第309話 本物ですが、何か?

デモンストレーションから、ガンツは一気に距離を詰め、リューにパンチのラッシュを仕掛けてきた。


激しいパンチの連打。確かに先程より速い。かなり速い。


リューはガードを固め、腕でブロックする。ガンツは岩を叩いているような感触に一瞬戸惑うも、構わずパンチを打ち続ける。


リュー 「単に|受け止めるだけってのは、愚策だってレイナードに言われたっけな。これでどうだ」


リューはガンツのパンチをブロックするのではなく、受け流しパリーし始める。


受け止めてブロックしてしまうと、相手は次の攻撃に繋げやすく、受けた側は亀状態で何もできなくなってしまう。空振りさせてしまえば、相手は身体が伸び切って次の攻撃に入れず、連打も続かなくなる。受け流した側は自分に有利な位置を取りながら、次の攻撃の準備に入れるのだ。


空振りして体勢を崩しているガンツの顔面を再びリューのジャブが弾く。


ガンツ 「くっ、舐めるな」


ステップバックするガンツ。ガンツの顔がリューから遠ざかっていく。追撃しようとリューが前に出るが、その瞬間、残ったガンツの脚が跳ね上がってきた。


ブーツの先からは小さな刃が飛び出ている。パンチしかないと思わせておいて、完全死角の真下からの攻撃、おそらくガンツの奥の手なのだろう。


リュー 「だが、甘い」


僅かにスウェーバックするだけでそのキックを空振りさせるリュー。危険予知能力があるリューには不意打ちは通用しない。さらにリューは相手の心を読む事もできるのだ。その二点だけで、まともにやってリューに攻撃が当たる事などありえないのである。


爪先蹴りも空を切り、崩れてしまった体勢を慌てて立て直したガンツ。再びパンチで攻撃を開始した。


だがガンツの攻撃は、すべて空振りとなり、逆に顔面をジャブではたかれてしまう。


顔はあっという間に腫れ上がる。


いい加減心が折れそうなものだが、意地があるのかガンツはそれでも攻撃をやめなかった。


結局、リューのジャブがガンツの顔面を弾くこと三十回近く、ついにガンツは膝をつき立ち上がって来なくなったのだった。


ガンツ 「馬鹿な……信じられん……」


よくやくガンツも実力差に気がついたかと思われたその時、ポンチョの叫ぶ声が聞こえてきた。


ポンチョ 「抵抗するんじゃねぇ、暴れるとこの女の命はねぇぞ!」


見れば、ポンチョがヴェラの首筋にナイフを突きつけていた。


ガンツ 「ポンチョ、よくやった! たまには役に立つじゃないか!」


ポンチョ 「偶にはって、いつも役にたってるでしょー!」


ガンツ 「ふふっ、チャンスだな! 貴様、よくもやってくれたな、抵抗したら女の命はぶッ」


だが再びリューのジャブがガンツの顔面を弾いたのであった。


ガンツ 「きっさまっ、仲間の命がどうなってもいいのかっ?」


リュー 「やってみろよ」


ガンツ 「くそ、後悔するなよ! ポンチョ、殺れ!」


だが、ポンチョは動かない。そして、脂汗を流している。


ガンツ 「どうした、ポンチョ! さっさと殺れ!」


だが、よく見ればポンチョは顔色蒼白である。


ポンチョ 「か、身体が動かねぇんです……それに、寒い……」


ガンツ 「……? ひっ!」


この場にはランスロット達が居るのだ。ポンチョの行動を黙って許すわけがない。


姿を消していたスケルトン兵達が徐々に実体化していく。見れば、ポンチョは数体のスケルトンに身体のあちこちを掴まれて身動き取れない状態であった。


しかもそれだけではない、ポンチョの身体は凍りついていた。ヴェラが魔法でポンチョを動けないように凍らせていたのである。


リューが強すぎるのでほとんど活躍の場はないが、ヴェラの正体はあらゆる魔法を使いこなす伝説の種族ケットシーである。そこらの冒険者などに負けはしない。


ポンチョの身体はどんどんてついていき、ついに身体の深部まで零度以下に下がってしまう。そしてついにポンチョの心臓は停止し、ポンチョは絶命したのであった。


リュー 「意外とつまらん相手だったな」


ガンツ 「くっ、まだだ、私の本気を出させたことを後悔するがいい」


リュー 「さっきから何度も本気出す本気出す言ってたけどな?」


ガンツ 「貴族を舐めるなよ、しょせん平民、器の違いを思い知るがいい」


どうやらガンツは魔法攻撃に切り替える気らしい。


貴族は平民よりはるかに強い魔力を持っている事が多い。それ故に貴族なのだ。伯爵以上の上級貴族ともなると、殲滅級の破壊力を持つ魔法を使える事が多いのである。


ガンツは風属性の魔法を起動した。小さな竜巻が発生する。さらにその中に炎も混ぜ始めた。


ドロテア 「ほう、二属性同時行使ダブルか」


なるほど、炎の竜巻、これはかなり強力だろう。


だがドロテアの呟きを聞いたガンツがニヤッと笑った。ガンツはさらにそこから、土属性・水属性の魔法を混ぜ始めた。


ドロテア 「四属性?! なるほど、天狗になるだけの理由はあるようだな」


四属性混合の竜巻、その威力は強力であった。戦争ともなれば、恐らく敵の軍隊を蹂躙できるレベルであろう。


竜巻はさらに巨大化していく。まとも受けたらリューの小屋ごと吹き飛んでしまうだろう。


ガンツ 「ふん、死んでから後悔するがいいわっ!」


巨大な竜巻がリュー達を襲った。竜巻は周囲の木々や岩石さえも巻き込んでいく。


やがて、炎の竜巻が弱まり、消える。


ドヤ顔のガンツ。


だが、そこには何も変わらず、涼しい顔のリュー達が居た。


ガンツ 「ばっ、バカなぁ! 何故……?」


ドロテアがリューたちと小屋の周囲に魔法障壁を張っていたのだ。(もちろんリューにも対処はできたが、ドロテアが任せろというので任せた。)


ドロテア 「貴様ごときの攻撃を防ぐなど苦もないさ。私の二つ名を忘れたか?」


ガンツ 「馬鹿な……たとえ魔法障壁を張っても、属性の異なる攻撃を受ければ壊れてしまう。全属性の竜巻はすべての障壁をも破壊してしまうはずだったのに! それを防ぐなど……まさか、絶対障壁? まさか、まさか、本物の……? 不滅の要塞…」


ドロテア 「ああ、本物・・の、ドロテア・リンジットだが、何か?」


ガンツ 「そっそんなぁ~~~」


ドロテア 「伯爵の三男の分際で、公爵に暴言・暴力を働いて、ただで済むと思うなよ」


ガンツ 「お、お許し下さい! 私はただ……」


ドロテア 「ただ、なんだっていうのだ?」


リュー 「もういいよ、こういう奴は処分してしまおう。王も言ってたじゃないか、おかしな貴族は処分して構わんと」


ドロテア 「別に構わんが、殺すのか?」


リュー 「ま、どうなるかは……ランスロットに任せる」


ランスロット 「待ってました、リューサマ。さて、オイタが過ぎる子は……」


ジロリとガンツを見るランスロット


ランスロット 「お~仕置きだべ~~~!!」



― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

冒険者・貴族、そして……

 

乞うご期待!

 

 

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