第167話 私達とパーティを組んで頂けませんか?

リューは研修卒業を認められ、Fランクの冒険者認定を受けた。

 

バイマークの冒険者ギルドでの認定ランクは他の街のランクより1~2ランク上の実力があると知る人は知っているが、知らない人は知らない。知らなければFランクはFランクでしかない。Fランクは冒険者としては最低ランクである。

 

本当はリューの実力ちからはFランクなんてものではないのをギルマス・ネリナも理解していたので飛び級認定を提案したのだが、それをリューは拒否。

 

リューは時空魔法や神眼を自発的に封印・自重し、自分の素の力だけで冒険者としてどこまでやれるか試してみたかったのである。(と言っても、人間の世界で竜人の身体能力を持つリューはそれだけで十分チートではあるのだが。)

 

リューはもう一度、Fランクからじっくりと冒険者生活を楽しみたかったのである。

 

 

 

 

その後、ダンジョンの立入禁止は解除された。冒険者を派遣してダンジョンを調査、危険度が下がった事が確認できた事で、ギルマスと領主が相談し正式に解除となったのである。

 

ギルド本部には、ダンジョンを踏破し管理者となったのは、旅の途中でたまたま訪れた謎の仮面の男と報告された。銀仮面と連絡が取りたい時は、連絡先としてシンドラル領主が窓口という事にしておいてくれたらしい。一応念の為と言う事で、領主からリューに半ば無理やり通信用の魔道具を渡されてしまった。

 

新人研修については継続される事になったが、イライラは、自分の指導方針に誤りがあった事を認め、自ら教官を辞任。ネリナは引き止めたが(研修の卒業生からも惜しむ声が多少あがってはいたが)、やりたい事があるとイライラは固辞。冒険者にも復帰せず、完全に引退してしまったのであった。

 

研修の内容は大幅改訂され、冒険者として標準的な内容の基礎的な指導が行われる事となった。(もちろん、魔法職や回復職も、それに合わせた指導がなされる。)

 

イライラとしては、ダンジョンを破壊せず残したと聞いて最初は不満があったが、息子も生還したし、ダンジョンは極めて標準的なダンジョンになったと言う事で、冷静に考えればそこまで破壊に拘る理由はもうなかった。

 

イライラがやりたい事とは、まずひとつは、ラアルが助けた、街を去っていった魔法使いの少女を探し出す事。もしかしたら自分を責めているかも知れないその少女に、ラアルが生還した事を知らせてやりたいと思ったのだ。

 

また、バイマークの研修を脱落して街を去ってしまった者にも会えたら会いたいと思っていた。確かに、自分の指導は少し行き過ぎていた部分があった、焦りすぎていた。

 

脱落し街を去った者が、他の街で冒険者になっているのなら良い。そういう者については厳しい指導も肥やしになったはずだと思う。だが、もし冒険者の道を諦めてしまった者が居たとしたら、謝りたいと思っていたのである。

 

イライラは息子の件もあり、若者が危険な仕事である冒険者になる事を必ずしも推奨しないという立場になっていたが、危険を承知でそれでも冒険者を志したいと言う者が居るならば、今度は正しい道に導きたいとも思っていたのであった。

 

― ― ― ― ― ― ―

やがて、イライラはとある街で冒険者ゆめを挫折した若者と出会う。その若者をイライラは放っておけず、あえて侮辱し、発奮させ、導き、再び冒険者として一人前に育て上げていく……という出来事が待っているのだが、それはまた別のストーリー・・・。

― ― ― ― ― ― ―

  

それから、イライラはミムルにも行ってみたいと思っていた。何があったのか現地を見てみたいと言う事と、姪のキャサリンの墓くらい建ててやりたいと考えていたのだ。

 

石化のダメージから回復し、息子ラアルの看病が不要になった頃、イライラはバイマークの街からそっと一人、旅立っていった。

 

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アナスタシア 「あ、あの……」

 

リュー 「?」

 

しばらくバイマークの街でFランク冒険者として活動していたリュー。街の周囲を彷徨いている雑魚魔物の討伐、薬草の採集など、新人冒険者らしい仕事をのんびりとこなしていた。特に金に困ってはいないので、適当に気がむいた依頼を受けるだけであったが。

 

新人には荷が重いような凶悪な魔物が彷徨いているのが発見される事もまだまだあるが、この街の上級の冒険者達は優秀なのですぐに対処されるため、特にリューが出る必要性もなかった。

 

そんなある日、リューはアナスタシアに声をかけられたのである。もちろんアナの横にはレオノアも居た。二人もあの後すぐに卒業を認定され、冒険者として活動を始めていたのだ。

 

アナ 「あの、リュージーンさん、私達とパーティを組んで頂けませんか?」

 

リュー 「ああ、すまないが、俺はソロで……」

 

脊髄反射で断ってしまうリュー。なぜなら、リューはずっとソロで活動するのが基本であったのだ。空間魔法を使って瞬時にダンジョンでの狩りは終えてしまうのだから、パーティなど必要なかった、むしろ、能力について訊かれるのが面倒になるだけだったからである。

 

だが、なるべく空間魔法は封印して、地力のみで冒険者生活を楽しもうと思っていたのを思い出したリュー。

 

ならば……

 

リュー 「いや、パーティ組んでも、問題ないか?

 

……いいぞ、組んでも。俺とパーティを組んでくれるか?」

 

リューは、アナとレオノアとパーティを組むことを承諾したのだった。(ただし、お試し期間という事にしてもらったが。)

 

 

 

 

レオノア 「パーティ名は何にしましょうか?」

 

そう言われて、ふと、ソフィ達とミムルの街を歩きながら同じような会話をした記憶が蘇ってくる。

 

ソフィとは、キャサリンに頼み込まれ半ば騙されるような形でパーティを組まされたが、思えばソフィのパーティでは研修で一度ダンジョンに潜っただけで、それ以外にはこれといって“冒険者らしい活動”をした事はなかった。

 

冒険者をやりたがっていたソフィは少し可愛そうな事をしたなぁと今更思うリューであった。そう言えば、ソフィにも通信用の魔道具を渡されていた。後で、この街であった事など、話してやるか、などと思うリューであった。

 

ただ、よく考えれば、リューも長い間薬草摘みしかしていなかったのであるから、リュー自身も冒険者らしい活動などあまりした事はないのであった。記憶が戻ってからは、チートな狩りしかしていなかったので、それはもはや冒険ではなく作業でしかなかったのだ。

 

しかし、そもそも、冒険者らしい活動ってなんだろう? やはりダンジョンに潜って魔物を狩り、素材を売るとか、魔物に襲われた人や村を救うとかだろうか……?

 

ダンジョンボスのヒュドラを(やや)苦戦しながら倒したのは、冒険者らしい活動だったかも……

 

などと思いながらコーラを飲んでいるリュー。(※地球のコーラと似た飲み物がこの世界にもあったのです。リューは好んでよく飲んでいます。)その横で、アナとレオノアはパーティ名をどうするかずっと悩んでいた。

 

アナ 「名前かぁ……名前ねぇ……」

 

意外と名付けというのは悩むものなのである。真剣であるほど簡単に決められない。適当に思っている者のほうが、適当に名前を付けられるものだ。

 

リュー 「二人は一緒に活動していたんだろう? その時のパーティ名はどうしていたんだ?」

 

レオノア 「ビビッドギャルズ……」


アナ 「リュージーンさんが参加してくれるのならギャルズってわけにはいかないですよね」

 

リュー 「リューでいい」

 

アナ 「…リュー……」

 

早速呼び捨てにして、ちょっと赤くなるアナ。

 

レオノア 「リューさ、リューはパーティを組んでた事とかあるの?」

 

リュー 「ああ、少しだけな」

 

アナ 「その時はどんな名前をつけてたんですか?」

 

リュー 「なんだったかな……そうだ、ソフィと愉快な仲間たち、だった」

 

レオノア 「ソフィー?」

 

アナ 「誰ですか? 恋人?」

 

リュー 「いや……冒険者に憧れてた貴族の娘と言ったところかな。結局、一度ダンジョンに潜っただけで、家に戻った」

 

アナ 「(冒険者が)イヤになってしまったんですか?」

 

リュー 「いや、本人は続けたがっていたが、家の事情でそうも行かなくなってな……」

 

レオノア 「じゃぁ、パーティ名は『リューと愉快な仲間たち』で」

 

リュー 「勘弁してくれ……」



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次回予告


少女達、先輩冒険者に絡まれれる


乞うご期待!



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