第299話 リューのランクアップ試験

というわけで、冒険者ギルドでBランク昇格を賭けた試験を受ける事になったリューであるが


ランクアップ試験は、


1.実績・資格確認

2.筆記試験

3.模擬戦

4.審査


となっている。


先程実績・資格の確認は先程終了しているので、次は筆記試験である。


筆記試験は、冒険者活動をするための知識に関する問題と、計算問題が出される。


どちらも、冒険者活動に関する問題は、普通に冒険者として活動していた者ならば答えられるような内容である。当然リューにも問題なく答えられた。


計算問題は、リューやヴェラなど日本での記憶がある者にとっては楽勝と思えるような小学生レベルの計算問題である。


この世界は、平民はよほど裕福でなければ学校に行く事はないので、高度な計算(掛け算割り算)がちゃんとできる者はほぼいないのだ。


※リューは幼少期に学校に通っていたが、養父がそれなりに大きな商家の主人だったので、将来商売を手伝ってもらうために子供達を学校に通わせていたのであった。


義務教育という制度はこの世界にはないので、平民の子供は幼い頃から親の仕事を手伝うのが当たり前なのであった。そうなると、簡単な足し算しかできないという冒険者も多い。それどころか、字が読めないという者も結構いるのである。


だが、高ランク冒険者となると、契約書を交わしたりしなければならないので、当然読み書きや計算ができる必要があるのだ。筆記試験はその能力を測るためにある。


そして、リューは筆記試験にもほぼ満点の成績を残した。ほぼ、というのは、冒険者の知識問題で、微妙な回答をしてしまった部分があったのだ。それは、リューは転移や収納など時空魔法を使えるため、移動やキャンプをする必要がないので、その部分で少し経験が浅く、知識があやふやであったのである。


そして、次は模擬戦である。





はっきり行ってランクアップ試験は模擬戦が最もウエイトが重いのだが、もちろん、この街のギルドマスター・キング程度ではリューの相手になるわけもないのであった。


一応、キングもBランクである。Dで一人前、Cでベテラン、そしてBランクと言えば達人級と言われるレベルである。しかも、キングはギルドマスターをやるほどであり、それなりに経験豊富なベテランのBランクなのであったが……


キング 「参った! 俺の負けだ! もう止めてくれ!」


一般的には冒険者ギルドの模擬戦では魔法が禁止されている事も多いのだが、魔法王国と言われるこの国では魔法を織り交ぜて戦うのは当然の事となっている。


そしてCランク以上ならば無詠唱で魔法が発動できる事は必須条件である。当然キングも無詠唱で魔法を放つ能力がある。


だが、リューには相手の魔法を封じてしまう能力が在る。しかし今回はそれは使わなかった。原点に戻る事にしたのだ。


リューが本気で能力を発揮すると、文字通り相手を瞬殺してしまう事も可能である。しかしそれをやってしまうと相手は負けた事が理解できない。そうすると、たまたま偶然、ラッキーで勝っただけだと言い張って納得しない者が結構多いのだ。


それを避けるため、リューは相手のレベルに合わせて戦い、それを上回って勝ってみせるという戦い方を(以前は)していた。所謂 “横綱相撲” というやつである。相手の得意な技や展開をあえて受けてやり、それを上回って見せるというのは、真に実力のある者にしかできない戦い方であり、そこまでされると相手も負けを認めざるを得ない。


ただ最近リューは、不死王に仮面をもらったおかげで魔法が自在に使えるようになり、それが面白かったので手加減についてはあまり考えなくなっていたのであったが、また原点に戻って横綱相撲をする事にしたのだ。今まではできなかった魔法戦の横綱相撲である。


模擬戦を行うために、ギルドの訓練場に移動したリューとキング。ヴェラ達も食事を終え、訓練場の客席に移動して見学していた。


模擬戦が開始される前、リューは鬼の仮面を装着した。それを見てキングは一瞬ギョッとしたが、戦闘用の装束だと言われ納得した。(リューが普段着けている仮面と違って、鬼の仮面には認識阻害の効果が掛かっていないので、装着すると周りからも違和感が丸わかりなのである。)


まずはキングは魔法を使わず木剣で攻撃してきた。(身体強化は使用している。)なかなか激しい猛攻であったが、それをリューはすべて見切って空を斬らせ、喉元に剣を突きつける事を繰り返した。


そのうち疲れてきて、剣では倒せないと悟ったキングは魔法攻撃に切り替えてきた。魔法王国のBランクだけあって、魔法による攻撃もなかなかに激しかった。


だが、リューはその攻撃を全て魔法障壁を張って受け止めて見せた。


通常、魔法障壁を使う場合、相手の属性に対応した属性の障壁を張るのが効率が良いのであるが、初めて戦うキングがどの属性の魔法を使うのかが分からなかったので、全属性対応の障壁を張った。そのために、予め鬼の仮面を装着していたのである。


鬼の仮面を使わず、全属性の魔法障壁を使わなくとも、リューは本来持っている時空属性の障壁 “次元障壁” を使えばあらゆる攻撃が防げるのであるが。


しかし、この国では英雄ドロテアの影響で魔法障壁についての思い入れが非常に強い傾向があるようである。そこで、あえてそれ・・を使って見せたほうが実力を示すのに効果があると判断したのである。


リューが張った全属性対応の魔法障壁―――ドロテアの「絶対障壁」と同じものであるが―――は、キングがどれだけ魔法で攻撃しようとも揺らぐ事は微塵もなかった。


しばらくの間、手加減なしで魔法攻撃を放ち続けたキングであったが、やがて魔力が枯渇し、攻撃が止まってしまった。


そこで、今度はリューが反撃の魔法攻撃を放った。キングも慌てて残った魔力を振り絞って魔法障壁を張ったが、障壁それは一撃であっさりと壊れてしまう。


それを見たキングは、リューの追撃が放たれる前に慌てて負けを宣言したのであった。


キングの障壁も決して弱いものではない。それをあっさり破るほどの魔法攻撃を受けたら、間違いなく死んでしまう。仮に生きていたとしても重症は回避不可能だろう。そのため、キングは必死で敗北宣言を叫んだのであった。





キング 「…いやぁ参った! これほど歯が立たないとは思わなかった。さすが、英雄ドロテアの推挙する男だ。これなら本当にSランクの実力があるかも知れないな!」


リュー 「Sランクってのがどれくらいの実力が必要なのか分からんが……。そう言えば、過去まえに一度、Sランクの冒険者と戦って勝った事があったな」


キング 「何? ほんとか? そのSランク冒険者の名前は?」


リュー 「なんと言ったかなぁ……ユミ……」


キング 「ユミというのか?」


リュー 「…弓を使うエルフの女だった。そうだ、確か名前はリーン、当時はバットと名乗って男のフリをしていたな」


キング(受付嬢の方を見て) 「知っているか?」


受付嬢 「はい、千里弓のバット、確かガリーザ王国の王都を襲ったドラゴンを退治したドラゴンスレイヤーで、恐ろしく長い射程の遠隔攻撃を得意とする弓使いだったと思います。ただ、急に引退してしまったとも聞きました。……もしかして?」


キング 「…まさか、そのバットを引退に追い込んだのはお前か?」


リュー 「いや。んん、まぁ…直接ではないが、影響はあったかもしれんな……。そう言えば、最後に会った時には故郷に帰るとか言ってたな……故郷ってのは、やはりエルフの国なのかな?」


どうやらSランク冒険者が引退したのもリューのせいらしいと知り、キングは引き攣った顔をしていた。





こうして模擬戦も終了、あとは人格等に問題がないかの審査であるが、ドロテアの推薦もあるのでその点も問題はなく、試験は合格と判断された。リューは無事、Bランクの冒険者証を受け取ったのであった。


さて次は、スケルトンのランスロット・パーシヴァル・エヴァンスの三人の番である。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


スケルトン、ランクアップ試験を受ける?


乞うご期待!



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