達した。それが、イライラとの模擬戦を繰り返す事で、新しい技の引き出しを増やす事ができたのである。

 

実はこれは、息子を助けてくれたリューに対するイライラなりのお礼の仕方なのであった。

 

最後に、イライラは一度だけ、銀仮面と手合わせを望んだ。つまり、奥の手を出した全力のリューの実力を知りたかったのだ。

 

仕方なくリューは銀仮面を呼んできた。(更衣室に行って銀仮面を被ってきた。設定は頑なに守る事にしていた。)

 

銀仮面と対峙するイライラ。リューは二刀を持って模擬戦をやっていたが、銀仮面は長剣の一刀を構えていた。

 

いざ、イライラが攻撃を開始しようと思った瞬間……

 

気が付けば銀仮面が背後に居て首筋に剣を突きつけられていた。

 

 

 


 

後にイライラは語った。


「何が起きたのか分からなかった。

 

催眠術だとか超スピードだとかそんなものじゃない、まるで時間を止めたかのような……まさかな。

 

とにかく、恐ろしいものを体験した……

 

銀仮面、敵に回してはいけない存在だ……」

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

さよならイライラ

 

乞うご期待!

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る