第581話 アリサは口下手

アリサは、マンドラゴラを狙って来た男がヒムクラート家の貴族だと名乗ったと聞き、事を解決・・するためにヒムクラート領へと向かう事にした。


まずトナリ村の隣のアゾマの街へ行き、そこからフホ村、アレスコード領の領都(アレスコード)を抜ける。さらにその先のモカイの街を抜けると、その次にあるのがヒムクラート(ヒムクラート領の領都)である。


徒歩または馬車で普通に移動すれば五日ほど掛かる。


(通常、街と街の間の距離は三十~五十キロメートルほど。馬車は徒歩より少し早いくらいの速度である。馬車で5日の距離ならば、速馬を飛ばせば一日でも到達できる距離ではあるが、その場合は、途中の街で馬を交換しながらという事になる。馬もその距離を連続して全力疾走する事はできない。)


ただ、転移が使えるアリサならばそれほどの時間は掛からない。アリサには長距離の転移はできないが、短距離転移を連続で繰り返し、歩いて移動するよりは遥かに速く移動できるのだ。


とは言え、それも魔力が続く限り、という事になる。


通常、転移魔法というのは莫大な魔力が必要とされるが、アリサの転移は魔法ではなく生まれ持ったスキルであったため、僅かな魔力だけで発動が可能である。


とは言え、魔力を消費する事には変わりなく、またアリサはそれほど莫大な魔力を持っているというタイプでもないので、やはり限界がある。


結局アリサは、ヒムクラートの街に着くのに2日を要してしまった。(5日の道程を2日で移動したのだから十分速いのであるが。)


さらに、街までの移動で魔力を使い果たしてしまったので、ヒムクラートの宿で一晩、回復の時間が必要であった。


アリサも最初、ランスロットに頼んで協力してもらおうかと考えた。彼らの亜空間を通って移動させてもらえば、ヒムクラートであっても一瞬で移動可能である。


だが、レスターが言っていた事を思い出し、自分の力で解決する事を選んだのだ。


リューはいずれまた旅に出ると言っていた。


…今、子育てに夢中になっている様子を見る限りでは当分出かける気配はなさそうではあったのだが…。


だが、いつかふらっと旅に出てしまうかもしれない。また戻ってはくるだろうが、一度旅に出れば不在の時間は長くなるだろう。その間、問題が起きたらどうするのか。そういう時にも自分達で解決できるようになっておかなければならない。


レスターのその考えに、アリサも賛同したのだ。もう間もなく自分アリサも成人する。いつまでもリューの世話になっているわけにも行かないのだ。




  * * * * *




アリサがヒムクラートに到着し、体力を回復させた三日目の夜。


アリサはヒムクラート子爵の屋敷の主の寝室で、ベッドの上にいるヒムクラート子爵と対峙していた。


ヒムクラート子爵 「…誰だ? どうやってここまで入ってきた?」


アリサ 「…トナリ村に手を出すな」


ヒムクラート 「トナリ村? 一体なんの話だ?」


アリサ 「ヒムクラート家の者だと名乗った」


…アリサは口下手であった。


ヒムクラート 「…ヒムクラートの人間がトナリ村に行って迷惑をかけた、という事か?」


ヒムクラート子爵は察しが良かった。


アリサ 「孤児院の子供に暴行を働いた」


ヒムクラート 「それは…。ちょっと信じられんが。仮にもヒムクラートを名乗る者がそのような下品な事を―」


アリサ 「やったのは雇われた者だ」


ヒムクラート 「なるほど。で、その者達が雇ったのはヒムクラート家だと言った、というわけか? だが、それは嘘だな。儂はそんな命令を出した憶えはない」


アリサ 「そいつはマンドラゴラの植生地を教えろと言ってた」


ヒムクラート 「…マンドラゴラ? ああパガルの奴か! あの馬鹿めが…。


悪いが、その件は儂は知らん、パガルが勝手にやった事だ」


アリサ 「ヒムクラートを名乗った。関係ないとは言わせない」


アリサの殺気が強まり、喉を締め付けられるような錯覚をヒムクラートは感じた。


ヒムクラート 「…っ分かった。パガルの奴にはもうその件からは手を引くように言っておく」


アリサ 「…手を引く? それだけ?」


ヒムクラート 「なんだ、賠償金でも支払えと言うか?」


アリサ 「金などいらない」


ヒムクラート 「ならばどうしろと?」


アリサ 「…子供に暴行を働いた奴らは全員殺した。だがそいつらも命じられただけだった。だから、雇った奴も殺しにきた」


短剣を抜き殺気を溢れさせるアリサ。


ヒムクラート 「…!!」 


殺気に当てられ意識が遠のくような錯覚を感じ、顔が引き攣る。


ヒムクラート 「…ちょ、待て! 分かった、パガルには罰を与えておく。関係者には二度とトナリ村には手を出さないと誓う。子供の治療も責任を持って行う! 慰謝料も払おう!」


アリサ 「…やけに物分りがいい。そうやってすぐ調子いい事を言う奴はだいたい嘘つきだ」


ヒムクラート 「嘘じゃない! 殺されるよりはマシだと考えてるだけだ! 実は以前にも刺客を送り込まれた事があってな、その時に懲りたのだよ…」


アリサ 「……」


ヒムクラート 「恐ろしいものだよな、暗殺者というのは……警備など全くないかのように忍び込まれたよ、そう、今日のようにな。


…お前も暗殺者ギルドの刺客なのか?」


アリサ 「…」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


二回目だった


乞うご期待!



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