第308話 下品な貴族は嫌いだから

ガンツ 「んん~? 見れば、なかなか美しい女が居るではないか。男みたいな格好をしているが騙されんぞ? これは、料理だけでなく、夜も楽しめそうだな」


ガンツはドロテアを見ながらそんな事を言い出した。


ドロテア 「……呆れるな」(ため息をつく)


ドロテア 「貴様、伯爵家の三男だとか言っていたが、どこの家の者だ?」


ガンツ 「女のほうも口のきき方を知らんようだが、まぁいい。あとでじっくり調教する楽しみもあるからな。


いいだろう、教えてやる! 聞いて驚け! 私はかの有名なベチョリーネ伯爵家の三男、ガンツ・ベチョリーネ様だ。


…知っているだろう、ベチョリーネ伯爵家を?」


ドロテアはその名を聞いて顔を顰めた。


ガンツ 「知っているようだな。素直に謝るならばお仕置きは軽く済ませてやってもいいぞ?」


ドロテア 「ジョロツ・ベチョリーネ伯爵の息子か」


ガンツ 「…貴様、父を知っているのか?」


ドロテア 「ああ、何度か顔を合わせた事がある、平気でシモネタを口にする下品で有名な伯爵だな。不快だから王宮には顔を見せるなと言っているのに懲りないウザイ奴だ。親が下品ならやはり息子も下品なのだな」


ガンツ 「なっ、下品だと? というか王宮と言ったな、今? 貴様、貴族なのか? それも王宮に出入りするとなると、上級貴族?!」


ドロテア 「いちおうこれでも公爵位を王から賜っている身でな」


ガンツ 「公爵だと! 馬鹿な! 公爵がこんなところで冒険者をしているわけが……そういえばどこかで見たことがあるような……


…あの、お名前はナントオッシャルノデショウカ?」


ドロテア 「ドロテア・リンジットだ」


ガンツ 「げ! 不滅の要塞、英雄ドロテア! ……様……? …ど、ドロテア様が、なぜこんなところに?」


ドロテア 「ちょっとした休暇というところかな」


ガンツ 「この者達は、ドロテア様の従者で?」


ドロテア 「友人だ」


ガンツ 「友人? こんな連中がですか?」


ドロテア 「こんな連中とはなんだ、私の友人を侮辱すると許さんぞ?」


ガンツ 「おっと、これは失礼いたしました……ごほん、ま、まぁ、


…私は、事実を言ったまでなのですがな」


ドロテアがジロリとガンツを見据える。


ガンツ 「こっ、このような連中は、ドロテア様の友人に相応しくないと思いますぞ?


私も趣味で冒険者をしている身、冒険者と交流を持つなとは言いませんが、ドロテア様ほどの方でれば、平民の冒険者などではなく、せめて貴族の、それもA級以上の者と交流すべきでしょう……


そうだ、良いことを思いついた! 今後は私が友誼を交わしてさしあげましょう! 歴史あるベチョリーネ伯爵家と親交を持てるのです、悪い話ではないでしょう?


新興の公爵様では貴族に知り合いも少ないでしょうから、あまり良い交友関係を持っていらっしゃらないのは致し方ない所もあるのでしょう。しかし、これからはベチョリーネ家の伝手で有力な貴族を紹介してさしあげましょう!


さぁ、そうと決まったらこんな連中とはさっさと縁を切って、私の屋敷に参りましょう!」


ドロテア 「悪いがベチョリーネなどという下品な貴族とつるむ気はない」


ガンツ 「なんと、いくら格下の伯爵家とは言え、長い歴史のある上級貴族に対してそのような言い草、無礼でしょう!


新王を誑かして爵位を貰っただけの平民上がりが、歴史あるベチョリーネ家を侮辱するなどありえん!


……ははん? 分かったぞ、危うく騙されるところだった」


ドロテア 「?」


ガンツ 「さては貴様、偽物だな?」


ドロテア 「偽物?」


ガンツ 「ああそうだ、そもそもドロテア様がこんなところを彷徨いているわけがないのだ。


大方、平民や下級貴族の間ならばドロテア様の顔を知らない者も多い。名を騙っても騙されたのだろうが、私は騙されんゾブゥッ!」


いつのまにかガンツの後ろに立っていたランスロットが、ガンツの頭に強烈なゲンコツを落としていた。


ランスロット 「こいつ、殴っても良いですかね?」


ヴェラ 「ええっと、一応念の為、教えてあげるけど、もう殴っちゃってるわよ?」


ガンツ 「ばかな、いつの間に……私の背後を取るとは……


腐ってもBランクというところか! 舐めていたら足を掬われそうだな。


…だが! 私に本気を出させたのは失敗だったな! 後悔する事になるぞ?」


そう言うとガンツは立ち上がりながら腕を後方に薙いだ。所謂バックブローである。だが背後にはもう誰もおらず、裏拳は空を切っただけであった。


ガンツ 「どこへ行った? そこか!」


立ち上がったガンツは周囲を見回し、ランスロットを見つけるとボクシングのようなファイティングポーズを取った。


リュー 「ほう、拳闘士タイプか? 珍しいな。よし、俺が相手をしよう」


リューが立ち上がり、ランスロットはすっと下がっていった。ゆっくりガンツに近づいていくリュー。ドロテアも相手をしたそうだったがリューが手で制した。


ガンツ 「ほう? 腰に剣も下げておらん、お前も武器を持たないタイプか? 面白い。いいだろう、少し遊んでやる。実力の違いを思い知るといい」


あと一歩でお互いの攻撃が届く間合いまで近づき、睨み合うリューとガンツ。ガンツはファイティングポーズで構えているが、リューはだらりと両腕を下げたままである。


ガンツ 「ふっふっふっ…果たしてお前にこの私の拳が見えブッ!」


リューのジャブがガンツの鼻っ柱を弾き、ガンツのセリフを遮った。


リュー 「なんだって?」


ガンツ 「貴様っ! 卑怯だぞっ!」


激昂したガンツが即座に踏み込んでジャブを打ってくるが、ギリギリ届かない距離までリューがバックステップするので当たらない。


ガンツがムキになってジャブを連打してくるが、数発くうを打った後、再びリューのジャブがガンツの顔面を弾く。その衝撃だけで、ガンツは一瞬脳震盪を起こし片膝を着いてしまった。


リュー 「お前には、俺のパンチが見えないようだな?」


ガンツ 「し、信じられん……なぜBランクのパンチが見えんのだ?」


リュー 「言ったろ? ランクがそのまま実力を現してるわけじゃないってな」


ガンツ 「くっ、Bランク以上の実力があると言うのか? だが! 私も昨日今日Aランクになったわけではない! 本気を見せてやろう!」


ガンツが腕を伸ばすと、一瞬でガンツの両腕にガントレットが装着されていた。Aランク冒険者ともなると高性能なマジックバッグでも持っているのだろうか。それにしても一瞬で装着とは、内心、ちょっと格好いいと思うリューであった。


見ると、ガンツのブーツにもなにやら金属のパーツが追加装着されている。


ガンツ 「このガントレットは私のパンチの速度を十倍にする。このアンクレットは私のフットワークを十倍に加速してくれるのだ。これでお前も終わりだ。」


ニヤリと笑ったガンツは華麗なフットワークでシャドーボクシングのデモンストレーションをして見せた。



― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

リュー 「後は任せる」

ランスロット 「待ってました! さて、オイタが過ぎる子はお仕置きの時間ですぞ~~~」

 

乞うご期待!

 

― ― ― ― ― ― ―


新作公開しました。どうぞよろしく。

https://kakuyomu.jp/works/16816700426726189148



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る