第298話 冒険者リューの記録

リュー 「? …どうかしたのか?」


受付嬢 「はっ! すみません、凄いポイントが溜まっていたので……


…リュージーンさんのポイントは、現在、約九万五千点ほどとなっています」


キング 「……なっ、なぁにぃぃぃぃぃ! きゅ、キューマン?」


リュー 「へぇ……内訳はどうなってるんだ? 履歴とか見れるのか?」


受付嬢 「はい、では、古い順に……まず、薬草採集依頼の達成件数が九百回以上、納品件数もそれに準じた回数となっています。これは、ガリーザ王国のミムルという街の冒険者ギルドでの記録ですね」


リュー 「ミムルの冒険者ギルドでの記録は失われたと聞いたんだが?」


受付嬢 「ええ、確かに、ガリーザ王国のミムルは災害にあって一度記録が失われたようなのですが、その後の調査で記録が復元できたと聞いています。街も復興しつつあるそうですよ」


リュー 「そうなのか…それは良かった。俺はミムルで三年ほど、薬草採集専門のGランク冒険者をやっていたんだ。ほぼ毎日薬草採集は行ってたからな、その時の記録が残っているという事だな」


受付嬢 「はい、それだけではありません、その後、ダンジョンを踏破されていますね? そしてそのダンジョンの管理者となって、ダンジョンを初心者向けに改造し、冒険者の育成に協力されていたと。その分の貢献度で一万点以上のポイントがついています」


リュー 「ほう、その頃の記録もちゃんと復元できたのか。…そういえばその後、一度、冒険者を辞めているのだが、それは影響ないのか?」


受付嬢 「はい、情報もポイントも引き継がれます。冒険者は一度引退してその後また復帰する人も多いので、引き継がれるようにしないとベテランの冒険者が初心者扱いになってしまいますからね。


ええっと…リュージーンさんは一度ミムルで冒険者を辞められて、その後、フェルマー王国のバイマークで再登録と記録されていますね。


次に、そのバイマーク以降の記録ですが……」


キング 「どうした?」


受付嬢 「凄いんです!」


なぜか受付嬢はポッと赤くなりながら言った。


受付嬢 「大部分のポイントは、バイマークでの活躍によるポイントのようですね。そこで七万点近く取得されています」


リュー 「ん? そんなに稼いだ覚えはないが……素材だってほとんど納品していないし。バイマークでは依頼も数えるほどしか受けていない気がするんだが?」


受付嬢 「記録によると……スタンピードがあった際の街の防衛に多大な貢献があったようですね?」


リュー 「ああ…そんな事もあったな……。ああいうのも記録されるのか」


受付嬢 「もちろん、立派な実績となります。スタンピードを収める事に多大な貢献をしたとなれば、当然、貢献度ポイントは非常に高いものとなります。冒険者ギルドが街の住民の多くの命を救った事になるのですから。


素材の納品はおっしゃる通り件数は少ないようですね。


ただ、Sランクの魔物、コカトリスの素材が大量に納品されていますね。それだけで五万点近くになっています。これは、そのスタンピードの時のものですね?」


リュー 「ああ、あれ。コカトリスの回収・処理は全部街の冒険者と騎士団に任せて放置してたはずだが、それもちゃんとカウントしてくれてたのか」


受付嬢 「それに、また? バイマークのダンジョンも踏破されていますね。あら、その後さらに別のダンジョンも?(※ロンダリアの不死王のダンジョンが踏破済みと記録されている。)ダンジョン踏破記録が三箇所もなんて、凄い……。超優良冒険者ですよマスター! なんでこんな方がFランクのままだったんです?!」


リュー 「いや、色々あってな」


受付嬢 「色々?」


リュー 「ギルドマスターに嫌われていてな。今思えば俺も意地になってた部分もあったんだろうな、ギルマスが交代した後もランクアップ試験を受けなかったんだ。その後、ギルドも脱退したのでランクアップに興味をなくしていたな……」


受付嬢 「ああ……時々ある話ですね、たちの悪いマスターの居るギルドに当たると……ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」


リュー 「別にあんたが謝ることではないだろう」


受付嬢 「いえ、ギルドの人間として謝罪いたします。こんな優秀な方を不遇な扱いにしていたなんて、許される事ではありませんから。


…それと、もしかして気づいていらっしゃらないのではないですか? 口座にかなりの金額が入金されたままになっていますよ。凄いお金持ち……」


受付嬢がゴクリと唾を飲み込み、上目遣いでリューを見た。


リューはなるべく報酬は現金でもらう主義だったのだが(ギルドで嫌がらせを受けた経験があるため、ギルドの口座をあまり信用していなかった)、ガリーザ王国で王から報酬を貰った後は、金銭的に余裕があって、ギルドからの報酬等をあまり気に止めていなかったのであった。その後、バイマークのギルドでは特に尋ねられる事もなく、当然の事としてリューの口座に振り込まれていたのであった。


受付嬢 「ただ、Sランクの受験資格十万ポイントには少しだけ足りません、あと五千ポイントほどです」


リュー 「高ランクの魔物の素材納入はポイントが高いって事だよな?」


受付嬢 「はい、そうなります。Aランクの魔物の素材であれば一件につき千点、Sランクなら一件五千点ですから、Sランクの魔物の素材一件納品でSランク受験資格達成ですね。と言ってもSランクの魔物の素材なんてそう簡単には手に入らないでしょうが……」


リュー 「あるぞ?」


受付嬢 「……はい?」


リュー 「ヒュドラの素材はSランクだろう?」


受付嬢 「毒竜ヒュドラですか? それなら確かにSランクですが……そんなの討伐できるわけないじゃないですか。だいたい、ヒュドラなんて災害級のモンスター、どこに居るというのですか。最近だと、どこかのダンジョンの最下層のボスモンスターがヒュドラだったって報告が……って? まさか?」


リュー 「ああ、ミムルのダンジョンのボスモンスターがヒュドラだったんだ、それを報告したのは俺だ。その時、ヒュドラの素材は売らなかったので、保管したままになっていた。それを納品すれば十万点は達成だな。ちなみに、他にも大量に収納に素材は入ってるが。


これでSランク受験資格はOKだな?」


キング 「ちょ、待て! 他には? 受験資格にはポイント以外にも条件があったはずだ。例えば、護衛依頼は受けているか? 貴族の護衛依頼を達成している必要があったはずだろ?」


受付嬢 「フェルマー王国のシンドラル伯爵の護衛依頼を達成した記録がありますね」


※リューがシンドラル伯爵を護衛して街まで送り届けた時は、リューは冒険者を辞めた後、再登録する前であったのだが、登録後にシンドラル伯爵がそれをギルドに申請し、報酬も振り込んでいてくれたのだった。


キング 「犯罪者の討伐依頼は? Dランク以上となるには、人を殺した経験が必要なはずだぞ?」


ドロテア 「ああ、それなら、この街の警備隊と騎士隊を斃した記録があるはずだ。この街の領主は反逆罪で逮捕されたが、その際、近衛騎士のブリジットの依頼を受けてリューが戦ったはずだ」


リュー 「ああ、そうだな。その前にもこの街の峠で盗賊を退治しているし、ガリーザ王国では戦争にも参加してるぞ。冒険者ギルドを脱退した後なので記録には載ってないだろうけどな」


ドロテア 「峠の盗賊の討伐についてはガーメリアが確認しているはずだ、報告がまだならガーメリアに証言させよう」


ガーメリア 「ほ、報告は済んでいます、たしかにリュージ―ンは盗賊を討伐している」


キング 「貴族の推薦状は? Aランク以上となるには貴族から推薦を貰う必要があるはずだが?」


ドロテア 「推薦なら私が書いてもいい、私は一応、現国王から公爵位を賜っている」


受付嬢 「いえ、推薦も既に出ています。フェルマー王国のシンドラル伯爵からですね」


リュー 「シンドラル伯爵が、そこまでしてくれているとは、知らなかったな」


キング 「エ、Sランクともなれば国から推薦状が必要になる、それはさすがにないだろう?」


ドロテア 「それならエドに推薦状を書かせてもいい」


キング 「エド?」


ガーメリア 「国王陛下の事だよ、ドロテア様は陛下と家族同然の間柄だからな」


キング 「エドワード王…様?」


受付嬢 「いえ、それは必要ありません、王族からの推薦も既にあります。ガリーザ王国のソフィ・ダ・ガリーザ女王から推薦状が出されています。さらに、フェルマー王国のハロルド・フェルマー国王からも」


キング 「マヂカ!」


リュー 「推薦とかまったく知らなかったな……。


…じゃぁ、資格はOKと言う事で、あとは試験だな?」


キング 「ちょ、待ってくれ! 実はな……この街には試験官を務められる者が居ないんだよ。


この街にはSランクところか、Aランクの冒険者すら居ないのだ……。悪いがそんな高ランクの試験を受けたいなら王都に行ってくれるか? 王都の冒険者ギルドならSランクでも試験官を務められる高ランク冒険者が居る可能性が高い」


リュー 「この街の最高ランクの冒険者はどれくらいのランクなんだ?」


キング 「お、俺が最高位だが、Bランク、だ」


リュー 「アンタは現役の冒険者なのか。じゃぁとりあえず、Bランクの認定だけでもしてもらおうか?」


ダヤンの街の冒険者ギルドで、リューはBランクの認定試験を受ける事になったのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


キング 「参りました! もう止めて~!」


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る