第425話 酷い世界だ

G 「教会に依頼して、嘘看破ライクラックのスキルを持った者を派遣してもらえば、裁判で証言が嘘かどうかは確認が取れる。馬鹿高い金が掛かるけどな。だが、ライクラックは、言ってることが嘘か本当かの識別ができるだけで、どういう意図で言ったかまでは判別できない。殺せと命じたか? と訊かれて、言ってないと答えれば、このケースでは本当という判定になるだろうな」


心が読めるリューならば、デボラがどういうつもりでいたかは分かるが、それをGやその他第三者に証明する事はできないのである。


リュー 「隷属の首輪を着けてどういうつもりだったか尋ねれば、本当の事を喋るだろ?」


G 「それも難しいだろうなぁ。相手は貴族だ。一時的にでも、隷属の首輪を着けるなどという屈辱的な事、拒否されて終わりだよ。国家転覆に関わるような重罪でも無い限り強制はできない。ましてや、裁判を司るのは領主と代官だ。裁判官も、自分の雇い主の娘に隷属の首輪を着けての尋問など認めない可能性が高い」


リュー 「…やれやれ。ライクラックのスキルやら、隷属の魔法を使った尋問方法やらまであるというのに。それですら、結局。やっぱり、人間がやる事。正義が正しく執行されるなんて、期待できないって事なんだなぁ…がっかりだよ」


G 「まぁ、貴族が偉い世界だからな。貴族の理不尽を跳ね返すのは容易ではないな」


リュー 「やっぱり、正義など期待せず、法など気にせず、自分で制裁したほうがよさそうだな」


G 「おい、何をする気だ? Sランクとは言え、犯罪行為をすれば逮捕され罰せられる事になるぞ?」


リュー 「証拠が残らなければ問題ないんだろう? ダンジョン殺人は、そのほとんどが、証拠なしのまま未解決で終わる…そうだよな?」


G 「……


……聞かなかった事にしておこう。


できたら、余計な面倒事は起こさんでくれるとありがたいんだがな」


リュー 「別にアンタに迷惑はかけんよ」


G 「まぁ、マイオ達も、もう十分罰は受けたろう。なにせその腕では、冒険者は廃業だな」


片腕を失ったマイオは冒険者を続ける事は難しいだろう。オックスに至っては両腕を斬り落とされている、仕事どころか、日常生活にも苦労する事になるだろう。


この世界は手足欠損でさえも魔法で治すことが可能な世界だが、非常に高い治療費が掛かる。余程の金持ちでない限り治療を受ける事はできない。マイオがデボラに泣きついたところで、デボラがそんな金を出すとも思えない。


リューならばその腕を元通りに治してやる事も可能ではあるのだが、もちろんそんな事してやるつもりはない。


リュー 「腕を失くして、これからは苦労すればいいさ」


G 「…お前が斬り落としたんだろうに…」


リュー 「正当防衛だ。並の冒険者だったら即死級の、殺意の籠もった攻撃だった。反撃されても文句は言えまい? それに、生かしておいてやったのに文句を言われるのもおかしかろう? それとも殺したほうが良かったと言うのか?」


G 「う、まぁ、それは、そうだけどな……」


Gも殺したほうが良かったとも言えない。


リュー 「だいたい、一切躊躇もなかった様子だった。おそらく、過去に何度も同じようなことをやった経験があるんじゃないのか? コイツラがダンジョンに潜っている時と同時期に、ダンジョンから戻らなかった冒険者は居なかったか?」


G 「まさか……?!」


顔面蒼白のマイオ。リューはカマをかけただけだったのだが、どうやら本当にあるらしい。なんなら神眼で心の奥の記憶をほじくり返せば色々出てくるかも知れない。だが…それを知っても、その行為を立証する証拠を出すのは難しく、面倒な事になるだけだと思い、リューは無駄な時間と労力を使うのをやめた。


リュー 「生かしておいてやったのは、簡単に楽にしてやるつもりがなかったからだ。まぁ、せいぜい、後悔しながら生きていくがいい」


吐き捨てるように言うリュー。


そう言われても、マイオ達は唸るしかなかった。


そして、リューの冷たい言い方にGはドン引きしていた。


ちなみに唯一、ベニーだけは無傷であったが、ベニーは直接リューに何か手出していなかったので難を逃れただけである。もともとベニーはマイオとオックスの腰巾着で、二人にくっついてまわっていただけの小心者なのが心を読んで分かっていたので見逃されたのだ。


ベニーにとってはラッキーであったと言えるが…マイオとオックスが冒険者を廃業するとなると、ベニーも身の振り方を考えなければならないだろう。あるいはまた、誰か他の冒険者の舎弟的立場に収まるのかも知れないが。


オックス 「おい、頼む。多少金がかかってもいい、腕を治せる治癒師を紹介してくれよ!」


G 「多少、では済まない金額になるぞ。払えないだろ?」


オックス 「金は今まで稼いで貯めてきた分が少しはある。足りない分は働いて払う。いくらかかるんだ?」


G 「治癒士にもよるが、安くても、金貨数万枚ってところだろうな。優秀な冒険者の稼ぎでも返済に三百年くらいかかる額だ。分割で治療してくれる治癒士はいないだろうなぁ」


オックス 「そ、そんなぁ……」


本当は、切断された腕を持ってきて接合するだけならもっと安く済むのだが、転移でダンジョンから移動する時に、切断した腕はダンジョンの中に置いてきてしまった。(もちろん、リューはわざと置いてきたのだが。)気が動転していたマイオ達も気づかず。後になって思い出したがもう遅い。ダンジョンに吸収されてしまっているだろう。


こんな状態ではもう生きていけねぇ、惨めな思いをするならいっそ殺してくれと喚くオックス。


ちなみに、この世界には身体障害者の生活保護のような制度はあまり充実していない。養ってくれる人間が居なければ、悲惨な生活になるのは間違いないだろう。


G 「お前には確か弟が居るって言ってたよな? その弟の世話になるしかないだろうな」


オックス 「弟とは仲が良くない…、というか絶縁してる。…俺に、その弟の世話になれってのか…?」


G 「頭を下げて頼むしかないだろうな。悪いが、自業自得だ、ギルドでもどうしてやる事もできん……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


デボラに泣きつくマイオとオックス


乞うご期待!



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