第626話 やっちまったルイ

ルイは、一度はギルドを出たふりをした後、こっそり戻ってきた。実はルイは、隠密系のスキルを持っていて、気配を消して近づくのが得意だったのである。女性達もルイがセクハラすると分かっているのに接近を許し体に触れる事を許してしまうのはそのためであった。ルイはスキルを生かし、ギルドの女性職員や若い女の冒険者の背後から忍び寄り体に触るのである。


その能力を活かせばかなり優秀な冒険者になれるであろうに、金を稼ぐ必要もあまりないため、冒険者としては登録しているだけという状態であった。(そもそも、その能力が磨かれたのは、女性の体に触りたい一心で幼い頃からその能力を使ってきたからなのだが…。)


そして、油断していたリューの目さえかい潜り、エライザの背後に立ったルイは、あろうことか、後ろからエライザの胸を鷲掴みにしたのだ。


ルイ 「誰が女の敵だって~? 僕は全女性の味方だよ~?」


突然の事で、何が起きているのかエライザは理解が遅れ、反応できずにいた。そんなハレンチな真似をされたのは生まれて初めての経験だったのだ。


その間にも胸を揉み続けるルイ。


ルイ 「うむ、ちょうど良いサイズ感。なかなか良い感触だ」


エライザ 「…ちょっ…な! に! すんのよっ!!」


我に返ったエライザが、ルイを振りほどき、強烈な張り手を食らわす。その音でリューも事態に気が付いた。


(※リューは、レイプ絡みのデリケートな話になりそうな気配を察し、男がいてはしにくい話もあるだろうと気をつかってその場を離れてたのだが、それが仇となり対応が遅れてしまったのであった。)


エライザ 「こんの~女の敵!」


ルイは普段、弱いギルド職員の女性であればもう少し粘着するのであるが、相手が冒険者の場合は女性でも強い者が多いので、ヒットアンドアウェーですぐに退散する事にしていた。


ルイ 「油断したな! ざまぁ! そしてアバよ~!」


エライザの張り手でかなりの衝撃を受けながらも、ルイは捨てセリフを吐きながら隠密スキルを発動しながら逃げようとした。


だが…それを許すリューではない。


ギルドの出口へ向かって高速移動していたルイであったが、瞬時にリューに襟首を捕まれ、そのまま床に引き倒されたのであった。


ルイ 「…っ、痛ぇなぁおい! テメェ何しやがる!」


リュー 「オマエ…


エライザノ…


胸ヲ…


触ッタノカ…?」


ルイ 「ああ、触ってやったぜぇ! 感謝してくれてよいくらいだ、揉まれるとデカくなるらしいからな!」


リュー 「ソノ、汚イ手デ、エライザノ胸ニ触ッタノカ?」


ルイ 「だからどうしたってん……


…なんだコレ!? うわっつうっ! アチチチチ!」


叫び始めたルイ。見ると、ルイの両手の指先一つ一つに炎が点っていた。禍々しい黒い炎である。


リューの怒りの炎である。リューは闇の仮面を装着していたので、闇炎の魔法を使ったのである。


リュー 「ソンナ汚い手は、この世から消してしまワナイトナ…」


ルイの指の先に灯ったのは、極小サイズだが高圧縮された黒い炎。それが十個、どんどんルイの指を燃やしてく。絶叫しながら必死で消そうと手を身体や周囲に擦り付けるルイ。だが炎はまったく収まらない。リューが際限なく魔力を込め続けているからである。


やがて指をすべて焼き尽くしても、その炎は収まる事なく合流して手の平へ、そして手首から前腕へと移動してルイの手を炭にしていった。


あまりの激痛に絶叫しながら七転八倒していたルイであったが、そのうち白目を剥いて動かなくなる。そして、炎がやっと消えた時には、ルイの腕の肘から先の肉は完全に灰になり、燃え落ちたルイの手の骨が床に散らばっていた。


リュー 「エライザの胸に汚い手で触れた罰だ。殺されなかっただけありがたいと思えよ。ずいぶん悪さをしてきたみたいだが、手がなければもうそれもできんだろ」


メリンダ 「ちょ、まずいですよ! 領主の息子なんですよ?」


リュー 「領主には、文句があるならリュージーンに言ってこいと伝えておけ。Sランク冒険者のリュージーンにな」


メリンダ 「Sランク?! でもさっき、新人だって…」


リュー 「この街では新顔だと言っただけだ。 俺達は昨日この街に着いたばかりだからな」


しばらくの間、沈黙が冒険者ギルドに流れた。


    ・

    ・

    ・


床に倒れているルイ。取り巻きの冒険者達はさっさと逃げてしまったようだ。


リューは既に、いつもの飄々とした雰囲気に戻っていた。


メリンダ 「……ま、まぁ、正直、ザマァ見ろとしか思えませんが、とはいえ放置もできませんかね…。治癒魔法が使える者を呼びに行かせたほうがいいでしょうか」


リュー 「その必要はない。傷口は焼灼されて血は止まっているから、それ以上何もする事はないだろ。あ、傷口から病原菌が入るとヤバいんだったか? 定期的に消毒はしてやったほうがいいかもな」


受付嬢 「消毒? 毒を使ったのですか?」


リュー 「ああいや、病気の元になるようなモノが後から傷口から入り込まないように、定期的にクリーンを掛けてやれって事だ」


その時、ギルドのドアを開けて入ってきた男が、誰か倒れているのに気づいた。


男 「何の騒ぎだ…? ん? ルイ? どうした? 何があった?!」


受付嬢 「実は…カクカクシカジカで…」


男 「ほう…」


受付嬢から説明を聞いた男はリューのほうを振り返って言った。


男 「おい、これ・・をやったのお前だそうだな?」


リュー 「ああそうだが?」


男 「見かけない顔だな? 流れ者の冒険者か?」


リュー 「ああ、昨日この街に着いたところだ」


男 「名前とランクは?」


リュー 「そういうお前は誰だよ、人に名前を尋ねる時は自分から名乗るもんじゃないのか?」


男 「俺はこのギルドのマスター、ポウだ」


リュー 「ほう、お前がこの痴漢をずっと放置していたギルマスか。よくドヤ顔で名乗れるな?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ポウ 「Sランク? ランク詐称は重罪だぞ?」


乞うご期待!



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