第170話 アナとレオノア絶体絶命、その時現れたのは

攻撃魔法が得意なレオノアは、広範囲を一気に殲滅できる強力な魔法を持っている。大量の魔力を消費するので連続して撃つ事はできないが、一発で周囲のオークを殲滅する力はある。その隙に逃げる作戦つもりであった。

 

だが状況は、オークの群れの中に飛び込んで接近戦を繰り広げている真っ最中である。その中で魔法を使うために呪文を唱えるのはリスクが大きすぎた。

 

身体能力の強化に魔力を割いているアナとレオノアであるが、強力な魔法を使うにはその強化を解除する必要があるのだ。支援魔法は一定の時間は効果が持続するように術式が組まれているが、単純に魔力を使って自身の身体を強化している状態では、魔力が切れれば強化も切れてしまうのである。

 

普通、パーティであれば、魔法使いが魔法の準備をしている間、前衛が時間を稼いでくれるが、今はその前衛を自分たちが兼ねている状態なのである……

 

魔法を使おうとして強化を解除したレオノア。

 

瞬間、身体が一気に重くなる。

 

これまで余裕で躱せていたオークの攻撃が、急に鋭く恐ろしいものに変わる。

 

案の定、レオノアは呪文を詠唱しようとする間にオークの振るう棍棒をその身にまともに受けてしまい、地面に転がる事になってしまった……

 

そして、血を吐き呻いて動けなくなったレオノアに駆け寄ったアナもまた、治癒魔法を使おうと慌てて身体強化を解除してしまう。

 

冒険者が捨てていった剣を拾ったのだろうか、鉄の剣を持ったオークがアナに襲いかかる。

 

その攻撃をかろうじて剣で受け止めたアナであったが、次の瞬間、オークの拳に吹き飛ばされ、アナも地面を転がっていく事になった。

 

絶体絶命……

 

殺されるのならばまだいい。オークは人間のメスを殺さない。人間のメスを使って繁殖するのだ。つまり、オークに捕まったら死ぬよりもっと辛い目にあわされる事になる……

 

 

 

 

だがその時、数人の戦士達が現れレオアナの周囲に居たオーク達を斬り倒した。

 

バッジとサップの所属するパーティ「森の風」のメンバーである。たまたま近くを通ったバッジとサップはオークに襲われているアナとレオノアを発見したのだ。

 

バッジ 「おい、大丈夫か?!」

 

サップ 「さぁ、これを飲みな!」

 

サップに渡されたポーションを飲み、回復したアナとレオノア。

 

アナ 「あ、ありがとうございます」

 

バッジ 「だから言ったろうが、油断すると命に関わるって」

 

サップ 「まぁ、仕方ねぇさ。死ななかったのは強運の持ち主だってこった、運も実力のうちさ」

 

レオノア 「…さっぷ……」

 

クッキー(森の風のメンバー) 「おい、どんだけ居るんだよ、これじゃぁ切りがねぇぞ」

 

ワグ(森の風のメンバー) 「このままじゃ俺たちもいずれやられちまうぞ!」

 

バッジ 「おい、お前、魔法使いだろ、範囲攻撃魔法は使えるか?」

 

レオノア 「使えるけど、もう魔力が……」

 

サップ 「これを使え!」

 

サップが魔力を回復させるマジックポーションを投げ渡してきた。

 

それを一気飲みするレオノア。すぐに魔力が回復してくる。

 

呪文詠唱を始める。

 

森の風のメンバーがオークを食い止めている。

 

そして、放たれるレオノアの範囲殲滅魔法……

 

…広範囲に爆炎が広がり、周囲に居たオークが全て炭になった。

 

サップ 「これは……すげぇ」

 

だが、森の奥からさらにオークが次々と現れてくる。

 

バッジ 「おい、逃げるぞ!」

 

森の風のメンバーとアナとレオノアはかろうじてオークの群れから離脱する事に成功したのだった。

 

     ・

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     ・

 

バッジ達は緊急クエストを受け現場に向かっていた冒険者達と合流した。人手は多いほうがいいので、森の風のメンバーとレオアナも加わりオーク軍団の討伐に向かう事に。

 

再びオーク軍と遭遇した冒険者達と戦闘が始まる。

 

バイマークの優秀な冒険者達はあれよあれよとオークを討伐していくが……いくら倒しても切りがない。

 

冒険者のリーダー 「おかしい……一体何体いるんだ?」

 

冒険者A 「情報では5百匹くらいだって事だったが、もうそれくらいは倒したぞ?」

 

バッジ 「この感じ、千や二千は居るかもしれないな……」

 

リーダー 「一旦撤退するぞ。街に戻って補給を受けて再戦だ。場合によってはまた籠城戦になるかも知れんな」

 

撤退し始めた冒険者達。

 

だが、途中でギルドマスターのネリナと遭遇した。様子を見に来たのだろうか?

 

リーダー 「早く逃げて下さい! 一旦街まで撤退しま……」

 

だが、冒険者達はネリナの横に立っている一人の男に気付いた。

 

リーダー 「……銀仮面?!」

 

冒険者 「銀仮面って、コカトリスの群れを倒して街を救ったって噂の?!」

 

冒険者 「なんでもあの仮面は古代遺跡から出てきたアーティファクトで、着けると超人的な能力を発揮できるという噂だぞ」

 

……また妙な噂が広まっているようである……

 

銀仮面 「…後は任せろ」

 

冒険者達とすれ違うと、オークの群れに向かって一人疾走していく銀仮面。

 

リーダー 「お、おい! 数が多すぎる! いくらなんでも一人じゃ……」

 

ネリナ 「大丈夫よ、彼に任せて、貴方達は全員街に戻っていて」

 

リーダー 「ギルドマスターはどうするんです?」 

 

ネリナ 「私は銀仮面の戦いを見届けてから帰るわ」

 

 

   *  *  *  *

 

 

通信用魔道具で状況を聞いたネリナは、リュージーンを捕まえて、銀仮面にオーク殲滅を依頼したいと言い出した。

 

銀仮面は冒険者登録をしていないが、報酬はリュージーンから渡してもらうと言う事で、ネリナは話を合わせてくれた。「銀仮面」は領主までグルのようだったので、三文芝居にネリナも仕方なく乗る事にしたのだった。

 

この街の冒険者が対処できないような事態だとは思っていなかったリューは驚いたが、ならば仕方がないと依頼を快諾したのである。

 

 

   *  *  *  *

 

 

オークの群れに一人向かったリューは、魔剣フラガラッハを取り出すと、敵を片端から切り飛ばし始める。

 

別に剣でいちいち斬らなくても、リューならば空間魔法を使って纏めて敵を殲滅する方法はいくつもあるのだが、今回はわざわざ全部斬り殺す事にしたのだった。

 

リュー 「オーク千人斬り。いや、万人斬りか? 何にせよ、ちょうど良い鍛錬だ」

 

奇しくも、オーク軍団に遭遇した時のレオノアのセリフと同じであるが、リューは敵の数も分かった上で、できると見込んでの挑戦である。

 

仮に1万匹のオークが居たとしても、1万回剣をふれば終わる。1万回素振りなど、リューも自主練でたまにやる、それも重い素振り用の模擬剣でである。そう考えれば大した事はない。より実践的な素振りのようなものだ。

 

それに魔剣フラガラッハは自己修復能力を持っているので、どれだけ斬っても安物の剣のように切れ味が鈍る事もない。

 

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     ・

     ・

 

そして二時間後、オーク軍団は壊滅していた。

 

オーク軍団の殿には、オークキングとオークメイジ、さらにその後ろにオークジェネラルが控えていた。なるほど、かなり頭が良く統率力に優れた指揮官ジェネラルが居た事で、スタンピードの時に街に向かわず、兵士を増やして軍団を作ってから侵攻してきたという事かと納得するリューであった。

 

遠方からメイジが魔法攻撃を放とうとしていたが、リューは瞬時に距離を詰めキングとメイジを両断、続けてジェネラルも斬り捨て任務を終了した。

 

 

 

 

銀仮面の後ろから姿を隠す魔法を使っていて行ったネリナ。尾行した理由は特にはない、単純に好奇心からであったのだが。リューもとい銀仮面の力を知りたかったのである。(そもそも、銀仮面に依頼しなくとも、オーク軍団程度ならば籠城作戦で十分対応できたはずである。)だが今回、リューは力技でオーク軍団を仕留めてしまったため、ネリナはリューの秘めた能力を見る事はできなかった。

 

とは言え、二千超のオーク(※)を一人で倒した銀仮面の力は十分驚異的なのではあるのだが。

 

※事後、冒険者達にオークの死体の処理に向かわせ、オーク軍団の総数が三千に近い数であった事が判明した。銀仮面が出動した時点で、まだ二千匹以上のオークが後に続いていたようである。スタンピード後に繁殖して増えたにしては多すぎるが、ダンジョンから出てきた時点で既に大軍であったのだろう。

 

銀仮面が依頼を達成したので、また結構な額の報酬をリュージーンは受け取った。(もちろん、一応、銀仮面にリュージーンが渡すというていになっている。)

 

ギルドにとっても安くはない報酬額であったが、銀仮面は倒したオークの素材を欲しなかったので、オークの魔石や素材・肉は冒険者ギルドがそれを売る事でそれなりに回収する事ができた。

 

ただ、肉が大量に出回った事で肉の価格が一時暴落し、肉料理ばかりがバイマークの街で食べられる事になるという現象が起きていたが。(オークの肉は豚肉のように美味いので人々に好まれているのである。)

 

おかげで? バイマークでは肉の調理法が工夫され、肉料理のレパートリーが増えるという副次的な効果があったのであった。

 

 

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次回予告


リュー、フラれる


乞うご期待!



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