第424話 証言してもらうぞ

寿限無オックス 「う、ぎゃぁぁぁぁぁ」


膝を付き、痛みで悲鳴をあげるオックス。光剣で斬られた傷口は瞬時に焼灼されてしまうため流血はしない。だが、傷口を焼かれるため、激しい痛みを生じるのだ。


リュー 「納得したか?」


オックスの眼前に光剣を突きつけるリュー。ブンと光剣の発する音がオックスの耳に響く。


マイオ 「わ…分かった、十分わかった! どうか許してくれ!」


リュー 「許す? お前たちは、俺を殺そうとしたんだぞ? 誰かを殺そうとする者は、当然、自分も殺される覚悟をしているよな?」


マイオ 「違う、殺そうなんて、ちょっと懲らしめるだけのつもりだったんだ。殺す気はなかったんだ」


リュー 「はい、嘘」


次の瞬間、リューの光剣がマイオの右腕を斬り落としていた。雑に振ったので掠ってしまったようだ、脇の下も少し抉れている。


リュー 「正直に話せよ?」


マイオ 「ングゥ!! …わ…分かった! 分かりました…!」


ベニー 「はひっ、はひっ、二度と嘘はつきません、許して~~~」


ランスロットに光剣をつきつけられたベニーも叫んだ。少しでも暴れたり嘘をついたりしたらベニーの手足も斬り落としてやろうと待ち構えていたランスロットであるが、ベニーは両手をあげて完全降参の姿勢で動かない。


そのまま、リューは三人から根掘り葉掘り、ミィを嵌めたあの日の事を聞き出したのであった。


    ・

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リュー 「では、これから街に戻って、今の話をもう一度そっくりギルドの職員の前で証言してもらおうか。全て正直に言うんだぞ? もし嘘をついたら、今度は手足を全部切り落とした上でゴブリンの巣の中に放り込んでやるからな」




  * * * * *




ダンジョンの出口の地面に魔法陣が浮かび、リュー達が転移してきた。


マイオ達も一緒である。


マイオ 「これは……転移? …俺達を追い越したのはコレか…」


ベニー 「すげぇ……」


オックス 「…クソ、こんな化け物だと知ってれば……」


受付のギルド職員は腕を斬り落とされたオックスとマイオを見て少し驚いた顔をしたが、すぐに無表情に戻った。ダンジョンから戻らない者も多い。腕を失ったとしても、生きて戻れたのならマシな話なのだ。


帰還のチェックをしたリューは、ライムラの冒険者ギルドへと転移して行った。




  * * * * *




ギルマス執務室。


G 「そうか……あの日、お前達がダンジョンでデボラと遭ったのは偶然ではなく、デボラに事前に頼まれて迎えに行った、という事でいいんだな?」


マイオ 「その通りだ。だが…それだけだ。嘘の報告をした事は悪かったが、それ以外は別に、悪い事はしていない」


リュー 「それだけじゃないだろ? ミィ達をダンジョンに行かせるために嘘をついた話もあるだろ。ハンスがダンジョンで危機に陥ったと嘘を言って、ミィをダンジョンに行くように仕向けた…」


マイオ 「いや、それは……デボラに話を合わせるよう指示されてたんだ! デボラの嘘に加担したのは悪かったが、デボラは代官の娘だ、強く頼まれたら断れない。


だが、デボラがミィ達を殺そうとしてるとまでは思わなかったんだよ! デボラの嫌がらせ、イジメの一種なんだろうってな。随分と悪趣味な嘘だとは思ったが…。


その後、頼まれた通りデボラを救出にダンジョンに行った。ミィ達がボス部屋に入った後、心配はしたんだ。だがデボラが大丈夫だって…多少は苦労するだろうがいい気味だってな。どっちにしろ、ボス部屋の扉は閉じてしまって戦闘が終わるまでは開かないし、デボラが帰るというからついていくしかなかった。


ミィ達が死んだって聞いたのはその2日後だ。ショックだった」


G 「デボラは分からんが…、お前たちにはミィ達を殺す意図はなかった、嘘もデボラに頼まれただけで、そこまで酷い事態になるとは思わなかった、そういう事か?」


マイオ 「ああ、そうだ。その後は、ミィ達が死んだ責任は俺達にもあるって言われて、黙ってろって言われたんだ。…なぁ、俺達は、代官の権力を笠に着たデボラに無理やり嘘を言わされただけだ、それくらいでは、そこまで重い罪には問われないはずだろう?!」


G 「う~ん、嘘をついただけなら、それを取り締まる法律はないが。その結果、不幸な事故が起きたとしたら、それなりに責任は問われるだろう。とは言え、それほど重罪とまでは言えないだろうな。あとは、ギルドへの虚偽報告についても罰は覚悟してもらう事になるが」


リュー 「デボラのほうは? こいつらの証言で、ダンジョン殺人の罪に問えるか?」


G 「それもどうだろうな……。仮に、デボラがミィを騙した事が証明されたとしても、実際にデボラがやった事は、嘘をついた事と、ダンジョンでボス部屋に入らず逃げたってだけの話だ。直接手を下したわけじゃない。


マイオ達の証言から計画性はあったと主張できるかも知れんが、マイオが言った通り、ただのイジメだった、殺人の意図はなかったと言われたら、単なる事故扱いになって、大した罪には問えないかも知れないな。


普通、そんな事したら冒険者としてはもうやっていけなくなるところだが、デボラはもう冒険者を引退してるしな」


リュー 「ボスに少ない人数で挑ませたのは、殺す意図があったって言えるだろ?」


G 「だが、確実じゃない。事実、ミィ達はボスモンスターを斃してダンジョンを脱出した。ミィが生き残っている事がそれを証明してしまってる…」


リュー 「死ぬ可能性は認識していたが、明確に殺す意図はなかった、いわゆる “未必の故意” ってやつか…」


G 「難しい言葉を知ってるんだな。それに、基本、冒険者がダンジョンに入るのは自己責任だから、ダンジョン内のトラブルについては裁判でもあまり真剣に取り合ってもらえない傾向が強いんだ。ましてや代官の娘が相手では裁判官は及び腰になるだろうしな…」


リュー 「……ならば、こっちの件はどうだ? 冒険者に殺人を依頼した者が居たとしたら、実行犯の冒険者だけじゃなく、依頼者も殺人犯として裁く事はできるんだろう?」


G 「ミィ達が誰かに襲われたって話は聞いてないが?」


リュー 「襲われたのは俺だ。今日、ダンジョンの中で。狩風の連中コイツラにな」


俯くマイオ達。


G 「魔物に襲われたのかと思ったら、その腕はもしかして…」


リュー 「ああ、返り討ちにしてやった」


G 「お前達…Sランク相手に馬鹿な事をしたもんだな…」


リュー 「お前達、俺をダンジョンの中で殺すよう、デボラに頼まれたんだろう?」


マイオ 「それが、その、デボラに言われた、のは言われた、ん、だが…」


リュー 「なんだ? 正直に話せよ?」


マイオ 「その…はっきり殺せと言われたかと言うと、そうじゃなかった……かも……?」


リュー 「なんだそれは?」


マイオ 「本当だ、もうここまで来たら隠し事なんてしない。ただ、デボラはいつも、自分の責任にならないよう、狡い言い方をするんだよ! はっきり殺せとは、言われてない、言わなかったような気がする…」


リュー 「…臭わせるような事を言って、あとは忖度させるってやつか…狡賢いな」


リューは改めてマイオの心の中の記憶を読み取ってみたが、どうやら嘘は言っていないようだ。デボラはマイオに、ダンジョンの中で死んで姿を消す冒険者なんて珍しくない、というような事を言っただけだったのだ。


G 「ああ、それだと嘘看破ライクラックのスキルで尋問されても、嘘とは判定されないだろうな。殺せとは言ってないのだからな」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


吐き捨てるリュー

唸る狩風

ドン引きするG


乞うご期待!



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