空虚編

第559話 黄昏のリュー

トナリ村のリューの家は、今ではリュー以外誰もおらず、とても静かである。


トナリ村に来たばかりの頃は、ヴェラとモリー、レスターとアネット、そしてアリサと一緒に食事をしていた。


だが、そこにエリザベータとエライザも来て、さらに孤児院に引き取られる子供が増えていったため、孤児院側に食堂を増設し、食事はそちらでするようになったのだ。(リューとエリザベータとエライザも食事はそちらで食べていたのだが。)


その他、孤児院の設備も拡充されていったため、孤児院側ですべての生活が成立するようになり、リューの個人宅で過ごすのはリューとエリザベータ、エライザだけとなったのだ。


(ヴェラも新婚に気を使って治療院に住居を増築して移っていった。)


エライザが居た頃はそれなりに賑やかであったが、今はもう居ない。居るのはわんこのエディと、マンドラゴラが人化したドラ子だけである。だが、エディも無駄に吠えるほど若くないし、ドラ子も基本は植物なので、人間の生活にはあまり関心がなく、また会話もほとんど成立しない。


そんな静かな家で、庭に置いてあるテーブルセットのベンチに腰掛け、リューは夕日をツマミに酒を飲んでいた。足元にはエディが寝ている。


そこに、いつの間にか現れたランスロットがリューの向かいに腰掛けた。


ランスロット 「酒を飲んでも酔わない体質だって言ってませんでしたか?」


リュー 「……気分だよ。飲みたい気分の時もあるさ……」


ランスロット 「私は飲む事はできませんが、まぁ気持ちは分かります」


リュー 「ランスロットもエライザの相手をよくしてくれていたものな…」


    ・

    ・

    ・


エライザ 「らんちゅろっと~、えいっ!」(ぽこっ)


ランスロット 「や~ら~れ~たぁ~」


ヨチヨチ歩きのエライザがおもちゃの刀を振り下ろすと、ランスロットがオーバーな演技で倒れてみせる。そんな事を飽きもせず何度も繰り返していた頃もあった。


もう少し大きくなってからは、おもちゃの剣は小ぶりな木刀に代わり、カンカンカンカンと木刀で打ち合う音が響いていた。


ランスロット 「ほっほっほっ、その程度の攻撃では当たりませんぞ~」


その頃にはランスロットも(少しだけ)本気を出し、エライザの攻撃を全て防御して見せていた。エライザはムキになり、毎日、隙をついてはランスロットに襲いかかっていたが、結局一度もランスロットに打ち込む事はできなかったようだ。それはそうだろう、ランスロットが分かりやすく作った隙に誘い込まれているだけなのだから。


    ・

    ・

    ・


ランスロット 「もう少し成長したら、打ち込まれていたかもしれないのに…」


リュー 「いやいやいや、ランスロットが相手では、何年頑張っても打ち込む事なんかできんだろ…」


ランスロット 「いや、なかなか筋は良かったです。竜人の身体能力と寿命があるのですから、何千年か修行すればきっと、私など超えられるかと」


リュー 「そんな気の長い話かーい」


ランスロット 「気が長いのは仕方がないでしょう、なにせ、私は永遠に死ぬ事はないのですから。寿命の短い人間達とは感覚が違います。それは、竜人として長い寿命があるリューサマだって同じでは?」


リュー 「俺はまだこの世界で三十年くらいしか生きてないんだ。前世の記憶と合わせてもまだ六~七十年。そんなに長く生きるとどんな気分になるのか、想像もつかないよ」


ランスロット 「……今のうちに言っておきますが、リューサマ…。長く生きていれば、別れは無限にやってきますよ?


特に、人間の寿命は短いですからね…。人間の世界で生きていくつもりなら、それは覚悟しておく必要が有るかもしれません。


それが嫌ならば、人間とはあまり関わらないようにして生きるのもひとつの方法です。


エルフやドワーフなど、人間より寿命が長い種族が、あまり人間と深く関わろうとせずに独自の文化圏で生きているのは、寿命の違いもあるのでしょう。


気の長いエルフにとってはちょっとの間でも、人間にとってはそうではないわけで。親しくなった人間が居ても、ちょっと遭わないうちに寿命で死んでいた、などという事になるわけですから。


リューサマであれば、竜人の里で生きるという手もあるのでは? エライザとも一緒に居られますし」


リュー 「……あそこは俺には性に合わん気がしてな。それに、あそこではランスロット達も自由に出入りできんしな」


ランスロット 「はい、竜人の里のある空間は、特殊な結界が張られた空間のようで、我々軍団レギオンの居る亜空間からは直接アクセスできませんでした。しかし、リューサマがドラゴンハイウェイで連れて行って下されば、おそらく行く事ができると思いますよ?」


リュー 「まぁ、俺が居ないといちいち通行できないのも不便だろうしな」


ランスロット 「不死王様が喜んで研究していましたので、そのうち突破できるようにして下さるのではないかと思いますが」


リュー 「里の連中が聞いたら卒倒しそうな話だな」(笑)


ランスロット 「竜人の里が嫌ならば、エルフやドワーフ、魔族など寿命の長い種族とともに生きるという手もありますが」


リュー 「…まだ、前世で生きた時間のほうが長いからもしれんが、俺の感覚は、いまだ “人間” なんだよなぁ。人間の世界で生きたいと思ってしまったのさ」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ランスロットの家族の話が明かされる?!


乞うご期待!


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