第375話 下衆な男にヴェラマジギレ

翌日、リュー達はミィを使役していたエージェント・ゴードンの元へ……ではなく、冒険者ギルドを訪れていた。


とりあえず、先にSランクのギルドカードを発行してしまおうとリリィが言ったからである。


ギルドに着くと、既に連絡済みであったのか、すぐにSランクのギルドカードが発行された。


リュー 「黒いブラックカードか」


実は、ギルドカードはランクによって色が分かれており、


F:青

E:黄

D:緑

C:銅

B:銀

A:金

S:黒


となっている。


ギルドカードは金属製なのだが、低ランクのカードは上から塗ったような安っぽい色である。Cより上のカードになると金属質の色になるが、Sランクのカードも金属質の黒、メタリックブラックで、暗いところでもラメが入っており、キラキラ光って見えた。


ヴェラ 「さすがSランク、なかなかこの世界では見ない色ね」


次に、リューはミィがパーティに加わる手続きをしてしまう事にした。


当面の間、奴隷ギルドには、ミィが解放された事は伏せておく事にした。もしかしたら情報を引き出せるかも知れないと思ったからである。(まぁなんとなくで、特に具体的な作戦があるわけではないのだが。)


リューとミィのカードを出し、登録は簡単に終わる。


ミィ 「ところで、パーティ名はなんて言うんですか?」


ランスロット 「ホネホネ団ですよ、良い名前でしょう?」


ミィ 「ホネ……そ、そうですね……」


リュー 「うーん、俺はそんなに良いとは思わないんだけどな……ランスロット、変えてもいいか?」


ランスロット 「良い名前…ですよね・・・・?」


リュー 「ああ、分かった分かった、良い名前だな」


顔……は変わらないが、悲しげなオーラを出して圧力をかけてくるランスロットに、肩を竦めるしかないリューであった。


その時、ミィに話しかけてきた冒険者が居た。


『ミィじゃねぇか!』


声をかけて来たのは猫系(あるいは虎系)の獣人のようである。


ミィ 「! お前は…ランド!」


ランド 「オマエェ? ランドじゃねぇのか? いつからそんな偉くなったんだ?」


リュー 「自分から様付を強要するとか、恥ずかしい奴だな。誰だ?」


ミィ 「それが……」


ランド 「あんだぁオメェ…?


…ははんそうか、“今” ミィを使ってるお仲間ってわけか」


リュー 「ああ、大体分かった。オマエ、大声で正体をバラすような事を言って大丈夫なのか?」


ランド 「正体? なんの事だ? 俺はミィの昔の男。お前が今の男。たとえ聞こえたってそう思われるだけさ。


…だが、お前みたいな細男で満足させられるのか? ミィよ、お前も俺とのプレイが忘れられんだろう? なんなら今夜来いよ、また可愛がってやるぜ?」


それを聞いてミィがビクリと反応する。それを見たヴェラがミィを庇うように後ろに匿った。


ヴェラ 「何? この下品な男は?


…もしかしてコイツ・・・なの?」


ミィ 「…そうです…コイツは特に酷いサディストで……


…私の身体を傷つけて楽しんでたクズです」


それを聞いたヴェラのこめかみに青筋が浮かんだ。


ミィから聞いた話の中で、特にミィを酷く扱ったサディストのエージェントの話があったのだ。


ヴェラはミィと一緒に風呂に入ったが、ミィの身体には何箇所か酷い傷があったのも見た。


いくつかは、冒険の際に大怪我をして治療しきれずに傷が残ったものだそうだが(その時の治療費が払えず奴隷落ちした)、それ以外にも傷が残っていたのだ。例えば、乳房には何本も縦横に切り裂かれた傷が残っていた。それは、サディストのエージェントに甚振られたものだと言っていた。


エージェントの中には、女の身体を斬り刻む事に快感を得るド変態も居て、ミィの体中を切り裂いて楽しんだのだという。


ランドがそうであったらしい。


最初のうちは、ランドもギルドの備品である奴隷に傷を残してはまずいと上級ポーションを用意して傷が残らないように治していた。(それでも十分鬼畜な所業だが。)だが、そのうち、上級ポーションが切れてしまい、この男は金をケチり、低級なポーションしか用意しなくなったため、傷が残るようになってしまったのだ。


備品を傷物にするのはマズイはずだが、身体の傷は服を脱がない限り傷は分からない。仮に服を脱ぐ任務があったとしても、冒険者として活動したときに残った傷だと言えば疑われないだろうと男は言った。


もちろん、本部に報告しないようにミィにも命じていた。本部に対して嘘の報告はできないように、エージェントよりも本部の命令のほうが優先度が高いのだが、本部からエージェントにどう扱われたかなど報告するよう命じられてはいなかったため、男の命令が優先されてしまい、報告されないままだったのである。


肉体の傷はリューが肉体を巻き戻したのでもうすべて消えてなくなっているが、拷問を受けたミィの心の傷トラウマは残ったままである。傷はすべて消えても記憶は消えないのだ。


その非道なド変態エージェントがコイツかと思ったら、ヴェラの怒りに火が着いた。


だが、それに気づかず男はさらに油を注ぐ。


ランド 「そう言えば、俺がプレゼントしてやった宝石はまだ身につけてるか? 取り出すな・・・・・って命令したからな、他のエージェントが別の命令してないなら、まだそのまま・・・・のはずだが、どうなんだ?」


ランドは、最期にミィを傷つけた時に、自分の玩具だった印として何か残したいと言い出し、乳房を切り裂き、に小さな宝石を押し込んでそのままポーションを掛けて治療したのだ。


傷は塞がるが、宝石は乳首の下に残ったままになる。男は、ずっとそのままにしておけと命じていたのだ。


ランド 「それなりに高い宝石いしを奮発したんだ、確かめてやるよ」


この男は手をミィの胸に向け揉むような仕草をしてみせる。


ヴェラ 「リュー? ちょっと、コイツを静かなところに連れて行ってくれる? このクズとじっくり・・・・お話したいの」


珍しく、ヴェラがマジギレしている。怒りが強すぎて、むしろ冷静になっている印象すらあった。それを敏感に感じ取ったリューは即座に応じた。


リュー 「そ、そうだな。おい、ランドとか言ったな? ちょっと着いて来い、静かな場所へ行くぞ」


ランド 「お前、偉そうで生意気だな。俺もじっくり話がしたくなったぜ。どこへ行く?」


リュー 「当てがある、とりあえず出ろ」


ランド 「いいだろう。ゆっくり話し合い・・・・しようじゃないか」


ギルドを出ていくリュー。その後を追ってランドも出た。




    * * * * *




ランド 「…あれ? ここどこだ?」


ランドは冒険者ギルドの扉を出たつもりだったが、一歩踏み出したそこは、王都の街ではなく、洞窟の中だった。


もちろん、リューが転移したのである。


リューは、ギルドの扉に転移ゲートを作り、その先をダンジョンの中に繋げたのだ。リューの転移魔法もかなり進化していた。


リュー 「ここは、俺が管理するダンジョンの中だよ」


言われてみれば確かに、洞窟の中で光源がないはずなのに、壁が光を放っており、周囲が見える。ダンジョンの中特有の状況だ。


リュー 「ここなら誰も来ないからゆっくり話し合い・・・・ができるだろ? ヴェラを怒らせたみたいだぞ、覚悟しておくんだな」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ヴェラが本気で魔法を振るう


乞うご期待!


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