第423話 これがSランクの実力か

リュー 「と言いながら、既に全員殺っちゃってるじゃないか?」


見れば既に、ランスロットの光剣が三人のクビを刎ね飛ばしていた。あまりの早業に、リューが止める間もなかった。


ランスロット 「すいません、つい」


リュー 「一応、事情くらいは確認したいじゃないか?」


ランスロット 「では、アンデッドとして蘇らせましょう」


リュー 「いや…。俺がやる」


すると、三人の時間が首を刎ねられる前に戻った。


マイオ達は、首を刎ねられた瞬間までの記憶はあったが、何が起きたのかまでは理解できていなかった。突然、視界が回転し、最後に見た景色は、どうやら土と草のようであったが、それと認識する前に意識が暗転してしまったのだ。つまり、自分が一度殺された事も理解していなかったのである。


リュー 「それに、そんな簡単に楽にしてやったらダメだろう?」


ランスロット 「ああ、なるほど。自分のした事を理解させて、後悔させて、命乞いをさせながら殺すわけですね」


一瞬の戸惑いの後、目の前に居るリューとランスロットを認識し、それまでの状況を思い出したマイオは、我にかえって叫んだ。


マイオ 「待て! すまない! 魔物と間違ったんだ! 当たらないで良かった!」


リュー 「惚けなくていいぞ。明らかに俺を狙ってたろ?」


マイオ 「違う、本当に見間違えたんだ。狙ってたなんて……」


リュー 「狩風とかいう冒険者だな? マイオと、オックス、それにベニーか」


オックス 「お、おう、さすがに俺達の事は知っているか、今やライムラでナンバーワンのパーティだしな」


リューは神眼によって心を読んで正体を確認していただけなのだが。


リュー 「で、デボラに頼まれて俺達を殺りに来た、と」


マイオ 「…っ、何を、違う! ミィが何か言ったようだが、誤解なんだよ」


リュー 「誤解? 何がだ? どの部分が誤解なのか言ってみろ?」


マイオ 「それは……ええと、そうだ、あの日、俺達はミィがダンジョンに潜ってたなんて知らなかったんだ。本当に、たまたま偶然、同じ時にダンジョンに入っていただけなんだよ。そして、ダンジョン内に一人で居たデボラと遭ったんだ」


リュー 「酷い嘘つきだな、お前達は」


もちろん、マイオ達の心に浮かぶ答えはすべてリューに読み取られている。


マイオ 「嘘じゃない!」


リュー 「いやいや嘘だなぁ」


本人が忘れているような深い部分に眠っている記憶は、心の表面を読んだくらいでは簡単には読み取れないが、自分が今想起しながら話している事、そしてそれに関連する記憶は鮮明に読み取る事ができる。


オックス 「何を根拠に嘘だと決めつけてやがるんだよ?!」


リュー 「俺には、嘘を見破るスキルがあるんだよ」


マイオ 「まさか…嘘看破ライクラックのスキルを持っているのか?!」


リュー 「まぁ似たようなものだ」


マイオ 「あれは、神官の職能クラスを持つ者しか持てないスキルのはずだが…お前は神官なのか?」


リュー 「神官ではないがな、嘘を言ってるかどうか分かるスキルがあるんだ。さっきからお前、嘘ばかりじゃないか」


オックス 「…神官でもねぇのにそんなスキルがあるなんて聞いたことねぇ。ハッタリじゃないのか?」


リュー 「試してみればどうだ?」


オックス 「どうやって?」


リュー 「そうだな、お前しか知らないはずの事を言ってみればいい。嘘をついてもいいし、本当の事を言ってもいい。俺は、お前が言ってる事が嘘か本当か判定してやる。答えはお前にしか分からないが、お前だけには、嘘が見破られたかどうかは分かるってわけだ」


オックス 「……俺はライムラの街で生まれた。これは嘘か本当か?」


リュー 「嘘だな」


オックス 「俺には妹がいる」


リュー 「嘘だな」


オックス 「俺には弟が居る」


リュー 「それは本当だな」


オックス 「……嘘が見抜けるってのは、本当なのか……」


マイオ 「いや、オックスについての情報を調べてあげてあるんじゃないのか?」


ベニー 「俺もやっていいか? 俺の背中にはホクロが5つある」


リュー 「それは、嘘でも本当でもない。考えたな」


オックス 「やっぱり分からねぇんじゃねか!」


リュー 「違うな、嘘でも本当でもない場合は、つまり、知らないんだよ。自分で知らない事を質問したんだな?」


ベニー 「ご、ごめん、よく考えたら俺、自分の背中のホクロの数なんか知らなかった」


マイオ 「おいオックス、もっと違う事質問してみろよ、コイツが絶対知らなそうな事をよ」


オックス 「そう言われてもなぁ…」


ベニー 「お、俺が昨日の昼飯に食ったのはオークのシチューだ。これはどうだ?」


リュー 「嘘だな」


オックス 「どうだ?」


ベニー 「ぐっ…当たってる……」


オックス 「マジか……そうだ、じゃぁ、これで試してやろう」


オックスは懐からカードを取り出した。


オックス 「今からこのカードの中から一枚引く。そしてそのカードに書いてある文字を読み上げる。もちろんお前にカードは見せない。俺が言った文字が嘘か本当か、見破れるか?」


リュー 「やってみろ」


オックス 「じゃぁ、これだ。書いてあるのは数字の8だ」


リュー 「嘘だな」


オックス 「くっ、次、これは? 風って文字が書いてある」


リュー 「本当だな」


オックス 「これは? 火のカードだ」


リュー 「嘘だな」


オックス 「うーむ……どうやら、スキルは本物のようだ。だが……」(ニヤリ)


マイオ 「これで終わりだ」


その瞬間、リューをめがけて再び天から雷撃が降ってきた。


オックス達は話を引き伸ばして、マイオの魔力が回復するのを待っていたのだ。


だが、もちろん、リューは雷が降ってくる前に二歩ほど位置を移動して攻撃を躱していた。リューのほうも、時間稼ぎは分かっていて、あえてマイオの魔力が回復するのを待ってやったのだ。雷撃を躱したのが偶然ではないと証明するために。


それを見たマイオは驚愕の表情を浮かべている。


マイオ 「天罰の雷を、躱す事ができる人間が居るなんて……ありえない……」


リュー 「もう一度試してみるか? 魔力が回復するまで待ってやるぞ?」


マイオ 「待ってくれるなら……それほど時間はとらせない」


そう言うとマイオはマジックポーションを取り出して煽った。


すぐにマイオの魔力が回復してくる。それほど多くは必要ない、僅かな威力でもいいから、天罰の雷が発動すればいい。


ある程度回復した魔力でマイオは、先程よりもさらに少ない、発動できるギリギリの弱さで雷を落とす。だが、それも発動する瞬間にリューは移動して躱してしまうのであった。


さらに三発ほど雷を落とし、マイオの魔力は再び底をついた。


マイオ 「信じられん、雷は見てから躱せる速度ではないはずだ。心の中でフェイントをかけてみても通用しなかった。まるで、未来を読んでいるかのようだ…。これがSランクの実力か、俺達ではとても敵いそうにないな。降参だ」


オックス 「……なんだか信じられねぇ、マイオの雷撃を避けるなんて。嘘を見破ったのもそうだが、何かトリックを使って誤魔化してやがるんじゃねぇのか? 見た目からは、とてもこんな奴が強いとはどうしても思えねぇ……試してやる!」


マイオ 「馬鹿! やめろ!」


相手は雷撃を未来を読んでいるかのように躱してみせたのだ。正面から物理攻撃をしたところですべて読まれて相手にならない事が分からないのか?


だが、オックスはマイオが止めるのも聞かず、得意の武器である斧を振りかぶり、リューに向かって振り下ろそうとする。オックスは、戦闘の実力勝負なら話術やトリックとは違って誤魔化しが効かないだろうと思ったのだ。


だが、愚かな挑戦である。


光の剣が美しい残像を残しながら舞い、オックスの両腕は斧を持ったまま地に落ちたのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ギルドで証言してもらおうか


乞うご期待!



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