第560話 ランスロット悲話

エディ 「くーん…」


リューの隣に座っていたエディが寂しそうに小さく鳴いた。


ちなみにエディは大型犬サイズに成長したので、エライザがよく背中に乗っていたが苦にもならない様子であった。


エディは賢い子で、エライザが危ない場所へ行こうとすると、咥えて引き戻してくれたりしていた。


基本的にはリューが一日中エライザを見ているので危険などそうはないのだが、さすがにトイレなど目を離す時もあるので、常にエライザと一緒に居てくれるエディの存在には助けられた。


エライザは生後半年もすると立ち上がり、すぐに歩き始め、一歳を過ぎる頃にはもう走れるようになっていた。そして、エディと追いかけっこをして、家中を走り回っていたものだ。そして、電池切れで気絶すると、エディを枕にして寝ていたものだ。


だが、エライザは急に居なくなった。最近は落ち着いたが、エライザがもう戻ってこない事が理解できず、ずっと悲しそうな様子である。


リューは寂しそうなエディをそっと撫でてやった。


いつもはあまり関心のなさそうなドラ子も、いつのまにかエディの腹を背もたれにするように座っていた。植物なので今ひとつ何を考えているか分からないが、ドラ子もよくエライザと遊んでいたので寂しいのかも知れない。


リュー 「……そういえば、ランスロットも何万年も生きてきたのだから、別れもたくさん経験したのだろうな」


ランスロット 「私はアンデッドになってからのほうが圧倒的に長いので、生きている者達との関わりはそれほど多くはありませんが」


リュー 「生きていた頃に家族は?」


ランスロット 「……妻が居ました。子供も妻のお腹の中に…。戦争に巻き込まれて妻と一緒に死んでしまったので、生まれてくる事はかないませんでしたが」


リュー 「そうだったのか…。すまん、触れられたくない事だったか」


ランスロットは以前、自分の生前の恋バナを訊かれて、昔の事過ぎて忘れてしまったと言っていたが、話したくなくてとぼけていただけなのだろう。


ランスロット 「いえ、あまりに遠い昔の事ですから、妻の顔もよく憶えておりませんし。ただ、あの時の子供が生まれてきて、子孫が生き延びていたらどうだったであろうか? と思う事はあります。まぁそうであったら私はアンデッドにはなっていなかったと思いますが」


リュー 「それって、復讐のために?」


ランスロット 「ええ、不死王様が力を与えて下さいまして」


リュー 「あれか、『力が欲しいか?』とか言われたとか?」


ランスロット 「よく分かりましたね」


リュー 「当たってるんかい」


ランスロット 「私が駆けつけたときには、既に妻は殺されておりまして。お腹を剣で貫かれていたのでおそらく子供も。殺ったのは、当時、最凶の狂剣士と恐れられていたニビルヴァーン…」


リュー 「…ああ、アイツか! 魔法学園の時の…」


ランスロット 「ええ、まさか、奴もアンデッドになっているとは思いませんでしたが。


奴は、正面から戦っても十分強いのに、わざわざ卑怯な真似をするような奴で。私の隙を作るために、わざと妻とお腹の子を狙ったのです。


私はまんまと奴の作戦に乗ってしまい、逆上してニビルヴァーンに襲いかかり、あっさり返り討ちにあってしまいました…。


当時、私も剣の腕にはそれなりの自信があったのですが、将軍などという地位に就き、剣帝などと持て囃されていた私は、どこか慢心があったと思います。まぁ、卑怯な策であったにせよ、勝ったのは奴ですから。奴のほうが一枚上手だったと言う事でしょう…」


リュー 「その時、不死王様が現れたと?」


ランスロット 「ええ、不死王様に力が欲しいかと尋ねられ、私は即答し、不死人となった私は奴を討つ事ができました。奴は、完全に私が死んだと思って油断していたので、不意を突いて倒す事は簡単でした。奴は卑怯だと悔しがっていましたがね…」


リュー 「そんな事が……」


ランスロット 「その後、私は不死人として十数万年、不死王様とともに過ごしてきたわけです。不死人としての生活は、穏やかで悪くないものでしたが……まぁ、その間に私が生きてた時代の人類文明はアッサリ滅亡してしまったんですけどね。子孫が居なくてよかったのかも?


しかし、私と違って、リューサマは生者として、寿命がある者達と関わりながら生きる事になるわけです。それこそ、何千年も…


…いや。それどころか、リューサマには時間さえも超越する事を可能とする魔力があるわけですから、永遠に生きる事も可能かと」


リュー 「ランスロットや不死王様ししょうのように、永遠の時を生きるわけか…」


ランスロット 「はい。そして、長い竜人生の間には、何度も人類の文明が滅ぶのを目撃する事になるかも知れません。


まぁ、エライザやヴェラ殿は人間ではないですから。怪我などで死なない限りは、人間のように数十年で死に別れるという事はないでしょうが。


しかし、十万年も経てば、亜人を含めて、今の時代の知り合いは誰も残っていないでしょうね、私や不死王様以外は…」


リュー 「まぁ、さすがにそんな気の遠くなるような先の話は分からんが。俺は…先程も言った通り、前世と合わせてもまだ五十余年の記憶しかないんでな。


俺は…結婚して子供を育てたのは初めての経験だったんだよ。前世でも妻も子供も居なかったからな。前世のその前の過去世の記憶はないので分からんが」


ランスロット 「まあリューサマもエライザも長い竜人生が待っているのです。今、一時離れたとしても、また遭う機会はあるでしょう」


リュー 「しかし、小さなエライザにはもう会えないわけだよなぁ……」


ランスロット 「それは……仕方ないですね。竜人は、生まれてから成人するまでは人間と変わらないスピードで成長するようですので。


幼い頃の可愛さは一瞬…。


貴重でしたね。


まぁ、子供を可愛がりたいのなら、また作れば良いのではないですか? アリサなら喜んで協力してくれるのでは?」


リュー 「そういう話じゃないんだけどな」


ランスロット 「リューサマなら、これからいくらでも機会はあるかと」


リュー 「まぁ先の事は分からんが、今は、一人、静かにエライザを思っていたいんだよ…」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「おう姉ちゃん! 俺達の仲間に入れてやろうか?」


「オマエ程度の腕ではここでは通用しない」


乞うご期待!



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