第439話 地球でもっとも重い金属

リュー 「さて、ギルド受付に挨拶も済んだ事だし、少し遊んでやるとするか?」


エルザ 「あ、あの…、お手柔らかにお願いしますね。彼らも、悪い人間じゃないんです、ちょお~っと、やんちゃなだけで…」


リュー 「ああ、別に殺しはしないさ」


エルザ 「あの、できたら怪我もさせないで頂けると…」


リュー 「安心しろ、俺は治癒魔法も使える」


ニヤリと意地悪そうに笑ったリューの笑顔を見て、ガフリッケの背筋に悪寒が走るのであった。




  * * * * *




ギルドの訓練場に移動したリューとガフリッケ達。


ガフ 「あの~やっぱり止めにするってわけには…」


マツ 「バカヤロウ、俺はお前に大金賭けちまってるんだぞ、今更不戦敗になんかできるか! なぁ?」


マツがトーゴとギームのほうを振り返ったが、二人は肩を竦めて笑った。


トーゴ 「悪いが、俺達はあっちの男に賭けたんだ、ガフには賭けてない」


マツ 「なっ、お前ら~!」


リュー 「さぁ、さっさと始めようか。柄物えものとルールはどうする?」


リューは訓練用のマイ模擬剣を素振りしながら言った。もちろん、特殊合金製の模擬剣である。振る度にブオンと凄い音がする。


ガフ 「見たろ、あのスピード。俺の斧よりずっと速い……」


マツ 「何を言ってる、さっき言ったろ? あんなスピードで剣が振れるのは、あの剣はおそらくものすごく軽量なんだよ。金属のように見えるが、何か軽量な素材でできているのに違いない」


リュー 「ああ、まぁ、それほど重くはない。持ってみてもいいぞ?」


そう言いながらリューは、剣を訓練場の土間に突き刺した。


訓練場の床は、破壊された場合の修理が大変なので土になっているが、もちろん魔法で強化してあって、そう簡単に掘ったりなどもできないようになっているはずなのだが、まるで柔らかい粘土に突き刺すかのように、リューの模擬剣は床にめり込んでしまった。


あまりに自然に刺したので誰も気付かなかったが、実は本来、異常な事なのである。


リュー 「誰でもいいぞ、この剣を抜いて、振ってみろ。これくらいは振れなければ、俺と戦う資格はない」


リューは一番近くに居たガフに「どうぞ?」とばかりに目配せした。ガフは素直に近づき剣を握る。が、しかしそのまま固まってしまった……


マツ 「おい、アイツ、何やってんだ……?」


ガフ 「…なんだこれ……? 抜けねぇ……」


トーゴ 「…ガフ?」


マツ 「何言ってるんだ」


マツも近づいてきて床に刺さっている剣を抜こうとしたが抜けない。


マツ 「……一体何のトリックだ?」


マツがリューのほうを振り返りながら言うが、惚けた顔のリュー。


リューは黙って剣に近づくと、ひょいと抜いてみせた。


マツ 「!」


リューはそのまま剣を持ち替えて、柄のほうをマツに向け、差し出した。


マツは戸惑いの表情のまま、模擬剣の柄を握ったが……


マツ 「うぉ!」


リューが手を離した瞬間、そのまま剣の先端は落ちて床にめり込んでしまう。さらに、片端が地に着いたにも関わらず、柄の方だけでも重量を支えきれず、思わずマツは剣を床に落としてしまったのだった。


ゴトンと鈍い音を立てて床に落ちた剣は、跳ねる事もなく、少し床にめり込んでいるように見える。


マツ 「……」


少し青くなっているように見えるマツ。


ガフ 「マツ……?」


マツは顎でクイクイとガフリッケに剣を拾ってみるように促す。ガフリッケは素直に剣を拾おうとするが、まったく持ち上がらない。


ガフ 「どうなってるんだ?」


リュー 「この剣は、重さが1トン近くあるんだ」


マツ 「1トン…だと?」


リュー 「手を離して正解だったな。掴んだまま挟まれてたら指が潰れてたかもしれん」


マツ 「! てめぇ、そんなもの渡しやがって…!」


リュー 「安心しろ、潰れてもちゃんと治してやるつもりだったさ」


以前からリューは、素振り・練習用の重量のある模擬剣を求めていた。素振りの鍛錬用だが、リューの膂力で振れば、それはそのまま強力な打撃武器にもなる。剣の形でなくとも、棍棒でも良い。だが、既製品ではなかなか良いモノがなかった。以前、バイマークの訓練場にあった素振り用の鉛入りの模擬剣を貰って使っていたが、それでもリューには軽すぎたのだ。


そんなある時、不死王から通信用魔道具で連絡があった。リューが前世で居た世界(地球)にどんな金属があったか教えてくれと言うのだ。


リューは憶えていた知識にある金属素材について不死王に説明した。割とその種の知識は日本に居た頃のリューも好きだったため、かなり詳しく説明できた。


結論としては、地球にあるような金属は全てこの世界にもあるようで、とくに珍しいモノはなかったのだが。


ウラニウムなども、この世界にもあるらしい。つまり、核爆弾も技術さえあれば作れると言うことだ。その気になれば、不死王なら作れるかも知れない。


だが、苦労してそんなものを開発せずとも、核爆弾を超えるような破壊力のある攻撃魔法もあるそうなので必要ないらしい。(それを発動するには膨大な魔力が必要なので、使える者は不死王以外は事実上居ないのだが。逆に言えば、魔力さえあれば、魔法は天井知らずで威力を高める事ができるらしい。リューの無限の魔力を注ぎ込めば、とんでもない事になるかも知れない。)


その話の中で、“一番重い金属” という話題になった。


リューの記憶では、地球でもっとも重い金属はタングステンだったはず…。リューの知らない金属があったかも知れないが、リューの知識の中ではそうだったはずである。


比重は金と同じくらいで、ダイヤモンド並に硬く、ダイヤモンドと違い弾力性も持っているため、破壊することが極めて難しい金属、だったと記憶している。炭素やコバルトなどを混ぜた合金は切削も非常に難しい超硬金属となる。


タングステンというと一般の人はあまり見掛けないだろうが、融点は鉄の倍以上なので炉の内壁や、放射線を防ぐ能力が高いため、レントゲン室の防護板などにも使われる。


一時期、その不変性から、色褪せぬ普遍の愛と幸せの象徴として、タングステン製の結婚指輪が流行ったという話もあった。試しにタングステンの指輪をニッパーで切断しようと試みた人が居たが、結局傷一つ付けられなかったという話をリューはなんとなく覚えていた。


その “タングステン” はこの世界にもあるのか不死王に尋ねてみたところ、なんとそれもあるという事だった。


不死王が鉱石を持っており、それほどレアというわけでもないと言う。地球ではレアだった素材も、この世界ではたくさん存在しているという事も当然あるだろう。


ならばと、リューは、タングステンで模擬剣を作れないかと思いつき、不死王に相談してみたのだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


世界で一番重くて頑丈な模擬剣を作ろう!


乞うご期待!


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