第583話 パガル、廃嫡追放

パガル (まさか、オイレンの奴、下手打ったのか?)


ヒムクラート 「お前が直接手を下していないのはわかっている。どうせ破落戸ならずものを雇ってやらせたのだろう? とぼけなくともよい。何をしたか正直に言ってみよ」


パガル 「……いや、確かに、生意気な子供を少し懲らしめてやったらどうだ? とはオイレン達には言いましたが……。もし、何かあっても問題にならないようにと治療薬を渡しておいたはず…」


ヒムクラート 「怪我は治療して返すように命じたのだな?」


パガル 「はい、ですから、問題になるような事はないかと…。仮に何かあったとしても、やったのは破落戸達、ヒムクラートは関係ないですし」


ヒムクラート 「…その破落戸達は全員殺されたそうだぞ。そして、その者達に命じた者の名もバレておった。ヒムクラートの名を名乗る者に命じられたそうだ」


パガル 「あいつら…。しかし、所詮は破落戸。自分達が助かるため、あるいはヒムクラート家を陥れるため、嘘を言ったのだと言えばよいでしょう。全員殺されたのなら、証人は誰も居ないはずですし」


ヒムクラート 「本人おまえが自分で、被害者に名乗ったと言っていたぞ?」


パガルはレスターに名乗ったことを思い出す。


パガル 「それは……確かに子供の前では名乗りましたが、暴行を命じたかどうかは分からないでしょう。たかが子供の証言……まさか、アレスコードから苦情の申し入れでもあったのですか?」


ヒムクラート 「それならまだ対処のしようもあったんだがな…」


パガル 「違うのでしたら別に、騒ぐような事では…」


ヒムクラート 「危うく儂が殺されるところだったとしてもか?」


パガル 「!?」


ヒムクラート 「破落戸の雇い主と間違われてな。


…まったく、お前は、手を出して良い相手と悪い相手の区別もつかんのか……」


パガル 「確かに相手はSランクの冒険者だとは言っていましたが、まさかそこまでするとは……」


ヒムクラート 「今後、トナリ村と関わる事は許さん」


パガル 「そんな! あそこには…! 上手くやればマンドラゴラが手に入るのですよ?」


ヒムクラート 「黙れ、ヒムクラートに迷惑を掛けおって…! 


パガルよ、お前は今日で廃嫡とする。今後二度とヒムクラートを名乗る事は許さん! もし名乗ったのが判明した場合は、その場で殺して良いと部下達に命じておくから気をつける事だ」


パガル 「そんな! それは…! あまりにも……父上! できは悪いですが、それでも僕はあなたの息子ですよ? 愛情はないのですか?」


ヒムクラート 「本来なら首を刎ねるべきところを、息子だからこそ、この程度の処罰で済ませてやっているのだ…」


パガル 「そんな… そんな……」


ヒムクラート 「これを持って出て行け。これからは我が家とは関わらず、平民として生きるが良い。達者で生きろ」


ヒムクラートは金貨の入った袋を机に置くと、パガルを残して部屋を出ていった。




  * * * * *




失意のうちに自分の商会に戻ってきたパガルに、アケルが声を掛けた。


アケル 「パガル様、お気持ちはお察し致します……


が、早急に荷物をまとめて出ていって頂けますかな?」


パガル 「…どういう事だ?」


アケル 「どうって、この商会は店じまいしなければなりませんので。大した商売はしておりませんでしたが、それなりに処理しなければならない手続きもございますが、まぁそれくらいは最後の奉公として私がやっておきますよ」


パガル 「最後…? どういう事だ?」


アケル 「飲み込みが悪い奴だな、もうお前の下で働く義理はなくなったといっておるのだよ」


パガル 「…アケル?」


アケル 「アケル様と呼べ。私はこれでも準男爵の爵位をもらっているのだからな。お前は平民になったのだろう? 貴族相手にはそれなりの態度というものがあるだろう。


それと、この商会はヒムクラート家の百%出資で作られているのだ。当然、資産は全てヒムクラート家に戻す事になる」


パガル 「なんだと…! お前…! これまで長く使ってやったのに…!」


アケル 「勘違いするなよ。私が仕えているのはヒムクラート子爵閣下だ。お前ではない。


ああ、これで私もやっと本家に戻れる。本家の筆頭執事だったこの私が、出来の悪い四男のお守り役を命じられた事は著しく不満ではあったが、四男が無能であるがゆえに、一番優秀な私が面倒を見てやってくれと閣下に頭を下げられたから仕方なく引き受けただけのこと。


手を抜いたつもりはないが、自滅してくれて助かったわい」


パガル 「そんな……お前まで居なくなって、商会もなくして、俺はこれからどうすればいいんだよ!」


アケル 「平民として地道に生きて行くがよかろう」


パガル 「そんな……」


アケル 「……閣下から少なくない餞別を貰っただろうが? とりあえずここを出て、部屋でも借りて、その金を元手に新たな商売でも始めればよかろうが! この商会で商売のコツは多少は学んだだろう?」


パガル 「商売……だが、父上はもう取引はしてくれまい…」


アケル 「まぁしばらくは平民相手に商売をしながら熱りが冷めるのを待つことだ……。


その上で、ヒムクラート家が無視できないほどの商売を持って、再び閣下に認めさせればよい事だろうが! それくらいの気概もないからダメなのだよお前は!」


パガル 「……! そうか……俺に、できるかな?」


アケル 「できなければ野垂れ死ぬか……まぁ平民として無理せずに慎ましやかに生きる道もあるだろうさ」


パガル 「……アケル、世話になったな」


アケル 「アケル様と呼べ! ああ、もういい、後処理はやってやるから、目障りだからさっさと出て行くがいい!」


商会から追い出したパガルがフラフラと街のほうへと歩いて行ったのを見届けてから、アケルは急ぎヒムクラートの屋敷へと向かった。今後の事を子爵と相談するためである。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


子爵家に戻ったアケルだったが…


乞うご期待!



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