第426話 ついに事実を受け入れるハンス

最終的に、狩風がリューを襲った件は、単なる冒険者同士の喧嘩として処理された。


ダンジョン内での殺人は本来重罪に問われるはずなのでリューとしては納得が行かないところもあったのだが。


Gが権力者におもねって判断したとも見える。しかし、Gが言ってる事も間違いではない。依頼殺人について立証するのは難しそうであるし、よほど明確な証拠がなければ、この世界では権力者相手に裁判で勝てる見込みは少ない。それどころか喧嘩両成敗で処理されれば、冒険者を続けられないほどの大怪我を負わせたという結果だけを見てリューが処罰される可能性すらある。それを、リューの正当防衛を認めお咎めなしとしてやるから納得しろという事らしい。


ただその後、Gはパーティ狩風に対し、ギルドに虚偽報告をした件で罰金処分を下した。リューに酷い目に遭わされた狩風だが、それとこれとは話が別である。他の冒険者への見せしめもあるため、何も処分しないというわけにも行かない。


しかもさらに追加で、ミィ達に嘘をついた件でも罰金額を加算する事にした。殺人罪には問えないが、嘘が結果的に冒険者が死ぬような事故に結びついた事を重く見た。


冒険者であれば、罰金の他にランク降格などのペナルティも与えるのだが、冒険者を辞める可能性が高いマイオ達にはそれは意味がないので、その分もさらに罰金額に上乗せされる事となった。


これにより、マイオ達は、これまで貯めてきた金を、罰金でほとんど吐き出す事になってしまう。


五体満足であれば、また稼げばよいとなるが……


冒険者を続けられないマイオ達は困り果て、補償してもらおうと、デボラに相談に行った。




  * * * * *




デボラの邸にやってきたマイオ達。


だが……タイミングが悪かった。


代官と、その補佐官であるハンスは、普段は街の中にある領主の屋敷の一角にある執務室で仕事をしている。忙しい代官とハンスは、邸には滅多に居ないのが普通であったのだが、今日はハンスが在宅していたのだ。


急に訪ねてきたマイオ達に焦り、適当な事を言って追い返そうとしたデボラであったが、マイオ達も補償してもらえなければ死活問題だったため、食い下がって帰らない。


そのうち、その騒ぎを聞きつけて、ハンスが出てきてしまったのだ。


ハンス 「どうしたデボラ、お客さんか? ん? お前達は “狩風” じゃないか、何か用か?」


デボラは自分が対応するから来なくていいとハンスを追い出そうとしたのだが、そもそもなんで冒険者が既に引退し人妻となっているデボラに用があるのか説明できない。


ハンス 「代官に用か? 領主の屋敷に誰も居なかったからこちらに来たってわけか……ってどうしたんだ、その腕は?!」


ハンスは、腕を失ったマイオとオックスに気付いて驚きの声をあげた。


デボラ 「なんでもないのよ!」


ハンス 「腕を失くしてなんでもない事ないだろ? ってかなんでデボラが答える?」


マイオ 「…とある冒険者にやられたんだ……」


ハンス 「なんだ? 私闘ケンカでもしたのか? 相手は誰だ? この街の冒険者の中でもトップクラスの実力があるお前達をこんな目に遭わせるなんて…」


マイオ 「街に立ち寄った旅の冒険者だ。Sランクだとは聞いていたが……正直、舐めていた」


ハンス 「Sランク? まさか…リュージーンという冒険者か?」


マイオ 「知ってるのか?」


ハンス 「ああ、ちょっとな。しかし、Sランクに挑むなんて馬鹿な事をしたもんだな、腕試しでもしたかったのか?」


オックス 「俺達は……デボラアネサンの依頼を受けてソイツラを殺そうとしたんだよ!」


デボラ 「な、何言ってるのよ、私はそんな事一言も言ってないでしょ! 大怪我して、気が動転して、わけ分からない事を言ってるのよ」


オックス 「アネサン、惚けねぇでくれよ、腕を失くしちまって、俺はこれからどうやって生きてきゃいいんだよ?」


マイオ 「こんな体になっちまったら商売上がったりだ。デボラのせいでこうなったんだ、補償してもらわなければ、俺達も引き下がれない」


デボラ 「だから私はそんな事言ってないって言ってるでしょ! 金なら後で渡すから、今日は黙って帰りなさい!」


ハンス 「デボラ…? お前、まさか……」


デボラ 「違うの、誤解よ……」


ハンス 「マイオ、詳しく話を聞かせて貰えるか?」


デボラ 「話すコトなんて何モ~」


ハンス 「デボラは黙っててくれないか! マイオ達から話を聞きたいんだ。あっちで子供の相手でもしていてくれ」


だが、そう言われてもデボラは部屋を出ようとしない。仕方ないのでハンスはデボラを無視してマイオ達に話をさせる事にした。


すべてを正直に話してくれたら、今後の生活も含めて悪いようにはしないというハンスの言葉で、開き直って全てを正直に話してしまうマイオ達。


途中、デボラがいちいち違うとか嘘だとか誤解だとか口を挟んでくるが、無視して話を続けさせる。


そして、ハンスは全てを知る事になった。


デボラがミィの件で嘘をついていた事、狩風もデボラが嘘をつかせていた事をである。


やはり、リューに聞いた話は本当だったようだ。


信じたくなかったが…


デボラとの結婚生活は、ハンスにとっては結構幸せな日々だったのだ。子供も生まれ、仕事も代官の補佐として順調であった。そんな生活を壊したくなかった。


また、ミィの亡き後、すぐにデボラと良い仲になった事が後ろめたさを感じさせてもいた。


そのため、事実から目を背け、この話題を避けようとしていたハンスだったが……、どうやら事実を認めざるを得なくなったようだ。


一度事実を認めてしまうと今度は、すべてデボラに責任があるような気がして腹が立ってくる。ハンスは自身の罪悪感もデボラに責任転嫁する事で誤魔化し、それが怒りに上乗せされていくのであった。


マイオ 「だが安心してくれ。デボラも俺達も、嘘をついただけだ。ダンジョンに入る判断をしたのはミィ達の自己責任になるそうだ。だからデボラも殺人の罪には問われる事はないらしい」


見当違いの慰めを言うマイオの横でデボラが青い顔をしていた。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ミィさえいなければ全て上手くいく!


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る