第234話 “要塞”と呼ばれる宮廷魔道士来る
ドロテア・リンジット。男性のような服装で男性のような話し方をするが、女性である。顔立ち美しく、いわゆる男装の麗人というタイプである。魔法の腕はこの国随一であり、宮廷魔道士のトップに任じられている。
ドロテアは、冒険者ギルドから流された情報を聞き、すぐに王都を出た。
国境の街ドレッソンまで王都からは六日の距離であるが、ドロテアは魔法で馬を強化し、二日で着く事ができた。
街に着いたドロテアは早速、冒険者ギルドでマスター・ブラギエフと面会を要求した。
高身長で男装の麗人という風体のリンジット。ブラギエフのほうが身長が高いはずだが、その迫力からブラギエフのほうが小さく見える―――それはブラギエフが小さくなって恐縮していたからでもあるのだが。
ドロテア 「早速だが、故障したという測定器を見せてくれるか?」
ブラギ 「いえ、それが、そのう…、故障はしておりませんでした。その…態々来ていただいたのに申し訳有りません!」
頭を下げるブラギエフ。
ドロテア 「誤作動だったか? まぁいい、それでも見せてくれ。それと、誤作動した時の状況を説明してくれ」
ブラギ 「いえ、本当に、単なる誤作動ですし! い、今は正常に動いていますので! 本部にも問題ないと報告したんですが、連絡が行き違ってしまったようで……」
ドロテア 「修正報告は私も聞いているよ。だが、誤作動があったというのも気になるのだ。高価な魔道具だ、何か潜在的な問題があるかも知れんからな。故障の前兆かも知れんだろう? いいから見せてくれ」
ブラギは渋々、ピンコに測定器を持ってくるよう命じた。
ドロテア 「で、何があった?」
ブラギ 「いえ、それが……、とある冒険者がが隣国より入国して参りまして。その冒険者の魔力を測定したところ、誤作動を起こしたのです……。
ですが!
その後、その者はちょっと特殊な体質の人間だった事が分かり、その後測定器は正常に戻りましたので」
だが、運び込まれた測定器をチェックしたドロテアは驚愕した。
ドロテア (これは……署名が書き換えられロックが解除されている……!
術式が改変された?!
いや、国家機密レベルの封印術式だ、それを改変できる人間など居るわけがない。
だが、実際にロックは解除されている。
術式が改造されたとしたらそれも問題だが、それ以前に、ロックを解除できる人間がもし居るとしたら大問題だぞ……)
顔をあげたドロテア、ブラギエフを見る。
ドロテア 「……ブラギエフ君。問題があったなら、隠し立てしないほうがいい、隠せば隠すほど、後で発覚した時、問題は大きくなるもんだぞ?
安心しろ、私はギルドの人間ではない、別にそれでお前を罰しようとは思っていない。だから正直に言ってくれないか、何があった?」
結局、観念したブラギエフは、事の顛末を正直にドロテアに話したのだった……。
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ドロテア 「では、そのリュージーンという冒険者が測定器を修理したのか?」
ブラギ 「いえ、それが、知り合いに魔道具の修理が得意な者が居るからと言われまして」
ドロテア 「その者を連れてきて修理させたというわけか?」
ブラギ 「いえ、それが、そうではないのですが……」
ドロテア 「なんだ、奥歯にモノが挟まったような言い方はやめろ。はっきり言え、別にそれでお前を罰したりはしないから!」
ブラギ 「その、信じてもらえないかも知れませんが、壊れた測定器がいつの間にか机の上から消えてまして。そして、また元通り直った状態で机の上に置いてあったのです……」
ドロテア 「……すり替えられた?」
ブラギ 「え?! まさか……!」
ドロテア 「いや、台座裏に刻んである魔力紋は本物である事を示している。部分的に部品を入れ替えられたとしても、魔力紋と一致しなくなってしまうから偽造はできないはずだ。だとすると、やはり修理して戻したのか……?
他に何か気づいた事、変わった事はなかったか?」
ブラギ 「そう言えば、改良しておいた、とも言っていました……今後は大きすぎる魔力を入力しても壊れる事はないと……そして、リュージーンが再度測定してみたのですが、数値はマックスを示しましたが、故障する事はありませんでしたので、良かったなと……」
ドロテア 「マックスだと!? この測定器は9桁まで測れたはずだぞ?! それがマックスと言う事は、10億超え? そんな事はありえない」
ブラギ 「ええ、ですから、そのリュージーンが特異体質で誤動作しただけなのではないかと。実は……その前に、そのリュージーンにウチの冒険者達が絡みまして」
ドロテア 「……?」
ブラギ 「リュージーンも受けて立ち、訓練場で模擬戦を行ったようなのですが……」
ドロテア 「それで? どうなった?」
ブラギ 「相当な人数で掛かったのですが、リュージーン一人に完敗だったようです」
ドロテア 「一人を大勢でやったのか」
ブラギ 「ええ、その中にはBランク冒険者も混ざっていたのですが」
ドロテア 「ほう? ランクBの冒険者になるには無詠唱が可能であるはずだな? それでも歯が立たなかった? それほどそのリュージーンという冒険者は凄腕の魔導師なのか?」
ブラギ 「それが、リュージーンは魔法を使わずに全員斃してしまったのです。その、妙な技を使っていまして。ウチの連中の魔法が全て無効化されてしまったんです」
ドロテア 「魔法が無効化? どういう事だ? 障壁か?」
ブラギ 「いえ、私も最初から見ていたわけではないのですが、魔法が霧のようにかき消えてしまったように見えました…」
ドロテア 「そのリュージーンというのは何者だ? 隣国のスパイではないのか?」
ブラギ 「スパイかどうかは分かりませんが、犯罪歴の記録はないようでした。
隣国の人間というわけではなく、あちこち旅をしていると言っていました」
ドロテア 「Bランクを含む多数の冒険者相手に完勝であったという事は、その冒険者はAランク、いやSランク級の実力者と言う事になるが……」
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次回予告
ドロテア、宿でリューとニアミスするも気付かず
リュー 「ずっと猫の姿でいればいいのに」
ヴェラ 「やあよ」
乞うご期待!
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