第620話 そして安物の馬車は壊れる
しばらくは快調に飛ばしていたリュー達の馬車であったが、突然、大きく跳ねた。大きな音と衝撃がして上がった。
しばらく平らな路面だったので、油断して腰を下ろしていたエライザは衝撃をまともに受けてしまった。
エライザ 「イッタァ……」
ランドルフは構わずそのまま走り続けようとしたが、馬車はまっすぐには走らなくなっていた。車体が脇にそれていくため、リューは慌ててランドルフを止めた。
リュー 「…車輪が外れたか?」
馬車は、荷台の横に大きめの木製の車輪がついているが、安物なのでもちろんクッション性のあるゴム質のタイヤなどは装着されていない。むき出しの木である。
軸受部には棒状のベアリングが入っているが、木製である。本当に安い馬車の場合、ベアリングなど入っておらず、軸受けの輪に
もう一段上の型になると、軸部分もベアリングも金属製になり、金属の材質と精度によって値段が高くなっていく。
リューはベアリングの技術は転生者が齎したのだろうと最初は思ったのだが、落ちついて考えれば、この程度の工夫はもしかしたらこの世界の人間が独自に考えついた可能性もあると思い直した。重いものを運ぶ際にコロを使うなど、摩擦を低減するために知恵を絞れば、同じような結論にたどり着く可能性は高いだろう。
一応ベアリングは使ってはいるが、リュー達の馬車は安物なので木製のベアリングなわけで、使っているとやがてヘタって壊れてしまう。そのため定期的に交換しながら運用する事になる。これは、木製である事のメリットと言えるかも知れないが、入手が容易い。道中であっても、そのへんの木を削って自分で加工して作る事もできるのだ。
馬車から降り、荷台の下を覗き込むエライザ。
ライトの魔法を使って光の玉を浮かべてよく見てみる。(生活魔法程度であればエライザも普通に使える。)
エライザ 「
安物の木製ローラーベアリングである。ランドルフの高速走行に耐えられずに割れてしまったのは必然と言えるだろう。
リュー 「さて、エライザ、どうする?」
旅はあくまでエライザの教育と経験のためである。トラブルの対処も極力エライザに任せる。
エライザ 「任せて、こんなの簡単よ」
馬車の修理の仕方は知っている。エライザは近くの森から木を切り出して来ると、それを小さく削っていく。木を切るのにも、それを小さくカットするのにも、ノコギリや斧、鉈は必要ない。ドラゴンクロウでバンバン刻んでしまうのだ。
最終的にベアリングに使えるようにするには精度が要求される。歪な形では摩擦が大きくなるし、故障の原因にもなる。ナイフを使って丁寧に削り、最後はヤスリを使って精度をだしていく。
リュー 「意外と器用だな……」
ランスロット 「リューサマより上手ですね」
リュー 「ム…。だが、乾燥もさせてない、強度がどれくらいあるかも分からん木を使ったら、またすぐに壊れるだろうな」
エライザ 「そしたらまた交換するしかないでしょ。材料は何個分が積んで行きましょう」
ベアリングを交換するためには車体を持ち上げる必要がある。ジャッキなどない場所では、
車輪を嵌め直した馬車は、再び走り出す。
リュー 「おお、快調快調~」
エライザ 「ちょっと! あまり飛ばさないでよ、また壊れちゃうでしょ」
エライザは御者席をリューから奪うと、馬車の速度を落とさせた。突っ走りたいランドルフは少々不満気ではあるが、仕方がない。
リュー 「この速度だと時間がかかるぞ?」
エライザ 「普通の馬車は、このくらいの速度しか出さないものでしょ?」
リュー 「まぁそりゃそうか…」
エライザ 「この速度でも夕方までには次の街に着くはずよ?」
そのままゆっくり走り、なんとか次の街までは馬車は持ったが、宿に入り確認してみると、やはり即席ベアリングは限界を迎えていたのであった……。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
エライザの冒険者テンプレ体験(その3?)
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます