第186話 不死王を訪ねる

一旦街に戻ったリューは、領主エミリアの元を訪れていた。ダンジョンの宝箱で出た剣を返すためである。

 

エミリア 「もうダンジョンを攻略してしまったのですか……?! さすがですね!」

 

ホイス 「信じられん……この街の冒険者でもまだ誰もダンジョン踏破はできていないのだぞ? Fランク冒険者ごときが……嘘を言ってるのではあるまいな?」

 

ヴェラ 「本当ですよ、私も同行しましたから。私の占いは間違ってはいませんでした、やはりリューは街の救世主となる人だと思います」

 

ホイス 「ふん、本当に最下層に到達したなら、ノーライフキングを倒して来たんだろうな? 何? 倒していない? やはりな、はったりか」

 

リュー 「エミリアの説明では確か、ダンジョンボスはノーライフキングとは関係ないと言ってなかったか?」

 

エミリア 「その通りです。ダンジョンボスを倒したとしても、不死王は出ては来ないと聞いています」

 

ヴェラ 「ダンジョンボスはリッチロードでした」

 

リッチロードと聞いて恐怖の色を浮かべるホイス。通常のリッチだけでも、もしダンジョンから出てきたら街が簡単に滅ぶレベルの強力なモンスターなのだ。


アンデッド系モンスターは人間の心理に働きかけ、強い恐怖心を引き起こす現象も伴っているのだが、上位になるほど与える恐怖心は強くなる。リッチロードともなれば、名前を聞いただけで失禁して気絶してもおかしくないレベルなのである。

 

リュー 「そのダンジョンボスを倒した後、出てきた宝箱に入っていた剣だ。もともとマガリエル家の剣だったと聞いてな、返しに来た」

 

リューは剣を差し出した。

 

エミリア 「いえ、返却の必要はありません。それはリュージーン様がダンジョンを攻略して手に入れた宝なのですから、リュージーン様の物です。そもそも、その剣は家伝の家宝というわけでもありませんので」

 

リュー 「一応、エミリアの父と祖父の形見という事になるんじゃないか?」

 

エミリア 「元々、父がどこかから見つけてきた剣なので、特に思い入れがあるわけでもないのです。なんでも、その剣は実体のない魔物を斬る事ができるとか。持っていればリュージーン様のお力になれるのではないかと」

 

エミリアが固辞するのでリューは剣を貰う事にした。物質でない魔物を斬るというその現象に少し興味があった。後で神眼を使って観察してみようと思うリューであった。

 

リュー 「この剣があっても、不死王に通用するのかどうかは分からないがな。実際エミリアの父さんは失敗したようだしなあ?」

 

ホイス 「先代ハリ様を侮辱するか?」

 

リュー(肩を竦めながら) 「不死王に会いに行ってみようとは思ってる。討伐するかどうかは分からんが……勝てる相手かどうかも分からん、まずは情報収集だ。それに、そもそも、約束を破ったのはマガリエル家のようだしな。悪いのは人間の側なんじゃないのか?」

 

ホイス 「貴様、さっきから無礼であるぞ!」

 

エミリア 「ホイス、良いのです、本当の事ですから…」

 

リュー 「こちらとしては、倒すのではなく謝って許してもらう立場だろうが、話してみる手はあるんじゃないか? どうやら相手は盟約が結べるほど、話が通じる奴なのだろう?」

 

エミリア 「不死王との回線は閉じたままですが、もし話し合いの余地があるなら、領主として、話してみたいとは思います、話して謝罪してみます」

 

リュー 「そうか……」

 

 

   *  *  *  * 

 

 

その日、また空き地に小屋を出して仮眠した後、深夜にリューは再び単独でダンジョンに向かった。ダンジョンは地底なので昼でも夜でも関係ない。それに、一から攻略するのではなく、転移でいきなり最下層のボス部屋である。

 

再び出てくるダンジョンボス、リッチロード。

 

リュー 「悪いがお前はもういいよ」

 

リューはリッチロードの胸部にある魔石を転移で切り取り収納してしまう。

 

アンデッドの素材はあまり価値がないモノが多いが、リッチロードの魔石となるともなれば、それなりに高値で売れる。カネに困ったら売れば良いだろう。

 

前回はボスを倒したあと宝箱が出現したが、今回は出てこなかった。毎回というわけではないようだ。(むしろ前回一回のみなだったのかも知れない。)

 

リューは神眼を使い、ボス部屋の中をサーチする。しかし、普通ならすぐに見つかるはずのダンジョンコアが見つからない。ここは最下層ではないのだろうか?

 

さらに下の階層がないかサーチしてみるが、下の階というのはやはり存在しないようだ。

 

だが……

 

別の次元、亜空間に部屋がいくつもあるのを発見した。その中のひとつから、禍々しい何者かの存在も感じられる。おそらくそれが不死王であろう。

 

正直、不死王がどれほどの能力を持っているのか、自分の力で通用するのか分からないリューであったが「まいいか、なんとかなるだろ。いざとなったら転移で逃げ出せばいい」と軽い気持ちで不死王の居る部屋に転移したのだった。これまで時空魔法を破られた事がなかったリューには油断が生じていたのであった……。

 

 

   *  *  *  *

 

 

不死王 「いきなり踏み込んでくるとは、不躾な奴じゃのう」

 

リュー 「すまんな、玄関がどこだか分からなかった」

 

不死王 「そういえば出入口など作っておらんかったな、ならば仕方ないか」

 

リュー 「…普段どうやって出入りしてるんだ? いや、そもそも出入りしないのか?」

 

不死王 「転移で出入りするから不要なのじゃよ」

 

リュー 「じゃぁ俺の入り方は間違ってなかったんじゃないか……」 

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

不死王は、リューでも敵わないヤバイ相手でした……

 

乞うご期待!

 

 

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