第398話 あの日、何があったのか?
ミィとハンスは故郷の村で兄妹のように育ったため、最初はミィを妹のようにしか思っていなかったハンスだった。だが、やがてミィは年頃になり美しく成長する。ハンスもミィの事を女性として意識するようになっていった。
ミィとは幼い頃に結婚の約束をした事がある。ままごとのような約束であり、ミィがそれを覚えているかどうかは分からないが、ハンスはその約束を本当に果たしたいと思うようになったのであった。
ミィのほうも幼い頃から気持ちは変わってはいなかった。恋だの愛だのをちゃんと理解しているとは言えなかったが、大人になったらハンスと結婚するのだろうと信じていたのだ。
そんなわけで、いつも一緒にいる仲睦まじい二人は、やがて美男美女カップルとして有名になっていた。
ただ、極めてハンサムだったハンスはミィの知らないところで非常にモテていた。
ミィ達のパーティ “太陽の果実” のメンバーは五人。ハンス一人を除いて全員女性のハーレムパーティであった。そして、ミィは気付いていなかったが、ハンスはメンバー全員から言い寄られ、文字通りハーレム状態だったのだ。
確かにミィとハンスの仲は良かったが、ミィは精神的には未だ子供っぽいところがあり、以前から兄妹のようなものだとハンスが公言していた事もあいまって、ハンスが他の女性を選ぶ可能性はまだあると周囲の女性には思われていたのだ。
パーティのメンバーの中に、街の代官の娘でもあるデボラがいた。デボラはハンサム・ハンスに一目惚れし、半ば押しかけるようにパーティに加入。そして、デボラはミィと別れて自分と結婚するようかなり強引にハンスに迫ったのだった。
気の弱いところのあったハンスであった。しかし、本気でミィに惚れており、デボラや他の女達からいくら迫られても、誰も、あと一歩のところでなかなか落とす事ができないでいた。
やがて成人を迎え、誰もが認める美しい女性に成長したミィ。ハンスのミィを見る目も、もはや妹を見るそれではなくなりつつあった。このままではハンスはミィと結婚してしまうだろう。焦る周囲の女性達。中でもデボラは、ミィを排除してしまう事を考え始めたのだった。
そして、その計画は実行に移された。
デボラ 「ミィ! 大変よ! ハンスが! ダンジョンに行って戻ってこないの!」
ミィ 「どういう事? ハンスがダンジョンに? どうして? 一人で行ったの?」
ハンス以外のパーティのメンバーは全員この場に居る。つまり、ハンスは一人でダンジョンに行ったのだろうか?
このマチの近くにあるダンジョン「ソリン裂溝」は、階層が進むごとに難度の上がり方が激しい。三階層以上深くに進むのはレベルのかなり高い冒険者でないと厳しい。一階層目は初心者でもなんとかなるレベルではあるが、それでも一人で入るのは推奨されない。
デボラ 「臨時のパーティを組んで行ったらしいわ、彼らよ」
そこに居たのは、パーティ “狩風” の面々であった。
狩風のリーダー、マイオが済まなそうに言った。
マイオ 「二階層目までは順調に突破できたんだ。だが、三階層目はなかなか厳しくてな。ボス部屋までもう少しだと思ったんだが、もうボロボロになってしまったので、撤退する事にしたんだよ。だが、ハンスが……」
オックス 「ハンスの野郎、三階層目のボス部屋までどうしても行くって言って聞かなかったんだよ。一人でも行くと言い出して、本当に行っちまったんだ…馬鹿かあいつは」
ミィ 「それで、貴方達だけ帰ってきたの?! ハンスを見捨てて?」
マイオ 「仕方ねぇだろう、無理をすればパーティは全滅する。リーダーの判断に従えないような奴のためにメンバーの命を賭ける事はできねぇ! それとも、ハンスのワガママのために俺達全員に死ねってのか?!」
急に不機嫌になったマイオはそう言い捨てると行ってしまった。
ミィ 「そんな……なんでハンスはそんな無茶な事を? そんな事する人じゃないのに……
…でも、やっぱりおかしくない? ハンスが私達に声を掛けずに狩風のメンバーとダンジョンに行くなんて……。一体何故な?」
デボラ 「それはね……ミィ。ハンスはダンジョン三階層のボス部屋で採れるという
ミィ 「宝石? ハンスが宝石なんて欲しがるわけ……」
デボラ 「あなたのためよ。ハンスは、その宝石を指輪にして、あなたにプロポーズするんだって言ってた……」
ミィ 「!」
もちろん全部嘘である、ハンスはダンジョンになど入っていない。狩風のメンバーもデボラに頼まれて嘘をついただけだ。
冷静に考えればおかしいと気づいたはずだった。だが、動揺してしまったミィはコロっと騙されてしまった。それに、ハンスなら確かにそういう事をしそうにも思えたのである。普段はそれほどでもないのだが、ミィの事となるとハンスは時々ポンコツになってしまう時があるのだ。
ミィ 「ハンスの馬鹿! でもまだ死んだと決まったわけじゃないわ! 助けに行かなきゃ!」
即座に立ち上がり、走り出そうとしたミィ。
だが前に立ち塞がる者が居た。太陽の果実の仲間である。
ターラ 「一人で行くなんて無茶だよ」
ミィ 「でも! ハンスが! どいて!」
ターラ 「…仲間だろ? アタイ達も行くよ!」
デボラ 「……仕方ないわね」
ミィとデボラ、ターラ、ミリンの四人はすぐに準備を整えてダンジョンへと侵入した。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
罠に嵌ったミィ・
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます