第389話 壷は用意してませんでした

リュー 「お前、バカだろ?」


ゼヒロ 「うるせぇな、鬼人化すると興奮状態になって、あまり難しいことは考えられなくなんだよ」


拳と足の骨を砕かれたゼヒロは、意外にもアッサリ負けを認めた。もう身体は元の人間サイズに戻っている。


ゼヒロ 「お前も人間じゃないような事をさっき言ってたな? お前も亜人か?」


リュー 「ああ、俺は竜人らしい」


ゼヒロ 「竜人だと? 鬼人よりレアな種族じゃねぇか……しかも、俺と同じくレベル上昇を使っていたな? 途中で強さがアップしてたろ」


リュー 「分かるか。俺もレベルを可変できるんだ」


ゼヒロ 「だが、反動が大きいだろう? 俺はもう、さっきの動きだけで限界、全身バラバラになりそうだ」


リュー 「俺はなんともないけどな」


ゼヒロ 「なんとも? レベルアップを使いまくっても? そうか……竜人ってのはすげぇんだな。さすが、ドラゴンを統べると言われる種族だ。上限はどれくらいまで行けるんだ?」


リュー 「さぁ……無限?」


ゼヒロ 「なんだそりゃぁ……だが冗談ではなさそうだな、俺の本気を軽く受け止められちまったからな。どうやったらそんな強さが手に入るんだよ?」


リュー 「ん~……神様にお願いしたから?」


ゼヒロ 「……そうか、なるほどな」


リュー 「笑わないのか?」


ゼヒロ 「いや、俺も…作られた生物だからな。俺は人間に作られたんだ。神様に作られた種族に勝てるわけはねぇな」


リュー 「作られた?」


ゼヒロ 「ああ、俺が生まれた国ではな、亜人や魔物をかけ合わせたり合成したりして、無理やり戦闘マシーンを作り出そうとした連中が居たんだよ。そいつらは俺が全部滅ぼして逃げてきたんだけどな」


リュー 「そうか……お前も色々大変だったんだな……」


ゼヒロ 「それと……お前、本当は俺に付き合って力比べなぞしなくても、その気になれば俺を簡単に殺せたんじゃないのか? さっき、俺の蹴りを避けた時、瞬間移動したよな? あれは、超高速移動とか、そんなちゃちなもんじゃなかった」


リュー 「俺は、転移が使えるからな」


ゼヒロ 「転移?……とは違うような気がしたんだがな? あの、最初に戦闘奴隷達の首を刎ねた技。アレも。どうやったんだ?」


リュー 「秘密だ」


ゼヒロ 「手の内は簡単に明かせないのは当然か。まぁ正直、見当がつかん。分からん以上防ぎようがない」


リューは、転移に関してはあまり隠していないが、神眼による予知と読心、そして時間を止められる事は秘密にしている。高度な【鑑定】が使える事と、【加速】や時間を巻き戻して治療する事は見せてしまっているので、そこから察する事ができる者(例えばヴェラなど)は、薄々気づいているかも知れないが。


ゼヒロ 「…まぁいい。しかし、身体が痛くて、もう俺は動きたくねぇ。片手片足砕けちまってるしな。俺は置いてっていいから、お前だけ戻れ。仲間が心配しているぞ?」


気がつけば、戦闘を始めた場所からはかなり離れてしまっている。


リュー 「問題ない。お前も連れて帰ってやろう」


リューがそう言った時には、既に周囲の景色は代わり、ヒショー達の姿が見えていた。


ゼヒロ 「おおお?」


リュー 「言ったろ? 転移が使えるって」


ゼヒロ 「こりゃぁ、すげぇな。勝てねぇわけだ」


ヒショ― 「お? ゼヒロ? どういう事や? 勝負はどないなったんや?」


ゼヒロ 「負けた負けた、俺の負けだよ。見ろコレ…」


砕けてパンパンに腫れ上がった拳と足を見せるゼヒロ。


リュー 「治してやろうか?」


ゼヒロ 「おいおい、治癒魔法も使えるのか? 万能だな。だがいい。仕事させて怪我した奴隷を治療するのは持ち主の義務だ」


リュー 「じゃぁ、持ち主に治療代を請求すればよかろう?」


ゼヒロ 「……そうだな。払ってくれるだろう? ヒショーはん・・?」


ヒショ― 「しゃあないなぁ、あとでマスターに経費として請求しとけばええか…」


リューが治癒魔法を使い、一瞬でゼヒロを治療する。


ゼヒロ 「すげぇな……」


ヒショ― 「なんでっか今の? エクスヒール?」


リュー 「ただのヒールだがな」


ヒショ― 「そなアホな。あれだけの重症が一瞬でキレイさっぱり治るヒールなんてあるかいな」


リュー 「まぁなんでもいいさ。治療代はちゃんと払えよ。ぼったくる気はないから相場でいいぞ。相場がいくらくらいか知らんのだがな」


ヒショ― 「払います、払いますけど……でも、あんさんが奴隷になったら、払わんでもええんちゃいますか?」


ゼヒロ 「勝負はついた、俺達の負けだぞ?」


ヒショ― 「何言うてます、もうひとり、残ってますやろ」


リュー 「そう言えば、もう一人残ってたな」


コリン 「ぼっ、僕は戦闘能力はありませんから!」


リューと目があった瞬間、慌ててコリンが言った。恐らく、他の戦闘奴隷達のようにいきなり首を切り落とされるのを警戒したのだろう。


リュー 「だが、Sランクだとか言ってなかったか?」


ヒショ― 「ソイツはテイマーなんや。そやから戦うのはソイツやなくてテイムした魔物やで」


リュー 「だが、テイマー本人が倒されてしまったら意味ないんじゃないか?」


コリン 「どきっ」


ヒショ― 「それは反則やで! 攻撃していいのは使役する魔物だけや。テイマーに手を出した時点でお前の負けやからな!」


リュー 「勝手なルールばかり押し付けるなぁ、付き合ってられなくなってきた……いや待てよ、じゃぁ、俺も、俺の従魔を出すが、それでもいいな?」


ヒショ― 「なんや? そうか従魔同士の戦いやな、それなら平等やな」


ヒショ― (コリンの従魔はアレやさかいな、どんな従魔が出てきても負けるわけあらへんからな)


リュー 「よし、ランスロット! 君に決めた!」


ランスロット 「呼ばれて飛び出てぢゃぢゃぢゃぢゃ~ん」


登場時のリューとランスロットの掛け声にヴェラが呆れた顔をしていた。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


死に別れた夫婦の再会?


乞うご期待!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る