第171話 パーティ解散~リュー旅立つ

オークから助けられた後、アナとレオノアは魔力による身体強化の欠点に気付いた。

 

欠点というよりは、好みや方向性の問題でもあるのだが……

 

このまま身体強化を極めていけば、やがてバッジ達を倒せるくらいの力を手に入れる事も可能かも知れない。だがそれでは、せっかくの魔法や回復の才能を活かせなくなる事に気付いたのである。

 

そもそも、この世界で冒険者を志すような人間というのはほとんどが職能クラスというものを持っている。才能というか、職業適性みたいなものであるが、持っているクラスによって能力に補正がかかるのである。例えば剣士のクラスを持っていれば筋力や反応速度、剣技にプラス補正が、マジシャンやヒーラーのクラスを持っているレオノアやアナは、魔法や治癒の能力にプラス補正がかかるわけである。

 

せっかく持って生まれたその才能を捨てて別の職業(役割)を目指すのは、やはりもったいない。

 

せっかく人より多くの魔力を持っているのだから、それを活かさずに、プラス補正もない戦士職を目指す事は、よほど何か拘りでもあるのでなければメリットは何もない。

 

結局、アナとレオノアは自分達本来の役職の能力を伸ばす事、つまり魔法使いマジシャン回復士ヒーラーで一流を目指す決意したのであった。

 

そんな時アナとレオノアは、すっかり打ち解けたバッジとサップにパーティに誘われたのだ。

 

(ダンジョンが正常化した事で、バイマークでもマジシャンやヒーラーの需要が高まっていたのである。ギルドの方針転換に納得がいかず、魔法職に否定的だったバッジ達であったが、レオノアの攻撃魔法を見て少し考えを改めたのであった。)

 

そもそも実は、バッジとサップはアナとレオノアに気があり、ちょっかいを出していたらしい。

 

そして、くだらない絡み方をやめ、二人は堂々と気持ちを伝えた。告られたレオアナのほうも(命を助けられたのもあって好感度が上昇していた事もあるのだろうが)二人もまんざらでもなかったのであった……。

 

だが、二人が森の風に参加すると言う事は、リューとのパーティは解散と言う事になる。(複数のパーティを掛け持ちする事もできないわけではないのだが、中途半端な状態になるのは否めない。)

 

アナ・レオノア 「ほんとに、ごめんなさい」

 

リュー 「別に構わんよ。まったく気ニシテナイサー」

 

リューとパーティを組んだばかりだからと誘いを断ろうとしたアナとレオノアだったが、二人に森の風への参加を勧めたのは実は他ならぬリューであった。

 

もちろん、バッジ達はリューも一緒にと誘ってくれたのだが、リューが断った。なぜならリューは街を離れる予定があったのである。

 

二人もせっかく難易度の高いバイマークを選んで冒険者になったのだ、すぐに街を離れる事もないだろう。

 

それに、街に残って命を助けられた恩を返したいというアナとレオノアの思い、また二人がバッジとサップに惹かれている気持ちもリューは分かっていた。

 

基本、ソロであるリューは、パーティを組む事にこだわりはないのである。自分は元々お試し期間でしかなかったのだからと、二人に森の風加入を勧めたのであった。

 

 

   *  *  *  *

 

 

レオノアが無茶修行に出ている頃、リューは指名依頼が来ていると受付嬢に言われてギルマスの執務室に案内されていた。

 

そこに居たのは領主のオルドリアンであった。まだバイマークに居たのかと驚くリュー。とっくにシンドラル領の首都ベイジムへ帰ったと思っていたがそうではなかったらしい。

 

※オルドリアンの治めるシンドラル領には街(城郭都市)が数カ所に点在しているが、領主であるシンドラル家は当然、全ての街に屋敷を持っている。せっかくバイマークに来たのだから、オルドリアンはしばらく逗まってこの街でできる仕事を片付けていたのであった。

 

指名依頼を出したのはもちろんオルドリアンである。そして、その依頼の内容は、バイマークではなく別の街での仕事であったのだ。

 

パーティを組んだばかりだと言うことで考えさせてくれと答えを保留したリューであったが、パーティは解散となったので、この依頼を受ける事にしたのである。

 

領主の依頼でリューが向かったのは、幽霊ダンジョンがある事で有名なロンダリアという街である。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ―

ロンダリアはシンドラル領の隣、マガリエル領にある街である。


近くに不死王城と呼ばれるダンジョンがある事で有名なのだが、ダンジョンが近い割にはあまり活気のない不人気な街らしい。

 

※通常、ダンジョンがあれば、その近くの街にはダンジョン素材で一攫千金を夢見る冒険者や素材で一儲けしたい商人が集り活気があるものなのであるが……

 

ロンダリアはそうではない。なぜなら、不死王城はアンデッドが中心のダンジョンなのである。

 

アンデッドはこの世界では非常に嫌われる魔物である。魔物は素材として狩られるが、相手がアンデッドの場合、危険性が高い割に、素材はほとんど期待できないのである。何より、アンデッドは色々な意味で悍ましい。人間に恐怖心を抱かせる存在なのである。

 

ロンダリアは、街中にも幽霊が出るという噂があり、街全体が陰気な空気に包まれてしまっているのだった。

 

そのロンダリアに居を構える貴族、マガリエル家はマガリエル領の領主である。領内には他にも街がいくつかあるが、マガリエル家は何故か陰気な街ロンダリアに居を構えている。そのマガリエル家の現当主がエミリアである。

 

シンドラル領主オルドリアンの依頼はそのエミリアを“診て”やってほしいというものであった。なんでも、オルドリアンは先代のマガリエル家当主と親友であり、その娘であるエミリアをずっと心配していたのだそうだ。

 

オルドリアンが言うには、エミリアは呪いを受けているというのである。

 

オルドリアンは、呪いの一種と言われていたコカトリスの石化ガスをリューが解除できたという報告を聞き、エミリアの呪いも「もしかして?」と考えたのである。

 

 

― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー、幽霊に襲われる


乞うご期待!



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