第561話 「おう姉ちゃん! 俺達の仲間にしてやるぜ」

トナリ村の冒険者ギルド


扉を開き、一人の女が入ってくる。


女は若く美しくグラマラスである。


それを見てギルドの酒場にいた二人組の冒険者の男が色めき立った。


男1 「ヒュー、見ろよ、すげぇ可愛い娘が来たぞ!」


男2 「ああ、お前好みだな」


男1 「お前だって嫌いじゃないだろ?」


男2 「まぁな」


男1 「あの格好、まさか、冒険者なのか? 声かけてみようか」


男2 「おう、行ってみろ!」


男1 「おう姉ちゃん! 俺達は今仲間募集中なんだよ、なんなら仲間に入れてやろうか?」


二人は村に到着したばかりの流れ者の冒険者である。


時刻は昼過ぎ。飲むには少し早い時間であるが、二人は中途半端な時間に村に到着してしまったため、仕事は明日からにして酒を飲んでいたのだ。


辺境にあるトナリ村は魔境の森が近く、高ランクの魔物を目当てに中堅以上のランクの冒険者達が稼ぎに集まってくる。


二人もそれなりに腕に自身はあるが、とは言え、さすがに二人では厳しいので、村に着いてから仲間を募集するつもりだったのだろう。


だが、女は酔っ払っている男達を一瞥した後、無視して受付に向かった。


その態度に男が激昂する。


男1 「おい! 待てや! 無視してんじゃねぇよ!」


男が女の前に立ち塞がる。


立ち止まりため息をつく女。


男1 「こんな時間にギルドに来たってことは、オマエも稼げるって噂を聞いてこの街に来た口だろう? だがここは高ランクの魔物が多く出る地域だ! オマエみたいな弱そうな女じゃ通用しねぇんだよ! 


だが、俺達の仲間になれば、美味しい思いさせてやるぜぇ? まぁ、それなりのサービスと引き換えにだがな」


高ランクの魔物が多く、初心者には無理だと言われているトナリ村である。それなりに腕に自信のある者達がやってくる、それはよいのだが……実力を急激に伸ばしつつあり “調子に乗っている” 者も多く含まれている。そういう者達は高確率でトラブルを起こす。それがトナリ村の冒険者ギルドとしては悩みの種であった。


男1がニヤニヤしながら女の肩に手を掛けようとした。


だが、男の手は女の身体に触れる事はなかった。女は忽然と目の前から消えてしまう。


気がつけば、女は男の後ろに立っていた。転移である。そして、男の喉には短剣の刃が押し付けられていた。


アリサ 「オマエ程度の腕ではここ・・では通用しない。死にたくなければ元居た街に帰ったほうがいい」


アリサ、十八歳。


暗殺者ギルドの刺客として働かされていたが、リューを襲う事を命じられた事がきっかけでリューに奴隷から開放してもらった後、トナリ村の孤児院で6年過ごした。そして、15歳で成人した後、そのまま村で冒険者となったのだ。(アリサ初登場は428話)


男1 「いつの間に……つっ!」


首の皮膚に刃が食い込んで少し血が滲みはじめた。そのまま動かせば喉を切り裂かれて男は死ぬ事になるだろう。


男2 「おい、てめぇ!」


その時、受付の奥からギルドマスターのルイーザが出てきた。


ルイーザ 「何? …はぁ、またなの?」


受付嬢レベッカ 「ええ、またです」


ルイーザ 「絡んでるのは?」


受付嬢 「午前中に街に着いたDランクの冒険者達です」


ルイーザ 「はぁ、実力もない馬鹿ほど、やらかすのよねぇ」


男2 「なんだと! 俺達はもうすぐCランク確実って言われてるんだぞ!」


※Dランクなら一人前、Cランクなら名人・達人と言われる実力があると言われている。


男2 「ババア! だいたいオマエ誰だ?」


ルイーザ 「ババア?! 私はここのギルドのマスターだけど?」


男2 「え? ギルマス…?」


レベッカ 「はあ、本当にダメね、あなた達。今、ギルマスの執務室から出てきたの見れば分かるでしょうに…」


ルイーザ 「本当に実力があったら、相手の実力も見抜けず格上に絡んだりしないでしょう」


男2 「格上…? こんな女が? 俺達はもうすぐCランクって……」


ルイーザ 「アリサはAランクよ」


男1 「A、ランク、だと……?」


冒険者になって三年。アリサは既にAランクまで昇り詰めていた。【転移】と【気配隠蔽】のスキルを持っており、さらに剣の腕もスケルトン相手に鍛えて来たのだから当然である。


以前から村に居る冒険者達は当然アリサの事をよく知っているが、アリサの実力を知らない流れ者達に絡まれるのは、割りとよくある名物展開でもあった。


男1 「っ、痛ぇっ、おい、切れてる、切れてるって!」


首に押し付けられた短剣によって男1の首からは血が流れている。まだ頸動脈には到達していないだろうが、男の命はあと数ミリというところだろう。


アリサ 「…殺しちゃってもいい?」


ルイーザ 「ダメよ。床が汚れるでしょ」


その言葉でアリサは男1の首から短剣を離し男を開放した。首を押さえながら座り込む男1に男2が駆け寄る。


二人にルイーザが近づいてきた。


ルイーザ 「あんた達、降格ね…Eランクからもう一度やり直しなさい」


男1・2 「そんなぁ……」


ルイーザ 「殺されなかっただけありがたいと思いなさい」


アリサ 「ルイーザ、ギルドの入口を酒場に近い場所にしないほうがいいと思う」


ルイーザ 「そうね。レベッカ、大工を呼んでちょうだい。扉を増設しましょう」


レベッカ 「マスター、了解です。アリサはまた素材の買い取り?」


頷いたアリサは買い取りカウンターへと向かい、そこに居た職員ビルに声を掛け、素材をカウンターの上に出した。


先程の二人組が遠巻きに見ている。


男1 「おい、あれ…」


男2 「ディザーウルフ? いや、まさか、似てるけど違うんじゃ?」


ビル 「今日はディザーウルフか。群れならSランク扱いになる魔物だが…まぁアリサなら余裕か」


アリサ 「たまたま、はぐれが一匹居たから」


男1 「おい、やっぱりあれ、ディザーウルフらしいぞ」


男2 「やっぱり、この村は稼げるんだな!」


男1 「ディザーウルフを狩れれば、な。お前、できるのか?」


男2 「多分無理ッス……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


マンドラゴラの出所を調べろ


乞うご期待!



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