第250話 盗賊の村殲滅完了~ダヤンの街へ

盗賊の村の殲滅を終えたリュー。だが夜明けまだはまだ大分時間がある。


神眼のおかげで暗闇でも昼間のようによく見えているリューだが、一旦村の外に出て、自分の小屋で眠る事にした。リューは夜はちゃんと寝る主義なのである。


朝、明るくなった頃あいで村に戻ったリューは、村の蔵を漁り溜め込んでいる財宝を収納するのであった。盗賊の隠し持っていた財宝は討伐した者が貰って良い、それがこの世界のルールでなので特に問題はない。


蔵の中にあったのは金貨や宝石貴金属類、さらに塩や胡椒などもあった。ただ、財宝はそれほど多くはなく、大編成で討伐隊を組んでいたら赤字になったであろう。


ただ、ひとつ、リューが欲しかったモノを手に入れられた。それは眠り薬である。宿に止まった旅人を眠らせて殺すのに必要だったのだろう、ガーメリア達の眠りこけぶりを見れば、なかなか強力な効き目があると思われる。リューなら、これを敵の胃の中に転移で送り込んでしまう事ができる。あるいは血管の中に直接送り込んでも良いかも知れない。今後、相手を傷つけずに無力化するのに役に立つかも知れない。(大量に投与してしまえば殺す事も可能であろう。)


蔵の中身を収納し終わり、蔵から出た所で、リューはガーメリア達に出くわした。


リュー 「やっと目を覚ましたか」





朝、目を覚ましたガーメリア達は、宿の親父も女将も居らず、宿の周囲が死体だらけの血の海になっている事に気づいて、慌てて村の中を見て回っていたのである。


ガーメリア 「キサマ……とうとう正体を現したな?」


リュー 「?」


ガーメリア 「堂々としたもんだな。一応確認だが、村人が全員殺されているが、お前がやったのか?」


リュー 「そうだが?」


騎士 「蔵から出てきたのは村の財宝を物色していたというところか」


リュー 「ああそうだが?」


ガーメリア 「どうやってドロテア様を騙したのか知らないが、罪もない村人を殺して金目のモノを奪う盗賊だったとはな!」


騎士s 「痛い目を見たくなければ大人しくお縄につくがいい」


騎士達が剣を抜く。


リュー 「誤解だよ」


ガーメリア 「問答無用! 捕らえろっ!」


騎士達がリューに斬りかかってくる。が、大した腕ではない。リューは剣を躱し蹴り飛ばしてしまう。


リュー 「“捕らえろ” と言われたのにいきなり斬りかかってくるとは乱暴だな」


リューに蹴られ、派手に地面に転がった騎士達。だがその時、ガーメリアが魔法を使おうとしている事をリューの危険予知が察知する。


リュー 「そうは行かないよっと」


即座にガーメリアの魔法を分解無効化してしまうリュー。


ガーメリア 「なっ、魔法がかき消えてしまった、何が起こったのだ?!」


リュー 「少しは話を聞けよ!」


ガーメリア 「悪人の言うことなど聞く耳持たん!」


リュー 「この村は盗賊のアジトだぞ?」


ガーメリア 「……は?」


リュー 「峠で襲われただろ? あの連中のアジトがこの村だ。この村全体が盗賊なんだよ」


ガーメリア 「何を馬鹿な、言い逃れるつもりか?」


リュー 「証人もいるぞ?」


ガーメリア 「何?!」


リューがガーメリア達の後ろにあった小屋の影から覗いている子供二人を指差した。


リュー 「村で無理やり働かされていた奴隷のようだ。この村が盗賊の村だった事はあの子達が証言してくれるだろう」


     ・

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     ・


話を聞いてみたところ、子供二人は兄妹で、兄がレスター、妹がアネットと言うらしい。レスターは9歳、アネットは6歳だとのことだった。


子供達の話を聞き、ガーメリアもやっと事態を理解した。

例え子供であっても、隷属の首輪をしているため、嘘をつくなと命じれば嘘をつけないので、証言には信憑性があるのだ。


奴隷の主人が死んだ状態なので、ガーメリアが奴隷の主人として仮登録した形で尋問した。さすが、宮廷魔道士だけあって、ガーメリアはそのような魔法も使えるようだ。


(リューは魔法の仮面を使ってあらゆる魔法が使えるはずなのであるが、魔法についての知識・常識が疎いので使いこなしているとは言い難い状況なのである。)


子供達は、盗賊が襲った奴隷商人が運んでいた積荷の奴隷だったらしい。元はどこか遠い村で暮らしていたが、人攫いに連れ去られ、奴隷として売られるところを盗賊に襲われたという。まだ正式に売られる前の仮登録の状態であったので、盗賊達は奴隷商人を脅して盗賊のボスを正規の主として登録させ(もちろんその後奴隷商人は殺した)、村で使っていたという事のようだ。


攫われた子供であるという事が事実ならば、解放して元の家に帰してやる必要があるが、ガーメリアにも隷属の首輪を解除する事まではできないらしい。


リューが首輪を破壊してやろうかと提案したのだが、この国の隷属の首輪はかなり高性能で、そう簡単ではないという事だった。もし無理やり破壊しようとすれば、装着している奴隷の首を切断してしまったり、奴隷の精神を破壊してしまうなど、何重ものプロテクトの術式が刻まれているらしい。


(※以前リューはソフィに着けられていた隷属の首輪を拙速に破壊してしまった事があったが、その時はチャガムガ共和国で作られた独自のものであったため、そこまで高度なものではなかったためソフィは無事だったのである。もしこの国で使われているのと同様の凶悪なものであったとしたら、ソフィがどうなっていたかは分からない。)


奴隷の管理は、奴隷ギルドという組織が一元管理している。隷属の魔法のプロテクトには極めて高度な難しい技術が使われており、プロテクトを解除するには街に連れて行って、奴隷ギルドで解除するしかないそうだ。その辺の手続きはガーメリアがやってくれる事になった。


ガーメリア 「しかし、まさか、本当に盗賊の村だったとは……」


リュー 「お前達も寝首を掻かれるところだったんだぞ? ビールに睡眠薬が入っていたんだ。よく眠っていたようだからな。俺が居なければ今頃生きてはいられなかっただろう。命の恩人ってわけだ、感謝してほしいもんだね」


ガーメリア 「う……む、面目ない……。しかしお前はなぜ大丈夫だったんだ?」


リュー 「俺は酒が好きではないので飲まなかっただけさ」


ガーメリア 「いや、飲んでたよな?」


リュー 「飲んだフリをしただけだよ」


話は終わったとばかり、リューは宿の中、そして村の家々を物色し始めた。

ガーメリア 「おい……、何をしている?」


リュー 「盗賊を退治した場合は、盗賊の持っていた財宝は倒した者が貰っていいルールだろ?」


ガーメリア 「それは、そうだが……なんだかやっぱり強盗にしか見えないんだが……」


リュー 「この村は全滅だ、放って置いてもやがて土に埋もれてしまうだけだ、もったいないだろう? それに、死体は全部焼いてしまわないと、魔物が寄ってくるぞ。山の中だから大した影響はないかも知れんが、アンデッド化して盗賊稼業を再開されても困るしな」


ガーメリア 「うむむむ……」


戦利品を収納しながら、死体を全部村の広場に転移で積み上げていくリュー。死体を全て積み終わったら、次元障壁で囲って手加減なしの炎で一瞬で燃やし尽くしてしまう。そのとんでもない火力にガーメリアがちょっとだけビビっていた事にはリューは気付かなかった。


作業を終えた頃にはもう昼近くになってしまっていたが、この村からなら急げば日暮れまでにはダヤンの街に着けるはずである。ゆっくり身支度をしていたヴェラがやってきたので、小屋を回収して出発しようとしたリューは、ガーメリアに言った。


リュー 「一緒に行くか? 俺を監視するように言われていたんだろ?」


ガーメリア 「気づいていたのか、お前のような奴を野放しにしておけば危険だからな」


結局、ガーメリアと騎士達も一緒に街へ向かうことになった。ガーメリアももはやコソコソする必要はないので、堂々とリューに同行するつもりのようである。


奴隷の子供二人はガーメリアに任せることにしたので、騎士二人が一人ずつ馬に一緒に乗せてやっていた。


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夕刻、閉門ギリギリの時間にダヤンの街についた一行。


ガーメリア達は貴族用の門からさっさと中に入ってしまったので別行動になった。(奴隷の子供二人はガーメリアに任せて一緒に行かせた。)


そして、一般用の入口に並んだリューとヴェラであったが……


門番の衛兵 「見かけない顔だな? 身分証を見せろ」


素直に身分証ギルドカードを渡したリューであったが、それを見た衛兵が言った。


衛兵 「怪しい奴だな、ちょっとこっちへ来い」


そのまま衛兵は、門の脇の仮設小屋に入って行ってしまった。衛兵はリューのギルドカードを持ったままなので、ついて行くしかない。リューならばいつでも奪い返せるが、騒ぎを起こすほどの事でもないのでついて行く。


衛兵 「これに触れてみろ」


衛兵は水晶の玉が載った魔道具を出してきた。犯罪歴等をチェックするいつもの魔道具である。どうやら、街の住民でない者は、こちらでチェックする制度システムのようだ。


衛兵 「どうやら犯罪歴はないようだな。では街に入りたければ入城料を払え。金貨10枚だ」


リュー 「いやいや、ないだろ」



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次回予告


余所者よそもんは別料金なんだよ


乞うご期待!



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