第621話 安宿に泊まる
街に入ったが、もう夕刻なので宿を取る事にした。場末の一番安い宿である。リューは高級宿に泊まれる金を持っているが、エライザの駆け出しの冒険者体験中だからである。
リューはエライザの希望通り、一通り、新人の冒険者がハマる地雷を体験させてやるつもりであった。そして、安い宿と言えば……ノミ地獄である。
【クリーン】が使える者なら、宿の部屋に入ったら一番に部屋とベッドを清潔にしてしまうのが常識だが、エライザはそのような事は知らなかった。竜人の里にはそんな不潔な環境はなかったし、リューの家に居たときも、潔癖症のリューが常に【クリーン】を掛けまくり、清潔に保っていたからである。
だが、リューはノミ地獄だけは体験する前に教えてやる事にした。可愛いエライザの体に虫に食われた痕がつくのがなんとなく嫌だったのである。
リューは、【クリーン】の魔法だけは得意である。潔癖症のリューはこの世界では【クリーン】を使いまくっているからである。少しでも汗をかいたり汚れたりすれば即クリーン。自分の住む家も、自分が触れるもの全て、毎日数十回もクリーンを使っていたのである。時空魔法以外の魔法は非常に不得手であったリューだが、おかげで【クリーン】だけは上級者になっていた。
この魔法だけは、本当にありがたいと思うリューであった。クリーンさえあれば、風呂に入る必要も衣類を洗濯する必要もないのだ。そのため、毎日同じ服を着ている者も多い。クリーンで清潔さを保てるので着替える必要がないのだ。毎日服を変えるのは金持ちか貴族くらいで、貧乏人は、服が擦り切れて着られなくなったら買い替えるというのもこの世界では普通なのだ。
エライザに、宿の部屋とベッドに【クリーン】を掛けさせるリュー。しかし、効果は今一つで、【鑑定】で見てみるとベッドにはまだ少数だがノミが残っていた。実は、エライザはあまり【クリーン】が得意ではなかった。単純に使う機会が少なかったからである。
仕方なく、リューが【クリーン】を掛ける。一発でシミ一つない、ノミもダニもいないベッドへと早変わりである。
リュー 「毎日、頻繁に使ってれば上手くなるさ。それにまぁ、あまり清潔過ぎると、かえって免疫が落ちるって説もあるらしいから、ほどほどのほうがいいかも知れんしな」
安宿なので、当然風呂などない。宿の不味い飯を食べた後は、【クリーン】を掛けて寝るだけである。
リューは自身の体(衣服ご)と、ドラ子とエディにも【クリーン】を掛ける。エライザは自分で自分にクリーンを掛ける。これまで、リューが居る時はリューがエライザの体にも【クリーン】を掛けてしまっていたが、今後は習熟のためにエライザが自分でやる事になったのだ。
ちなみに、宿の部屋はツイン、つまりベッドがふたつの部屋である。
ランスロットは眠る必要も食事の必要もないので、宿に泊まる必要もないので、リューが寝ている間は
ドラ子は植物なので眠る必要はない。夜の間、眠りに近い状態にはなるらしいのだが、人間のように横になって眠るのは慣れないらしく、椅子に座って体を垂直にしたまま休むのだ。そのため、ベッドで眠るのはリューとエライザ、そしてわんこのエディだけである。
エディも【クリーン】で清潔になっているので、ベッドに上がらせて人間と一緒に眠っても問題はない。エライザが居なくなってからは、ずっとリューがエディを抱いて寝ていたのだが、エライザが帰ってきたので、エディはエライザのベッドに上がり込むのであった。赤ん坊の頃から二人は一緒に寝ていたのだから、当然と言えば当然であるが、リューは少し寂しい気もした。
だが、夜中にリューのベッドに潜り込んでくるエライザとエディ。
リューを異性として意識しているエライザではあるが、やはりまだ父娘としての感覚も残っていて、一線を超える勇気はなく、抱きついて眠るだけであったが…。エディも居るし、そもそも宿の主から『安宿なので壁が薄いから夜中に騒がないように』と釘をさされていた。(男女ペアの客に対する注意だと言っていたので、それが何を意味しているのかはエライザももちろん理解できている。)
リューとしても、エライザ美しく魅力的な女性に成長したのは認識しているものの、まだまだ娘としての思いのほうが強く、ただ、幼い頃と同じく娘を慈しみ、守るように優しく抱いて眠るだけである。
エライザも、幼い頃、リューがいつも添い寝してくれていたのを思い出し、温かい気持ちになるのであった。いずれ、対等なパートナーとして並び立てる日が来るまで……今少しの間、娘で居てもいいかなと思うエライザであった。
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次回予告
やっぱり馬車をグレードアップする事にしたリュー。街の馬車屋を訪れたリューとエライザであるが…
店員 (カモだな…)
乞うご期待!
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