覚醒編

第172話 幽霊初体験

リューは治療士ではない。治療の依頼であれば断るつもりであったのだが、治療はできなくともいい、視るだけでいいからとオルドリアンに頼み込まれた。

 

呪いを解除するための何かしらヒントでも見つかれば最良だが、仮に何も見つけられなくとも、診てさえくれれば依頼は達成と認めてくれるという。

 

依頼料もFランクの冒険者に出す依頼としてはありえない額を提示された。

 

別に金に困っているわけではないリューであったが、金額はそれだけ相手の思いの大きさでもある。オルドリアンは貴族にしては腰の低い好人物であった。無碍に断る事もできず、結果には期待しないでくれと予防線を張りつつ、引き受ける事にしたのであった。



   *  *  *  *



バイマークの街を出たリューは北へ北へと進んでいく。馬に乗っての旅である。“この世界流の旅”を楽しむため、転移は使わない。問題の呪いは一刻を争うほどのものではないとの事であったし、そもそも領主のオルドリアンもリューが転移を使える事は今の所知らないのだ。多少到着に時間が掛かっても普通に旅をして到着すれば問題はない。

 

町と町の間は危険な獣や魔物が出るので、この世界では一人旅などする人間はほとんど居ない。防壁を備えた街の中で生活し、都市間を移動する場合は、護衛を付けた大人数の馬車隊キャラバンで移動するのが当たり前なのである。

 

だが、リューに限っては一人旅でも特に問題はない。道に迷い、野宿となる事すらもあるが、次元障壁を周囲に張っておけば夜に野獣や魔獣に襲われる心配もないのだから。

 

それと実はリューは小屋を買い取ってまるごと収納してあるので、適当な広さの場所をみつけて、それを出して中に泊まれるのだ。

 

小屋には風呂もついている。温泉地に出掛けて行って大量の温泉を亜空間に収納してあるので、それを出して湯を貯め入浴し、ベッドで快適に眠るのだ。

 

そこまで快適だと冒険者らしいとは言えないが、そこはあまりリューは気にしていないのであった。

 

転移が使えるのだから、旅の途中であろうと自分の自宅に帰って休むという事も可能なのであるがリューは自宅を所有していないのであまり意味はない。よほど気に入った宿でもあれば夜毎にそこに戻って宿泊すると言うこともその気になれば可能であるが、そこまで気に入った宿も見つかっていないのであった。むしろ、どこでも取り出せる小屋が住み慣れた自宅のようになりつつあったのである。

 

やはり、慣れた場所で眠るのが一番良く眠れるのであった。

 

 

 

馬での旅も悪くない。そうリューは感じていた。日本に生きていた頃の記憶が蘇ってくる。

 

リューは日本ではオフロードバイクに乗っており、休日は時々山の中をツーリングしていたのである。山の中をバイクで疾走している時、もしかしたら自分は過去世で馬に乗っていた事があったのではないか? と思った事があった。 

過去世でどうであったのかは分からないが、次の人生ではまた、馬に乗る事になってしまったわけである。

 

何度も生まれ変わるとしたら、その度、その世界の色々な色々な乗り物に乗っているのであろうが、馬やバイクなど、一人でまたがって乗る乗り物が好きだと思うリューであった。

 


 

そうして目的地に向けて旅をしていたリューであるが、何日も目的の街に着かず、段々不安になってきた。そもそも、印刷技術があまり発達していないこの世界、まともな地図もないのである、手探りでの旅はなかなかしんどい。リューはついに神眼を使う事にした。

 

すると、周辺を探っている内に不思議な魔力を感知する。

 

攻撃的な魔力である。だが、火や水、風や雷などを使う攻撃魔法は短時間で爆発的に発生してすぐに消えてしまうのに対し、リューが感知した魔力は、攻撃力は非常に小さいが、いつまでも消える事なくずっと存在し続けるのである。

 

そのような攻撃魔法があるのであろうか?リューはその魔力の発生源を探って山中へ入っていったところ、おどろおどろしい古城が見えてきた。

 

その時、ふわりとリューの頬を撫でる気色の悪い感触があった。

 

気のせいかと思ったが、さらに首の後ろを撫でられるような感触があった。

 

何者か?

 

危険予知が作動していないので危険はないのだろうが、姿が見えない者に撫でられるというのは気味が悪い。

 

神眼を発動したリュー。すると、自分の周囲を不気味な幽霊のような半透明の魔物が飛び回っているのを見たのであった。

 

その一体がリューに急接近してくる。リューに触れようとしたその魔物の手を躱し、同時に剣を抜き斬りつける。

 

だが、リューの剣は空を切るように魔物の身体を通過してしまい、一切ダメージがないようであった。

 

リュー 「これは……

 

……レイスか?!」

 

レイスとは、モンスターの一種で、アンデッドが多いダンジョンによく出てくる、実体を持たない魔物である。

 

実体(肉体)を持たないため、物理攻撃は一切通用しない。物理攻撃しかできない冒険者の場合、対処に困る相手なのである。

 

知識では知っていたが、リューも見るのは初めてであった。

 

アンデッド系でも物理攻撃が有効な魔物は多いが、ほとんどが光魔法や火魔法に弱いという共通の弱点を持っているので、強力な(炎系の)攻撃魔法や、光属性(治癒系)の魔法を使える魔法使いならば簡単に倒す事ができる。

 

アンデッド系モンスターが多いダンジョンは、物理攻撃に特化してしまったバイマークの冒険者達とは対極の能力が要求される事になるわけである。

 

しきりにリューに近づいては離れる事を繰り返すレイス。リューは何度か剣を振ってみるが、やはり手応えは感じられない。

 

レイスはリューに攻撃手段がない事を見抜いたのか、段々大胆にリューに接近するようになり、ついに手を伸ばしてリューの首を掴もうとしてきた。ドレインタッチである。この技でレイスは相手の生命エネルギーを吸い取ってしまうのである。

 

しかし、ドレインタッチはリューの纏っている次元障壁の鎧に阻まれ成功しなかった。(これによってどうやらレイスにも次元障壁は有効である事が判明した。)

 

なぜ成功しないのかレイスは不思議そうにしつこくリューの身体に触り続けたが…


『あぶない!』

 

その時声がして火球が飛んできた。

 

火球が当たりレイスはリューから離れたが、火球によるダメージは大きくはないようであった。

 

冒険者 「レイスに纏わりつかれているぞ、大丈夫か? 見えているか?」

 

リュー 「ああ、見えている、最初は見えなかったがな」

 

冒険者 「ダンジョンの外では見えにくいが、慣れてくれば気配を感じられる。レイスにはドレインタッチがあるから触れられるとHPを削られるから注意したほうがいいぞ」

 

リュー 「炎系の魔法なら効くようだな?」

 

冒険者 「いや、多少は効くが、光魔法に比べれば効果は薄い。俺も光魔法は使えねぇからな、逃げるぞ!」

 

リュー 「いや、どうぞ俺に構わず行ってくれ。俺はレイスにもう少し用があるんだ」

 

冒険者 「なんでぇ、せっかく助けてやったってのに、余計なお世話だったか!」

 

リュー 「すまんな」

 

 

― ― ― ― ― ― ―


次回予告

 

ロンダリアの街で一泊したら騎士に囲まれた

 

乞うご期待!

 

 

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