第582話 暗殺(一回目)
ヒムクラート 「…いや、そういうわけではなさそうだな。暗殺者ギルドの殺し屋なら、無駄話などせずにもう殺っているだろうからな」
アリサ 「…どうやって…?」
ヒムクラート 「?」
アリサ 「暗殺者ギルドは、一度依頼を受けたら取り消しを受け付ける事はないはず」
ヒムクラート 「依頼した者を買収し、依頼を取り下げさせたんだよ……」
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ヒムクラートは昔、とある土地の利権を巡ってとある貴族と争い、卑怯な手を使ってそれを奪った事があったのだ。
相手に濡れ衣を着せ、失脚させる事に成功したヒムクラート。
ただ、ヒムクラートは相手が負けを認めて頭を下げてくれば和解するつもりであった。名誉も回復してやり、自分の配下にしてそれなりに利益も与えてやると伝えたのだ。
だが、相手は貴族。商人であれば利害の計算だけで引く判断もするが、貴族は金だけでは動かないところがある。特にその貴族はヒムクラートを毛嫌いしており、ヒムクラートの配下になる事を断固拒否したのだ。
だがその結果、その貴族の家は没落しかけてしまう。そして、破れかぶれになったその貴族は、残りの私財を投げ売って暗殺者ギルドに復讐を依頼したのだった。
それを知ったヒムクラートは必死でその貴族を探した。幸いにも、その貴族はヒムクラートの死を見届けるためにヒムクラートの屋敷の近くまで来ていたためすぐに発見する事ができた。
ヒムクラートはその貴族に頭を下げ、利権を返すのはもとより、失った財産をすべて補填、さらに賠償金まで払うと約束した。それでも相手は首を縦に振らなかったのだが、残される妻や子供の事を考えろと説得し、なんとか依頼を取り下げさせる事ができたのであった。
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アリサ 「嘘だ。一度依頼が受理されれば、たとえ依頼者本人からであっても取り消しは受け付けない」
ヒムクラート 「まぁそこは
まぁ正直ギリギリだった。あの時、暗殺者ギルドの人間が止めに来るのが間に合っていなければ、儂は死んでいただろう…」
アリサ 「…依頼の途中で中止命令が出た経験は、あの時一回しかない」
ヒムクラート 「……! …あの時の刺客はお前だったのか?」
再びアリサに殺気が宿る。
アリサ 「……正体を知られたからには死んでもらう…」
ヒムクラート 「待て待て待て! 誰にも話さん、約束する。暗殺者ギルドを敵に回したくない、命が惜しいからな」
アリサ 「今は暗殺者ギルドとは関係ない、ただの冒険者だ」
ヒムクラート 「足を洗ったのか? ならばなおのこと、問題ないだろう? 暗殺者であった過去があったとしても、どうせ証拠など何もないのだろうからな。もし暗殺依頼といわけではないのなら、頼む、見逃してくれんか? 条件は何でも飲む。二度とトナリ村には手を出さないし、関係者にも手を出させないと約束する。子供の治療も責任もって行う。慰謝料も支払おう。約束する! 今日だって本気で殺しに来たわけじゃなく、警告にしに来ただけなんだろう?」
アリサ 「……
…もし、約束を違えた時は、警告もなしに黙って殺す」
ヒムクラート 「ああ、それで構わない。パガルの奴はしっかりと罰を与えておく。なんなら首を斬ってトナリ村に持って行かせようか?」
アリサ 「…そんなモノはいらない。…約束を破るなよ」
ヒムクラート 「……消えた!」
アリサが気配を消した事によりヒムクラートはアリサの存在を見失ってしまった。アリサはただ気配隠蔽のスキルを発動しただけでまだ室内に居たのだが。
ヒムクラート 「行ったか……ふぅ。冷や汗をかいた。人生で二度も暗殺者に狙われるとはな。二度ある事は三度あると言うが、もう勘弁してほしいものだな…」
アリサ 「三度目は本当に死ぬ事になる」
ヒムクラート 「うっひゃぁはん!」
耳元で囁かれて飛び上がって驚くヒムクラートを置いて、アリサは転移で屋敷を後にしたのであった。
* * * * *
翌日、ヒムクラートの街に戻っていたパガルを衛兵達が捕らえた。もちろんヒムクラート子爵の命令である。
ヒムクラートの前に引き出されたパガル。
パガル 「父上! なぜ私がこのような扱いを受けねばならないのです?!」
ヒムクラート 「面倒事を引き起こしてくれおって」
パガル 「何の事ですか?」
ヒムクラート 「トナリ村で騒ぎを起こしたろう? わざわざヒムクラートの名を出しおって、馬鹿者が」
パガル 「……別に騒ぎなどと言うことは、何も、起きてないはずですが…」
ヒムクラート 「孤児院の子供に暴行したそうだな?」
パガル 「はて、何の事だか…
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
パガル 「上手くやればマンドラゴラが手に入るのですよ?」
乞うご期待!
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