第187話 不死王との戦いを避けたのは正解でした
リューが転移したダンジョンの深部にあった隠し部屋、そこにいたのは噂通り、
全てのアンデッドの王。その容姿は、干からびた即身成仏のようにも見えたが、リッチのような完全な骸骨ではなく、寿命をはるか越えて生きた、朽ちかけの老人という印象であった。
だが、枯れた外見とは裏腹に、不死王は圧倒的な禍々しい魔力・迫力を放っていた。それはリューがちょっとビビるほどであるのだから、とんでもない力を持った存在であるのは間違いないだろう。
気圧されまいと気合を入れ直すリュー。すぐに緊張は解け、威圧感を跳ね除ける事ができた。
不死王 「リュージーン、待っておったぞ」
不死王が振り返り言った。
リュー 「…俺の事を知っているのか?」
不死王 「面白い奴が居るのでな、ずっと観察しておった」
一体いつから観察されていたのだろうか? ダンジョンに入ってから? いや、この街に入ってからか?
リュー 「…俺の何が面白い?」
不死王 「……お主の能力じゃな」
リュー 「空間魔法か」
手の内を教えてしまうのは悪手だが、既に転移は不死王に見せてしまったので、空間魔法を使える事は隠しても意味がないだろう。
不死王 「違う、その事ではない……、お主はコカトリスの石化の魔力を分解したろう?」
リュー (コカトリスの事を知っているという事は、バイマークに居た頃から既に
不死王 「この街に来てからもマガリエルを襲う呪いを分解した。その
リュー 「…呪いは完全には解除できなかったがな」
不死王 「で、それを解くために乗り込んで来たというわけか? マガリエルの娘に頼まれたか? ワシを討伐すれば解決すると」
リュー 「いや。聞けば、約束を違えたのはマガリエルのほうらしいじゃないか? だったらアンタが怒るのも無理からぬ事。俺は別にマガリエル家と親しいわけでもないしな、仲裁に入るには俺は部外者過ぎるだろう」
不死王 「ほう、戦いに来たのではないなら、何をしに来たのじゃ」
リュー 「…特に用はないが……強いて言えば、あんたと話しに?」
不死王 「ふぉふぉふぉ面白い事を言うのぉ。寂しい年寄りの話し相手になってくれるつもりか?
まぁ戦いを避けたのは賢い判断じゃ、お主ではワシには勝てんからの」
リュー 「…転移で出入りすると言ったな、つまり、アンタも時空魔法が使えるという事か?」
訊きたいことは色々あるが、まずは相手の戦力を探る必要がある。万が一戦闘になった場合、相手の手の内を予想しておく必要があるだろう。
不死王 「そうじゃ、時空系は最も得意な魔法じゃ。言っておくが、お主の稚拙な空間魔法と一緒にしてもらっては困るぞ? なんなら、どうなるか試してみるがよい、そうじゃな、ほれ、転移を使ってみるとよい、使えるのならじゃがな」
リューは言われた通り転移を発動しようとした。部屋の中で数メートル移動するだけの近距離転移であるが……しかし、リューの身体は、立っているその場所から移動する事はなかった。
転移が発動しなかったわけではない、いつものように転移した感覚はあった。
不死王 「移動先の座標を元の場所に書き換えた。出発点と行き先が同じなので意味がないというわけじゃな。
お主の魔法の発動を止める事はワシにもできんが、それに干渉する事は可能じゃ。ワシは若い頃の研究で、あらゆる魔法の術式を解析し解き明かしておるでの。組み換えなど容易い、なんなら新しい魔法の術式を一から書き起こす事もできるぞ?」
リューは、自分が極めて危機的な状況に居る事を自覚した。転移が封じられているという事は、ここから脱出する事もできないという事なのだから。
相手の言う通り、戦いを避けたのは正解であったかも知れない。
リューは、自分以外で時空魔法を使う相手とこの世界で初めて遭遇した。しかも、相手はリューより遥かに高度にそれを扱えるようだ。
つまり、リューの時空魔法を応用した攻撃法・防御法は、不死王には一切通用しない可能性が高い。おそらく次元斬や次元断裂も通用しないだろう。もし、次元斬の座標を書き換えて自分に向けられたら大変な事になる。
リューは焦り始めた。今まで、戦闘においてリューが常に冷静でいられたのは、時空魔法の裏打ちがあったからである。特に、次元障壁の信頼感が絶大であった。リューは次元障壁を体に鎧のように常に纏っている。それを破る事ができる相手はこれまで存在しなかったし、いよいよとなったらいつでも転移で逃げ出す事ができるという心の余裕があった。
だが、その時空魔法が一切通用しない、それは、突然鎧も武器も取り上げられて丸裸にされたような感覚なのであった。
だが、まだ他にも相手の手の内・実力について分からない事は多い。空間を制御する魔法は通用しないとして、では、時間を制御する魔法はどうか?
リューは試しに、集中力を高めて時間を止めてみた。自分以外の世界のすべてが停止しする。だが……
不死王 「無駄じゃよ」
予想通り? 不死王もまた停止した時間の中で動ける事が証明されてしまった。そして、リューによって停止された時間が勝手に再び動きだしてしまう。逸脱したはずの時間の流れに強制的に戻されてしまったようだ。
こうなると、リューに残されたのは、素の肉体を使った肉弾戦か。幸いにも、リューには竜人パワーがある。しかも、竜人としての“レベル”をリューは無限に上昇させる事が可能である。
人間相手であれば常に“1”で問題なかったそのレベルをリューは上昇させ始める。魔法とは違うためか、どうやらこの能力は封じられてはいないようだ。レベルアップが可能な事が分かり、リューは少し落ち着いた。
レベルアップの上限は今の所見えていない。最悪、最高レベルまで上げて戦えば、不死王相手であってもそうそう負ける事はないのではなかろうか。
不死王 「落ち着いたか? 別に戦いに来たわけではない、話をしにきたのであろう? 焦ることもあるまい」
だが、その気持の動きも見透かされていたようだ。
不死王 「お前がどれだけ強かろうと、ワシは不死身じゃからの。どうあがいても、戦ったらお主が死ぬ事になるのは確定じゃ。焦ったところで結果は何も変わりはせんのじゃから、諦めてリラックスするがよい」
不死王が宥めるようにそう言った。
もし不死身である事が本当なら、レベルアップした圧倒的パワーで相手を蹂躙できたとしても、勝ち目がない事になる。リューは一度でも殺されれば生き返れないし、体力も無限にあるわけではないのだ。
不死身と言えばヴァンパイアを思い出す。あの時も考えた事だが、悠久の時を生きられる、殺せない相手と“持久戦”をしても、生身の人間であるリューに勝ち目はないだろう。いかにリューが強かろうと、数百年休まず戦い続ける事ができるわけではないのだから……
不死王 「理解したようじゃの? まぁ安心するがよい、ワシも最初から戦う気などないかの。
それに……
老人の話相手になりに来たという言は気に入ったぞ。
わざわざ子供が訪ねて来てくれたのじゃ、何か聞きたい事があるなら訊くが良い。気分が良いから何でも話してやろう」
急に訊きたい事と言われても、準備していないので出てこないが、とりあえずリューは、相手について探ってみる事にした。よしんば相手の弱点を探る事もできるかも知れない。
リュー 「……ここで、あんたは、何をしているのだ?」
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次回予告
不死王との問答
乞うご期待!
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