第333話 謎の冒険者リリリ

ミィ 「馬車を破壊するんですね!」


だが、それを聞いた御者が慌てる。


御者 「ちょ! 壊されては困りますぜ旦那!」


ゴードン 「安心しろ、修理代は色をつけて払ってやる」


御者 「修理じゃ済まねぇでしょうが。壊れた馬車は置いていく事になる、そしたら修理も何もない、結局新車・・を買うしかなくなるじゃないですか」


ゴードン 「ええい、では馬車一台分まるごと買い取る! いくらだ?」


御者 「まるごと? ん~まぁ、馬車の車体一台で、金貨ヒャ……二百枚ってところですかねぇ?」


ゴードン 「何ぃ? それはいくらなんでも高いだろうが。というか、今、百って言い掛けなかったか? 金貨百枚だって高すぎるがな」


御者 「そう言われましてもねぇ、それなりに手を入れてチューンナップしてあるんでね。新しい馬車ハコを買えばOKってもんでもねぇんでさ。大事に乗ってきた愛車だ、愛着もある、端金はしたがねを払うから壊せと言われてはいそうですかとは言えねぇんでさぁ~」


ゴードン 「むむむ……」


多少高額になっても経費として奴隷ギルド本部に請求を回せると考えていたゴードンだが、さすがに金貨二百枚は高過ぎであった。今回の任務は “最重要案件” なので、本当に必要な経費なら出してくれない事はないだろう。だが、成功するかどうか分からない、その場の思いつきの作戦で金貨二百枚はさすがに賭けられない。


ゴードン 「仕方ない、馬車の破壊はあきらめるか。では故障したフリをしよう、それならいいだろう?」


御者 「ええ、まぁ、車体に傷をつけないんでしたら、協力してもいいですけどね、別料金になりますよ?」


ゴードン 「何?」


御者 「そりゃそうでしょう、あっしらは客を載せて運ぶのが仕事。演技など料金に入ってませんからねぇ。それなりに料金はずんでくれれば、頑張って演技もいたしやすが、あまりケチな出演料だと、ついうっかり、演技をミスってしまうかもしれやせんぜ?」


ゴードン 「くそ~足元見やがって!」


だが、その時、ゴードン達の馬車の行く手に、一台の小型の馬車が止まっているのが見えた。


御者 「おや、前方に何か居ますね?」


近づいてみると、どうやら魔物に襲われた様子だ。既に魔物は討伐され、魔物は解体作業中のようである。ただ、馬車は故障し、馬も死んでしまっている様子であった。


馬車を止め、ゴードンは尋ねてみた。


ゴードン 「どうした?」


解体作業を終えつつあった冒険者が手を止め、答えた。慣れた解体の手付きから男だろうとゴードンは思ったのだが、声を聞けば、意外にも冒険者は女であった。


冒険者の女 「魔物に襲われてね。魔物は全部倒した。ただ、ちょっと油断してね、馬車をやられちまったのが痛い」


ゴードン 「お前、一人か?」


女 「ああ、そうだよ、一人旅だからね」


ゴードン 「護衛もなく女一人だけで旅とは、命知らずだな」


女 「アタイは強いから。一人でも大丈夫なんだよ」


ゴードン 「冒険者か?」


女 「見れば分かるだろう?」


ゴードン 「名前は?」


女 「アタイはリリリ。リリリ・イルゥ。呼びにくいならリリィって呼びな。これでもAランクの冒険者だよ」


ゴードン 「Aランク!?」


リリィ 「言ったろ、アタイは強いって。で、アンタは? 人に名前を尋ねるなら、自分からまず名乗れって教わらなかったかい?」


ゴードン 「あ、ああ、すまん、俺はゴードンだ」


リリィ 「で、そのゴードンさんは、馬車を失くした可愛そうなリリィちゃんを馬車に乗せてくれるんだね?」


リリィが解体した魔物はいつのまにか消えていた。リリィは大きめの容量のマジックバッグを持っているようだ。マジックバッグはかなり高価な品なので持っていない冒険者が多いのだが、さすがはAランクである。


ミィ 「ゴードン様、どうしたのですか?」


ゴードン 「人前で様呼びはやめろ、外では冒険者らしく敬語はなしでいいんだよ」


ミィ 「すいません、ゴードン」


リリィ 「おや、あんた、ミィじゃないか」


ゴードン 「知り合いか?」


リリィ 「ミィは冒険者の間では地味に有名だからね。アタイと違って美人だから、ひと目みた男どもは、いや、女達ですら? 忘れられないとか」


ゴードン 「そりゃ……そうだろうな……。ミィは護衛に雇ったんだ」


リリィ 「へぇ、護衛ねぇ? こんな可愛い女の子一人だけをね?」


ゴードン 「俺も元Cランクの冒険者だ。辞めたとは言えまだ腕はなまっちゃいないつもりだ。Cランク級が二人も居れば、そうそう問題は起きないだろう?」(※ミィのランクもCである。)


リリィ 「別の問題が起きそうだけどね?」


ゴードン 「何の話だ?」


リリィ 「アンタがこの娘に手を出すんじゃないかって言ってるのさ」


ゴードン 「そんっ……なわけ、アルカ!」


既に手を出しているとも言えないゴードンはとりあえず誤魔化す。


ゴードン 「俺の好みはもっと熟した大人の女なんだよ!」


リリィ(シナを作りながら) 「あら、アタイみたいなののほうが好みだってか?」


ゴードン 「ばっ、お前などに興味はないさ!


…妙な奴だな。悪いがワケアリでな、お前を乗せてやる事はできん。だが、後からもう一台馬車が来ている。そいつらに乗せてもらうといい」


リリィ 「なんだい、乗せてくれる気がないのに止まったのか?」


ゴードン 「あやしい奴かどうか確かめただけだ。先を急ぐのでな、もう行くぞ」


リリィ 「あ、おい」


だが、ゴードンの馬車は情け容赦なく走り去ってしまった。


リリィ 「ふふん、まぁ、アタイ一人でも、別に何も問題ないけどね」


リリィは壊れた馬車をマジックバックに収納できないかと試してみたが結局挫折した。先に収納したオークの素材を全部出しても馬車は収納できなかったのだ。お気に入りの馬車だったが仕方がない、捨てていくしかない。


リリィ 「もっとでかいマジックバッグが欲しいなぁ……」


リリィは取り出したオークの素材を再び収納すると、街道を歩き始めた。一人で徒歩で街へ向かう。


リリィはAランクの冒険者の中でもかなり上位に位置する実力がある。先程もオークの群れに襲われたのだが、一人ですべて片付けてしまった。なるほど、それほどの力があれば、一人、徒歩の旅でも問題はなさそうである。


まだ日は高い。マルタンの街には日が暮れる前に辿り着けるだろう。





だが、リリィが街道を一人歩いていると、前からミィが徒歩で戻ってきた。


リリィ 「ミィじゃないか、どうした?」


ミィ 「リリィさんが心配で、戻ってきました」


リリィ 「ゴードンとか言うおっさんはいいのか?」


ミィ 「大丈夫でしょう。リリィさんを見捨てる事はできないと言ったら喧嘩になってしまって、私だけ降りてきました」


もちろん、そう言えとゴードンに入れ知恵されてのセリフである。リリィを利用して、リュー達の馬車にミィも上手く乗せてもらう作戦なのだ。


ミィ 「あの人も元Cランク冒険者だそうですから、大丈夫でしょう」


リリィ 「見捨てられなくて、ねぇ……


…何を企んでいるんだい?」


ミィ 「え? 何の事ですか?」


リリィ 「アンタ、奴隷だろ?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リリィ 「よく頑張ったね」

ミィ涙目


乞うご期待!



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