第67話 ベティ戦 後編

だが、攻撃を予想していたリューは、横に飛んであっさりと火球を躱してみせる。訓練場の壁に当たって霧散する火球。(訓練場の壁は防御魔法が掛けられている。)

 

ベティ 「よ、よく避けたわね。でもいつまで続くかしら?」

 

初撃で決着がつけられなかったベティが引き攣りながら言った。

 

ソフィ 「待てベティ、剣の試合に魔法は卑怯ではないか?」

 

ベティ 「そんなルールは決めておりませんわ!」

 

リュー 「別に構わん。剣が使えない平民相手に剣で決闘を挑む。魔法が使えない相手に魔法で決闘を挑む。自分の得意な攻撃方法は伏せたまま不意打ちで勝負。実に貴族らしいやり方じゃないか?」

 

ベティ 「侮辱する気?」

 

リュー 「事実を言っただけだ。まぁ、相手の実力も確認もせずに決闘を挑むのは、単なる間抜けだと思うがな。」

 

ベティ 「…………もしかして、必死? そうやって煽って魔法無しの対決に持ち込みたいと言ったところかしら? 乗らないわよ、私は剣は得意ではないからね。」

 

リュー 「奇遇だな、俺も剣は得意じゃないんだ。魔法も得意ではないが。」

 

ベティ 「魔法が得意でないなら、降参しなさい、素直に負けを認めて謝るなら許してあげるわ。」

 

リュー 「別に構わんと言ったろ? 得意ではないが、その程度の魔法に負けるとも思えん。」

 

ベティ 「……後悔しなさい!」

 

再び火球が浮かび、リューに襲いかかってくる。

 

すばやく無駄のないフットワークで躱すリュー。

 

ベティ 「いつまで続くかしら?」

 

ベティは間断なく連続して火球を放って来る。全て躱されてしまうが、リューに当たらずに通過していった火球のいくつかが、Uターンして再びリューに向かった。追尾式である。

 

リューは、背後から襲ってくる火球に気づいていないのか、回避の動きを見せない。それを見てベティは勝ったと思った。

 

複数の火球がリューの背中に当たる……

 

 

 

 

……だが、火球はリューの体に吸い込まれるように消えてしまった。

 

背後から襲ってくる火球にも当然気づいていたリューは、亜空間を作成し、背面にその開口を開き火球をすべて 「収納」してしまったのだ。

 

ベティ 「?!」

 

驚いたベティは、続けて何発も火球を放つが、リューの体に吸い込まれるようにすべて消えてしまう。

 

ベティ 「魔法障壁? …違う、何をしたの?!」

 

リュー 「魔法を亜空間に“収納”しただけさ。」

 

ベティ 「収納魔法?! 魔法を収納するなんて聞いた事ないわ!」

 

だが、何度打っても火球は吸い込まれて消えてしまう。

 

ベティが放つ魔法を収納しながら、一歩一歩と迫ってくるリューに、恐怖の表情を浮かべるベティ。

 

ベティ 「こ、これならどうよ?!」

 

ベティは火球を複数自分の前に浮かべると、それを一つに合体させていく。さらにどんどん火球を継ぎ足し、合体した火球は巨大化していく。

 

ベティの切り札的大技である。魔法をどんどん継ぎ込んでひとつに合成することで、極大の威力の魔法にする。本当は、そんな事をしている間に攻撃されたら終わりなのだが、リューが速攻を仕掛ける気がないため可能な攻撃であった。

 

ソフィ 「ベティ、やめるのじゃ! そんなモノを放ったら、ギルドが吹き飛んでしまうぞ。」

 

だが、ベティは止まらない。

 

……いや、様子がおかしい。焦った顔をしている。

 

どうやら焦りのため無理をしすぎて、火球の制御が効かなくなっているらしい。

 

本当は威力を攻撃対象だけに集中するように制御コントロールするつもりだったのだが、上手くいかなくなってしまったのだった。

 

ベティ 「ソフィ様、コントロールが効きません、逃げて下さい!!」

 

リュー 「大丈夫さ。」

 

ベティの頭上に燻っている極大火球にリューが手を翳すと、火球は消失してしまった。リューが極大火球をも収納してしまったのである。

 

 

 

 

安堵し、青い顔で膝を着くベティ。魔力切れのようだ。最期の極大魔法にベティの魔力は大量に吸われてしまったのだった。

 

この世界の生物は、多かれ少なかれ魔力によって生命力を補っている。魔力が完全になくなってしまうと、死にはしないが、必要最低限の弱い生命力だけになってしまい、動けなくなってしまう。

 

ベティに駆け寄るソフィ。

 

リュー 「終わりか?」

 

ソフィ 「終わりじゃ、もうベティは戦える状態ではない。」

 

リュー 「まだ俺は何もしていないんだがな。」

 

ベティ 「まだ! まだやれます!」

 

強がりを言うベティだったが、自力で立ち上がることができないのであった。それを見たソフィが言う。

 

ソフィ 「……勝負ありじゃ。」

 

それを聞いて、がっくり項垂れるベティであった。

 

 

 

 

リュー 「さて、どうする? 次は?」

 

リューは壁際に立って見ているある人物のほうに視線を向けた。

 

実は、ソフィ付きのメイドは三人居たのだ。

 

マリー・ベティの他にもう一人、ずっと存在感を消して黙りこくっていたメイドが居たのである。

 

3人目のメイド 「いえ、私は結構です、とてもリュージーン殿と戦える力はございませんので。」

 

だが、ベティが叫んだ。

 

ベティ 「何を言ってるのアリス! 貴女なら勝てるでしょう!」

 

実は、そのアリスと呼ばれたメイドは、マリー・ベティも認める実力の持ち主なのである。だが、本当に実力があるがゆえに、相手の力も確かめずに勝負を挑むような事はしないし、自分が勝てない相手に挑戦をする事もない。

 

これまでの戦いを見ていたアリスは、おそらく自分では、まともにリューと戦ったら勝てないのが理解わかっていたのだ。

 

だが、そこでメイド達が驚愕する発言をソフィがする。

 

ソフィ 「では、次は妾の番じゃな。」

 

  

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

ソフィ戦?

 

乞うご期待!

 

 

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