第251話 理不尽な門番に、門の外で野営する事にするリュー
リュー 「俺の前に入っていった冒険者は銅貨1枚だったろうが? なぜ俺達だけ金貨十枚なんだ?」
衛兵 「さっきのはこの街に住んでいる冒険者だからな」
衛兵は嫌らしい笑みを浮かべながら続ける。
衛兵 「お前らは
リュー (怪しいのはどっちだ)
リューは神眼を発動、【鑑定】【読心】してみる。
衛兵の名はコモイ。やはり、賄賂を払わせて小遣い稼ぎをする輩であった。しかも、そのような行為に罪悪感も感じてないらしい。『そんな事はいつもの事』『みんなやっている』と思っているのが読み取れた。
どうやらこの街では、入城料を多めに取って着服する行為が常態化しているらしい。
先程コモイは街の住民は別と言っていたが、どうやら住民であっても立場・実力を下と見た時は、高額な “入城料” をふっかけるという事もよく行われているようだ。
そのような行為は別にこのコモイという衛兵だけの話ではないようで、どうやらこの街の衛兵全体が腐っているようだ。
そしてコモイは、リューの冒険者ランクがFである事、そして冒険者としては小柄な体格である事を見て、カモ認定したという事らしい。
ヴェラ 「それにしたって、いくらなんでも入城料に金貨十枚は高過ぎじゃない?」
リューの隣で別の衛兵のチェックを受けていたヴェラが言った。
だが、ヴェラの対応をしていた衛兵サモイが言った。
サモイ 「お姉さんは銅貨一枚でいいよ」
ヴェラ 「は? 私もこの街に初めて来た余所者なんだけど?」
サモイ 「若い女性は特別割引! それにお姉さんはDランクだしね」
リュー 「あきれたな……いつもこんな事してるのか?」
コモイ 「ぁあ? 何の事だ? いいんだぜ、俺たちは? 街に入れなくて困るのはお前らだからな」
入城料を吹っ掛けるにしても、普段は金貨十枚などは要求しないのだが、コモイはリューが冒険者ランクが低い割に良い服を着ているのを見て金持ちだと睨んだのだ。
※リューは金があるのでそれなりに良い服を購入している。そして、移動は転移が使えて戦闘も瞬殺であるのだから、ほとんど服も汚れないのである。
コモイは、どこかの金持ちの、おそらく三男あたりの
見た所、女一人以外護衛もついていないし、大した荷物も持っていない。魔物と交戦になり護衛は全員死に、自分達だけ先に逃げてなんとか街に辿り着いたというところか。女はDランクらしいので、ボンボンの護衛に雇われた冒険者という事なのだろう。
そんな金持ちのガキには世間の厳しさをキッチリ教え込んでやらなければならないと、コモイは意地悪な使命感? を湧き上がらせていたのだ。
コモイ 「それにもう門を閉める時間だ。それを曲げて通してやろうってんだ、多少は誠意ってもんがあってもいいんじゃあねぇか?」
コモイの横でサモイが親指と人差指で輪を作り、妙な表情を作って何かを訴えている。つまり、賄賂を渡して丸く納めろと言ってるわけである。おそらくここで銀貨数枚でも渡して低姿勢でお願いすれば、金貨十枚までは払わなくても許してもらえるのかも知れないが……
リュー 「閉門にはまだ早いんじゃないか?」
コモイ 「いいや、今日はもう閉める時間なんだよ! いいのか? 街に入れてもらえなかったら、朝まで街の外で野宿になるんだぜ? 隣の街に行くにもこの時間じゃぁ日が暮れてしまう。街の外には魔獣が彷徨いているぞ? お前みたいなFランク冒険者じゃぁ、魔獣に生きたまままるかじりされるのがオチだな!」
サモイ 「こっち姉ちゃんが今夜付き合ってくれるって言うなら、そっちの坊やも銅貨一枚でいいぜ?」
リュー 「そうか……
…そういう事なら仕方ない。朝まで外で待たせてもらう事にしよう」
ヴェラ 「そうね、そうしましょう」
サモイ 「おいおい。この辺には凶暴な魔獣も居るんだぜ? やせ我慢しねぇで大人しく出すもん出して入れてもらったほうがいいんじゃねぇか?」
サモイが慌てたように言ったが、黙ってリューは衛兵達に背を向け歩き出した。そしていつもの小屋を収納から取り出すと、城門の脇にどんと置いた。
コモイ 「おっ、おいっ、そりゃぁ何だぁ? どうなってるんだぁ?」
サモイ 「マジックバック? から出した、のか?」
コモイ 「馬鹿言ってんじゃねぇ、あんなデカイもんが入るようなマジックバッグなんて聞いたことねぇぞ……」
リュー 「開門は朝何時だ?」
サモイ 「朝は5時開門だ」
リュー 「早いな。俺は朝弱いんでな、十時くらいまでは寝かせてもらおうかな」
ヴェラ 「もうちょっと早く起きなさいよ……」
コモイ 「くっ……この。小屋なんか出したって魔物に壊されちまうだけだろ!」
だがその時、馬車が門に向かって走ってくるのが見えた。馬車はかなり飛ばしていたが、徐々に速度を落とし、門の前で止まった。馬車から慌てて商人が降りてくる。
商人 「ちょっと遅くなってしまったが、間に合ったようやな」
サモイ 「え、いや、その……、どうする?」
商人はイルミンと名乗った。身分証を出し衛兵に確認してもらおうとするが、サモイはコモイのほうを見るばかりで受け取らない。
そこにリューが口を挟む。
リュー「もう時間切れだそうだよ」
イルミン 「なんやて?!」
リュー(コモイの方を向いて) 「そうなんだろう? はっきり言ったらどうだ? それともさっき言った事は嘘だったのか?」
イルミン 「なんや? 閉めるには早いんちゃうか?」
リュー 「特別サービスで金貨十枚払えば通してくれるらしいぞ?」
イルミン 「なんやて?! 金貨十枚はなんぼなんでも高過ぎやろ!」
リュー 「いやなら朝まで待てってさ。俺たちは朝まで待つ事にした。あんたらも泊めてやってもいいぞ?」
そう言うとリューは、もう一つ小屋を取り出し、自分たちの小屋の横に置いた。
※リューは自分達が普段使っている部屋に人を招き入れるのはあまり好きではないので、誰かを泊める必要が在る時用に小屋を別途用意しているのである。
イルミン 「おおおおこれは? マジックバッグ……いや、収納魔法でんな? こんなデカイモンが入る収納魔法やなんて、あんさん、タダモンやないな?」
リュー 「魔法障壁で保護されてる小屋だ。夜中に魔獣に襲われる心配もないぞ? 魔法障壁、知ってるだろう? ドロテアとかいう魔女から教わったんだ」
サモイ 「ドロテア? ……まさか、不滅の要塞ドロテアか?」
コモイ 「そんなわけねえ、宮廷魔道士がこんなFランクと関係があるわけねぇだろ! ああそうだよ、金貨十枚払うなら通してやってもいいが、嫌なら明日まで待て!」
イルミン 「袖の下要求されるんはよくあるけどなぁ…、さすがに金貨十枚はぼったくりすぎやろ。金貨一枚だって高い。ボッタクるにしてもせいぜい銀貨数枚ってがいいとこや。あまり欲かくとええ事ないで?」
サモイ 「し、商人は別だった、そうだよなコモイ? 商人は銀貨三枚でいい」
コモイ 「そ、そうだった、な、サモイ。商人は商人用価格があるんだった」
リュー 「話が違うじゃないか?」
コモイ 「言ったろ、
イルミン 「いや! わてらも朝までまたしてもらいまひょか」
コモイ 「何を言ってる?! 通っていいと言ってるだろうが?」
イルミン 「いやぁ、このお人らに興味が湧きました。小屋が入るほどの収納魔法やで? 仲良うしとったら良い事ありそうやおまへんか?」
サモイ 「おいコモイ、マズイんじゃないか? 旅の商人におかしな噂が広まると…」
コモイ 「くそっ、勝手にしろ!」
サモイ 「あ、おい、待てよぉ!」
門を開く事なく立ち去ってしまうコモイ、慌てて追いかけていくサモイ。
これで朝までリューと商人一行は街の城壁の外で一晩を明かさなかればならなくなったわけである。
早速、リューは宣言通り、イルミン達を来客用の小屋に案内した。
リューに近づきたいという下心で残ったイルミン。リューのほうには商人と仲良くしたい理由も特になかったが、とはいえ別に敵対する必要もない。リューはイルミン達一行に小屋の使い方を説明し、料理を出してやった。(もちろん、適正な宿泊料金を頂くという事で話をつけた。)
下手な宿に泊まるより快適な小屋に、商人達は大喜びであったが、リューは早々に自分達の小屋に引っ込んでしまったので特に交流を深めるということにはならなかったのだが。
深夜には魔物が何匹か小屋に興味を抱いて近づいてきたが、小屋の周囲に張られた障壁のせいで近づいてくる事も叶わず、やがて去っていった。
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そして、次の朝が来た。
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次回予告
ダヤン警備隊壊滅?
乞うご期待!
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